実を結びましたか。③
一瞬、濃茶の髪の騎士が上半身を引いたのがわかる。
……それくらい、詰め寄るディティアの勢いは凄かった。
「撤回してください」
「え、ええと」
騎士はしどろもどろ。
天気は良いのに、なんていうか不穏な空気が流れた。
「まあなあ…さすがにうちのバッファー馬鹿にされちゃあなぁ」
グランが苦笑する。
ぐるんぐるんと腕を回しながらだったから、ちょっと…いや、かなり威嚇に近い。
「あははっ、そうだねぇ、閃光のシュヴァリエが、わざわざ付けてくれた2つ名だしねぇ」
ボーザックまで悪乗り。
正直、俺にとっては嫌味でしかないけどな。
すると、軽そうな方の騎士が慌てて前に出てきた。
「すっ、すみません!!こいつ、閃光のシュヴァリエ様に憧れていて…まだ新人なんです!だから、その」
「先輩!…なんで、たかが冒険者なんかに」
「お前!その考えは間違いだってあんなに言ってるのに!」
お、おお……?
俺達は一瞬顔を見合わせた。
成る程、冒険者に偏見のある騎士も、騎士に偏見のある冒険者もいるとはわかっていたけど。
急に言い争いを始めてしまった2人に、逆にディティアが戸惑う番だった。
「ええ?あ、あの、喧嘩は良くないかなぁ……ねえ、とりあえず落ち着いて…」
すると。
振り向きざま、濃茶の髪の騎士が、言い放った。
「だってこいつら、仲間を守れてすらいないだろ!今回だって、死にかけのメイジが運ばれてたの見たし!!」
……!!
衝撃が、身体中を走った。
「…………あぁ?」
グランの声が低くなる。
流石にまずいと思ったのか、気圧されたのか。
濃茶の髪の騎士が黙る。
グランの表情は、怒りに満ちていた。
俺ですらあんまり見ることの無い表情だったし、ボーザックもあーあ、と肩を竦めながら、冷たい顔をしている。
フェンも、足元で小さくグルル、と唸った。
ただひとり、疾風のディティアだけは、真っ青になっていた。
思わず、彼女の横に並んだ。
「お前……俺達が戦ってた時は何してた」
「え……は?」
「俺達冒険者と、お前の崇拝する次期騎士団長が災厄と戦ってた時、何してた」
「さ、災厄……?」
グランの静かな声が、逆に燃え上がるような怒りを感じさせる。
冷や汗が出てくる程だった。
「ぼ、僕らは!ここで、避難してきた国民を受け入れてました!」
見かねた軽そうな方の騎士が、前に出てくる。
「すみません、本当にすみません!僕が言い聞かせます!」
ディティアと同じくらい真っ青な顔。
軽そうな割に、しっかり後輩を庇う姿勢には、好感が持てる。
けれど、そこまで。
流石に、言ってはいけないことくらいは学ばせておくべきだったと思う。
「先輩…」
「……足りねぇな」
「えっ?」
「歯ぁ、食い縛れッ!!!」
一瞬、グランと眼が合った。
怒っては、いる。
けれど、その紅い眼は俺に何かを……。
「!」
俺は、横を飛び出そうとするグランを見て、バフを広げた。
「肉体硬化!肉体硬化!肉体硬化ッ!!」
……ゴッッ!!
グランの拳が、濃茶の髪の騎士の左頬を捉える。
俺の広げたバフは、しっかりと、『濃茶の髪の騎士』に届いていた。
「……っ!!」
吹っ飛ばされて転がった騎士に、軽そうな騎士が慌てて駆け寄る。
「うあ、ちょっ……テリアト!!い、いくらなんでも今のじゃ……あれ?」
「いっ、てぇ……」
どうやら、濃茶の髪の騎士はテリアトというらしい。
頬をさするテリアトに、しかし軽そうな騎士は驚いた顔。
その頬は、あれだけ思い切り殴られたにも拘わらず、腫れてすらいなかった。
その代わりに。
「いってぇ……!!お前、ハルト!三重はねぇだろ!?」
グランに怒られた。
「いや、グランに殴られるのに二重じゃ可哀想だと思って」
しれっと答えると、グランは赤くなった拳を握ったり開いたりしながら、恨めしそうな顔をした。
「流石に痛ぇよ……何だよお前のバフ、反則だろ」
「いいだろ、いつもその反則使えてるんだからさぁ」
「あははっ、グラン手真っ赤だー」
騎士達と、ディティアが、ぽかんとしているのがわかる。
フェンは、呆れたようにふすぅっと鼻を鳴らした。
グランは、ふう、と息を吐き出して、言った。
「お前も痛ぇだろうが全く痕にはなんねぇよ。……逆鱗のハルトのバフ、すげぇだろ?」
「え……あ……?」
殴られたテリアトは、間抜けな顔のまま応えられない。
「……んだよ、もういっぺん試すか?」
「ちょ、ちょっ、豪傑のグランさん!申し訳ありませんでした!!本当にすみませんでした!テリアト!!」
軽そうな騎士が、半身を起こして転がったままのテリアトの頭を後ろからぐいぐい押して下げさせた。
「わかりゃいい。……行くぞー」
「はーい」
ボーザックとフェンが続き、騎士の横を何事も無かったように歩いていく。
俺は、まだ呆けたままのディティアの頭をぽんと撫でた。
「……ディティア。俺達も、ファルーアも、すっごい戦ったんだ。格好良いと思わない?堂々としよう」
「…………うん……うん!」
ディティアは、頷きながら唇を引き結んだ。
「そうだね、私達……たくさん戦ったもんね」
そうして、騎士の横を、同じように歩く。
少しして、ディティアは振り返った。
「……守りたい者を守れないのがどれだけ辛いか、想像だけでもしてみて、テリアトさん。貴方は、国民を守る騎士でしょう」
それを聞いて、俺は思わず微笑んだ。
カルアさんが実を結ぶって言ってたけど。
俺達のしたことはきっと、実を結ぶ。
そんな確信が、あった。
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