秘密を握る者。①
「見ていたぞ、白薔薇」
入城許可証を見せて、無事に城に入るその時。
突然声がした。
俺達は客人という訳ではないそうで、城門をくぐった後は城を左手にみながらぐるりと進んだんだけど。
そこには小さな入口があって、騎士達が使う通用口なんだそうだ。
「何だ?」
振り返って、びっくり。
煌びやかな空気が広がっていた。
ま、眩しい。
短めの銀髪に、蒼い眼。
シュヴァリエに似た雰囲気は、身内そのもの。
俺は、思わず呟いていた。
「出たな……」
現騎士団長、バルハルーア。
シュヴァリエ、それからイルヴァリエの伯父にあたり、災厄の黒龍アドラノードの亡骸を監視しているカルヴィエの実父がそこにいた。
「見てたって、何を?」
ボーザックが不思議そうに聞くと、バルハルーアは「はははっ」と白い歯を見せて笑う。
俺達の受付をしてくれた騎士は姿勢を正していた。
「新人騎士への教育を、だよ。不屈のボーザック」
うわあ、言い回しすらシュヴァリエっぽい。
顔を顰めていたのか、ディティアに突かれる。
……いつもなら、ファルーアからつねられるか蹴飛ばされていただろうな。
小さな入口の中は、騎士の詰め所になっていた。
木製の長テーブルと椅子、軽食が置かれていて、何人かの騎士が詰めている。
そこに通されて、俺達は有無を言わさず座らされた。
可哀想に、騎士達が立ち上がって姿勢を正す。
「お、お茶です!」
「ああ、ご苦労。……そうだマーデン、最近は模擬戦で成果が出ているようだね」
「……!は、はい!ありがとうございます!」
お茶を運んできた、何て言うか初々しい騎士に声を掛け、バルハルーアが微笑む。
グランが感心したように言った。
「騎士の名前、覚えてるのか?」
「当然だ、豪傑のグラン。……模擬戦の結果、警備の配置、全て確認しておかないと気が済まないのでな」
警備の配置まで…。
こいつやばいな。
「さて、テリアトが迷惑を掛けたね」
「ありゃあちと堪えたが、良い度胸はしてるな」
グランが答えると、バルハルーアはにっこりと笑った。
「流石、豪快で物怖じしないな、豪傑のグラン」
「いやあ、でもグラン、怒って思いっ切り殴ったしねぇ」
ボーザックが横で呟いて、ばこっと殴られた。
「痛い!」
それを見て、ディティアが笑う。
「騎士団には冒険者を良く思わない奴は多いのか?」
気を取り直したグランが聞くと、バルハルーアは頷いた。
「表立って口にする者は少ないがね。……冒険者の方が圧倒的に数が多い上、養成学校に行けばなれるのもあって、騎士の中では見下している者が多い傾向にはある。騎士になるのは採用人数や試験もあるおかげで狭き門だからね」
「まあ、見りゃわかるが……」
グランは詰めていた騎士達をじろじろと眺めた。
おお……居心地悪そうにしてるなぁ。
「そう虐めないでやってくれ。私自身は、よくないと思っているのでな」
白い歯を見せて、またバルハルーアが笑う。
これで、より煌びやかな空気が出せるのは不思議だ。
「それと……今回もご苦労だったね。おかげで我々騎士団は被害も無く終わることが出来た。冒険者の間で亡くなった者達がいることは、本当に胸が傷む思いだ。騎士達でも、祈りを捧げることを約束しよう」
そこまで言って、バルハルーアは何か手紙のような物を取り出した。
「……これを、君達に」
「何だ?」
「美しいメイジのところで開いてみてくれ。では、私は失礼するよ」
バルハルーアは意味深な笑みをひとつ零し、きらきらした空気を纏いながら居なくなった。
俺達は、とりあえずファルーアの治療室へと、移動することにしたのだった。
******
ファルーアは、幾分明るい顔色になっていた。
アイザックは昼飯に出ているらしく、入口に戻る時間が書かれている。
俺達は勝手に椅子を移動させて、ファルーアの傍に座った。
部屋は俺達が入ってもまだ広い。
大きな窓と、シンプルなブルーのカーテンに、アイザックの治療道具なのか薬みたいなものがずらりと棚に並んでいた。
専門書みたいなのも、別の棚にぎっしり詰まっているのがわかる。
そして、部屋の中央。
ファルーアが寝かされているのは、透き通る石の台で、ぼんやりと蒼く光っているように見えた。
「すごいね、これ、クリスタルじゃない?」
ディティアがそっと台をなぞると、中の光が呼応するように瞬いて、思わず息を呑む。
「……クリスタルってことは、魔力を注いであるってことか」
グランが言うので、俺は首を傾げた。
「エメラルドみたいなものってこと?」
「まあ、似たようなもんだな。魔力を溜めて、ゆっくりと放出するのがクリスタルだ。……つまりこれは……」
「俺のヒールが常時発動してる状態だな」
「うおお!?」
グランが飛び退く。
見ると、サンドイッチを片手に、黒ローブの大男が立っていた。
「戻る時間もう少し後じゃなかった?アイザック」
ボーザックが言うと、その親戚らしいアイザックは頷いて、笑う。
「ははっ、そのつもりだったが、お前らが来たって聞いてな。待ってろ、昼飯がここに届くから」
「そりゃありがてぇな」
グランは言いながら、バルハルーアから受け取った封筒をピラピラした。
「それまでに、とりあえずこれ見ちまうか」
「賛成~」
俺が手を上げると、フェンがわふっ、と鳴いた。
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