目覚めの時ですか。④
「肉体強化、肉体強化、肉体硬化!」
全員にバフを広げると、すぐ傍まで下りてきたフェンが「がう」と鳴いた。
「試したいのか?……速さアップ!」
ぱかりと開いた口にバフを放り込んでやると、フェンは一直線にサイクロプスへと突っ込んでいく。
……前に戦ったサイクロプスは褐色で、山岳地帯に多い種類だったな。
こいつは色も見た目も少し違う。
岩場に特化した種類なのかもしれない。
『ルォォォウ!!』
「!!」
巨軀は、思いの外速かった。
向かっていくフェンに振り下ろされる棍棒。
しかし銀色の風となったフェンは、するりとその間をかいくぐる。
ドコォッ!!
地面に打ち付けられた棍棒に、すかさず間を縫って疾風のディティアが舞った。
「やあぁーっ!」
狙うは、その大きな眼。
ガチンッ!!
「…!」
ディティアが、直ぐさま飛び退いて距離を取る。
サイクロプスの瞼に、双剣が弾かれたんだ。
「硬い…岩みたい」
俺の隣に戻ってきて、ディティアが困った顔をする。
「それならグランの出番だな」
答えると、彼女は頷いた。
「グランさん、やっちゃってください!」
「ったく、仕方ねぇ…なっ!!」
ゴッ!!
大盾がサイクロプスを殴打する。
しかし。
サイクロプスが思わぬ速さで体勢を立て直し、棍棒が唸った。
「…っ、とぉ!?」
ガコオォンッ!!
グランが大盾で受けとめると、思いも寄らぬ大きな音が響く。
そこに、後ろからボーザックが斬り掛かった。
「やあぁっ!!」
ガアァンッ!!
「ちょっ、殴ったんじゃなくて斬ったんだけどッ!?」
弾かれて飛び退くボーザックを追いかけて、サイクロプスが身を捻った。
「……しかも速ッ!!」
たん、たたんっ!!
ボーザックは迫るサイクロプスから、さらに距離を取る。
「こりゃあ、魔法がねぇと困るな…」
グランが注意深く大盾を構えながら、ぼやいたのが聞こえた。
「そうですね…やっぱりファルーアがいないと駄目ですね!」
ディティアも双剣を構え直す。
「まあ、でも…ここはごり押すしかないよねー」
ボーザックはじりじりとサイクロプスとの間合いを測りながら、それでも明るい声で言い放つ。
フェンは諦めたのか、すたりと横にやって来て残念そうにあおん、と鳴いた。
俺は苦笑して、バフを広げる。
「ったく、しょうがないなあ。そんじゃ、ごり押してもらうとしますか!腕力アップ、腕力アップ、腕力アップ!!!」
「上等ォ!!おらあ!行くぞお前ら!」
グランが再度突っ込んでいく。
「おおおぉっ!!」
『ルオォォォッ!!』
グランとサイクロプスが吼える。
その大盾と、棍棒が、ぶつかり合った。
「っらあぁっ!!」
『ルグオオッ!!』
ガゴオォアッ!!!
お互いが弾かれるところに、俺はバフを飛ばす。
「脚力アップ!脚力アップ!!」
腕力アップを書き換えると、グランは踏ん張ってとどまり、蹌踉めいたサイクロプスに向かって再度飛び掛かった。
「腕力アップ、腕力アップ!!」
更に、バフを書き換える。
「おおおおっ!!」
ゴッッッ!!
「俺も行くよ-!!」
ドガアッ!!!
ボーザックが、グランの影から同じ場所を再度斬り付けた。
ここで、初めてサイクロプスの身体に傷がつく。
「いいぞ!!」
思わず言うと、その傷目がけてディティアが舞った。
「やぁぁっ!!」
ザンッ!
『ルオオアァァッ』
どうやら、表皮を突破すれば柔らかいらしい。
「がううっ」
その傷ならばと思ったのか、フェンが飛び掛かった。
『グルルルゥ!!』
呻くサイクロプス。
「ハルト!」
「おう!……いただき!!」
その間に詰め寄っていた俺は、双剣を振りかざした。
……
…………
「ふう~」
倒れたサイクロプスが動かないのを確認して、他の敵がいないかにも警戒。
……安全と認識した俺達はお互いに顔を見合わせ、思わず笑った。
「ははっ、硬かったね」
ボーザックが最初に口にする。
「うん、あと速かったぁ」
ディティアも、口元を被って笑いながら応える。
「ほんと、ファルーア様々だなぁ」
俺がぼやくと、グランが締めた。
「そのためにもそこの臭ぇ花、持って帰るぞー」
……ああ、そうだった。
「意識したら、すごく息苦しくなってきたよ、グラン~」
「うるせぇよ、気のせいだ」
「ひとり1本でしたっけ……うう」
「あー…ファルーア~恨むぞ~」
俺達は花を1本ずつ担ぐようにして、ラナンクロスト王都へと戻ったのだった。
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21日分の投稿です!
日付かわってしまいました…
夜にもう1話更新予定です!