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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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203/847

秘密を握る者。③

とりあえず、カルアさんにもロディウルの話をして、どうするかは一旦保留となった。


そりゃ、ファルーアもいるし。

まだ災厄の黒龍、アドラノードのこともある。


巨大な鎖で大地に繋がれ、埋められて山脈の一部となっていたアドラノード。

その鎖のおかげで、俺達は命拾いしたのかもしれない。


「聞いた話じゃ、会議の開催は決まったみたいだね。ラナンクロストで他国集めてやるらしい。集まるのにひと月は掛かるだろうから、それまでに考えりゃいいさ」

カルアさんはさばさばとまとめて、立ち上がった。


「それじゃ、邪魔したね」


******


その夜。


ギルド兼宿に戻り、会議までの今後の予定をざっくり決めて、白薔薇は各自自由行動にした。


グランはグラスを2つと、よく熟れた果物で造られた酒を持って、城へやって来ていた。


騎士の通用口から入って、長い廊下を歩き、ファルーアのところへ。


……白薔薇の、豪傑のグラン。

騎士達は彼を知っていて、当然のように通してくれる。


ちょっと前じゃ、まず有り得なかっただろう扱いに、ちょっとむず痒い気がしなくもない。


扉の前まで来て、グランは伸ばした手を止めた。

中に誰かいる気配がする。


……アイザックは、夜はシュヴァリエの所に戻っていると言っていた。

つまり、先客がいることになる。


そっと覗うと、小柄な双剣使いが、ちょこんと座っていた。


******


「あのねファルーア、今日の夜は自由行動なんだよ。ファルーアが起きるまで、昼間は依頼を受けることになって」

眠る、美しい人形のような女性。

しなやかですらりと伸びた手足に、女性らしい柔らかな曲線。

長い睫毛と、きらきらと滑らかな金の髪。


「……早く、起きてね」


今日のことを報告して、ディティアはそっと微笑んだ。

大丈夫。

ファルーアは、きっと。


一生懸命、そう信じて、そう祈っている。


不安はもちろんあったけど、白薔薇の皆はファルーアを当たり前のように待っていて。

時折笑顔も見せる3人が、とても眩しくて誇らしかった。


「……ファルーア、私、白薔薇になれて良かったなぁ」

口にすると、眠っているファルーアが微笑んでくれたような気がする。


そこで、ディティアは入口に誰かがいるのを感じた。

大分話に夢中になっていたようだ。


アイザックさんかな?

でも、シュヴァリエのところに戻るって言ってたっけ。



「……?」



待てど暮らせど中々入ってこない気配に、ディティアはそっと、足音を忍ばせて扉に近寄った。

「……どうぞ?」

「うおっ!?」

「……あれ?グランさん」


そこにいたのは、扉の横に、どっかり座ったグランだった。


……

…………


「声かけてくださいよ、変なこと言ってた、かなぁ…」

頬を押さえながら呻くディティアに、グランが笑う。

「悪ぃな、先客がいるとは思わなかったから、入るの躊躇っちまった」

「うー。……グランさんもファルーアに今日の報告です?」

「お?…おお……まぁ、そんなところか」

「流石ですねリーダー!」

「おだてても何も……いや、そうか」

グランは言って、グラスを2つ差し出した。

ディティアは、初めてグランがお酒を持っていることに気付く。

「もしかして、ファルーアと?」

「ああ。ちと酒でも飲み交わそうと思ってな……代わりに付き合え」

「……ふふ、グランさん優しいですねぇ!ファルーアが飲めないのわかってるのに、グラスが2つ!」

ディティアはグラスを受け取ると、グランに笑った。


素敵。

ファルーアも、きっと喜んでいるだろうな!


「……なあ、疾風」

グランはディティアのグラスに酒を注ぎ、苦笑いしながら言葉を紡いだ。

「……、何でしょう、豪傑のグラン」

ディティアは、自分が疾風と呼ばれたので、意識を切り替える。

グランは、何かを話したいのだろう。


「俺達は、どうするべきだと思う」

「ユーグルのロディウルのことですか?」

「ああ」

「……そう、ですね」


ディティアが逡巡する間に、グランが杯を乾かした。

美しい琥珀色のお酒を、ディティアは黙って注ぎ足す。


「俺は、訪ねてもいいと思ってる。しかしなぁ、災厄はあらゆる所に封印された、なんて言ってたのを考えると、危険だろう」

「……もし何かあったらと思うと、恐いですね」

ディティアも、お酒をちびりと飲んだ。

グランが呑むには珍しく優しい甘さで、驚くほど柔らかな口当たりのお酒だった。


果物の香りが口いっぱいに広がって、ディティアは小さく美味しい、と呟いた。


……グランさん、ファルーアのためにこのお酒を選んだんだろうなぁ。

ファルーアは、辛口のツンとしたお酒より、濃厚で甘いお酒を好んでいるから。


「ああ。何かあってから、後悔しても遅い。今回だってファルーアがこんなだ」

「それは……」

否定しようとするディティアを、グランが首を振って制した。

「自分を責めてるわけじゃねえ。やらなきゃならなかったんだ。……けどなあ、次ももし、やらなきゃならない状況になったら……俺達はやるだろう?」

ディティアは、ガツンと叩かれたような、ビリッと雷が走ったような、そんな気持ちになる。

「…………」

だから、黙って、頷く。


うん、きっとやる。

やってしまう。

私達は……白薔薇は、きっと。


「だから躊躇ってる。……疾風、お前は、どう思う」

もう一度、グランは、ゆっくりと問い掛けた。


実はグランは、ファルーア相手に1人問い掛けるつもりでここに来た。

いつも、何かを相談するのはファルーアだ。

2つ名の時も、そうだった。

答えてくれないのは重々承知しているが、そうせずにいられなかったのである。


ハルトやボーザックは、大抵はグランの決めたことならと笑うが、ファルーアは気に入らないとピシャリと文句を言うのだ。

良いバランスだろう。


けれど、今回はここにディティアがいる。

疾風のディティアは、強い。

間違いなく、白薔薇で1番だ。


同時に、恐らくは閃光のシュヴァリエでさえ手こずる……もしくは負けるだろうと思っていた。


そして、普段は大人しそうにしているが、実際は人を動かすことの出来る人間だということも、グランは知っている。


彼女には、リーダーたる素質が間違いなく備わっている。


「……豪傑のグラン」

そのディティアが、強い光を湛えた眼で、しっかりとグランを見た。


本日分の投稿です。

毎日更新するつもりで頑張っていますが、

遅れたり、出来なかったりする日が続いた日にも訪れてくださって、本当にありがとうございます。


初めましてのかたも、どうぞよろしくお願いします!


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