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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
21/844

名前、くれませんか。①

明日から仕事始めです…。

更新を続けられるようにがんばります。


本日分の投稿です。


よろしくお願いします。

その日、彼女は…彼女達は走っていました。

真っ暗な森は足元に枯れ葉の絨毯。

夜露に濡れてそれは足を絡め取る罠になりました。


「来てる、カルーア」

先頭にいる彼女の後ろから、小さな少女が声を掛けます。

彼女達の濃い緑色のローブは、夜の森では闇に溶けてよく見えません。


「わかった、ミシャ」

短く答えて、彼女は足を止め、木の裏に隠れました。

夜の闇で、敵の持つランプが揺らめきます。


彼女達には、もうひとり、守るべき対象が傍に居ました。

息を切らせ、同じように木の裏に入った彼女は、泣きそうな顔でうずくまりました。


追っ手は3人。

皆高そうな騎士の服を着ています。

あれは王国騎士団の団服でした。


「どうするカルーア」

「殺すわけには…私達は敵じゃないのに」


彼女達は、王子の近衛兵でした。

王子の思い人、隣国の姫君を招いた夜会で、当の王子が毒薬で殺害されそうになり、国は何故か姫君を犯人にしたのです。


苦しそうに喘ぎながら、王子が近衛兵に告げました。

姫は、犯人ではない。

どうか、彼女を隣国へ逃がしてあげてほしい。

そして、王子の意識は無くなったのです。


近衛兵はすぐに姫を連れて逃げました。

捕まったら、殺されないにしても、姫は国に帰ることは出来なくなるでしょう。

隣国と関係を悪化させたい何者かの陰謀でした。


…ゆらめくランプが近付いてきます。


カルーアは大きな剣をとり、決めました。

王子の望みは、必ず叶えると。



王国騎士団に深手を追わされながらも、彼女は勝ちました。

意識を刈り取った騎士達が目覚める前に、逃げます。

隣国までの長い旅は、まだ始まったばかりでした。


幾度となく騎士達が襲ってきます。

相棒のミシャも、隣国の姫も、必死で生き抜きました。

誰も殺さないで済んだのは、彼女達が強かったから。

しかし、山を越えればそこは隣国という場所で、彼女達は、とうとう包囲されてしまいました。


「囮になる」


ミシャが言いました。

その間に姫を連れて山を越えること。

カルーアは絶望的な状況でも諦めず、その案を飲みました。


数日かけて山を越え、国境の川に来たときです。

囮になったミシャを引きずり、王国騎士団が現れました。


ミシャは、ひどい傷をおい、カルーアと姫の前にぼろ切れのように転がされたのです。

かなりの拷問を受けたことがわかりました。

「助けたかったら、姫とこちらへ」

カルーアは迷いました。


ずっと共に過ごしてきた仲間。


姫は諦めて投降しようと提案しました。

もう耐えられないと。


しかし、ミシャが言いました。

痛い、辛い、もうだめなのがわかる。

どうせなら、貴女の手で殺して。


彼女の瞳は、痛みに絶望し、希望も失っていました。


騎士は、投降すれば彼女は助かると言いました。

けど。

けれど。

どう見てもミシャは。


「姫、あの川を越えてください」


カルーアは声を絞り出しました。


姫が踵を返し走ります。

カルーアは大剣を振りかざし、騎士達とミシャの元へ走ります。

振り下ろす大剣は、痛みを感じさせない速度で、ミシャに眠りを与えました。

騎士達は狼狽えました。

ミシャの名誉を、彼女は守りきったのです。


その間に、姫は川を渡りきり、それ以上追うことが出来なくなりました。



その後、カルーアは姫と隣国の城へ帰り着きました。

姫は正式な抗議を国から発行し、それからさらに数ヶ月で、犯人が捕まりました。

王子は、それから暫くして息を引き取り、この件はお互いの国によって和解が成されたのです。


カルーアは姫より、完遂のカルーア、と2つ名を承りました。

姫は、亡きミシャにも純白のミシャと2つ名を与えました。

哀しくも勇敢な物語は、ここに幕を下ろしたのでした。



******


カナタさんはそれを語り終えると微笑み、続けた。

「カルアは誰かの終わりに携わる自己犠牲が大嫌いです。諦めて受け入れることが赦せなかったんですよ」


俺はその時、気付いていた。


五感アップをかけたボーザックには、この物語が届いているってことに。


ちらりと後ろ姿を見ると、ボーザックは背負った大剣の柄を握っていた。


ディティアも気付いているのか、真っ直ぐにボーザックを見ていた。


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