もう消えたいので。③
本日分の投稿です。
今年はお休みが短いので切ないです。
よろしくお願いします。
…それにしたって。
消えたいって言うならとどまっててくれよ。
俺はため息をついた。
アイザックの光の球で周囲は問題ない明るさだから、そこは安心だ。
けど、夕方以降はザラスさん自体が暴走するっていうし、時間が無い。
それにレイスの製造場所聞かないといけないし…。
ディティア、爆炎のガルフ、ファルーア、アイザックに魔力感知バフを三重にして、残りは五感アップと魔力感知を重ねて遺跡を進む。
とりあえず魔力の流れを探すだけで建物はスルーすることに。
そういえばザラスさん、昼間は意識有るんだろうに、戻ってくるって選択肢無かったのかな。
俺達はとりあえず奥へ奥へと進んでいったんだけど。
「うー、もう、ザラスさんってば。よし、皆さんちょっと待っててもらえます?」
しびれを切らしたのは意外にもディティア。
彼女は答えを待たずに、近くの建物の扉を撃破。
噴き出した炎をひらりと避けて中に入っていってしまった。
「大丈夫なのかい?…まあ疾風だしねぇ」
カルアさんですから意外そう。
俺は苦笑した。
数分と待たずに、彼女は屋上から顔を出した。
「あっちに魔力が見えますよー!」
「アグレッシブですねぇ」
カナタさんが笑った。
「屋上から誘導します、こっち!」
ひらりと屋根伝いに、文字通り風のように移動していくディティア。
白いタイラントの革鎧が光の球に照らされて闇に浮かび上がる。
「疾風は変わったのう」
ゆっくりと歩みながら白髭を撫で、爆炎のガルフが感嘆の声をもらす。
俺はその隣に並んで聞き返した。
「変わった?ディティアが?」
「そうじゃな。疾風はいつも後衛を守ろうとしていたからの…ひとりであんな行動、絶対にせん娘ッ子だった」
ほっほっ、と不思議な笑い声を響かせて、爆炎のガルフは笑った。
爆炎のガルフがこんなに笑ったの初めて見たかも。
「逆鱗にはあれじゃが、うちの閃光はな、そこを心配していたんじゃよ、ずっと」
「……うわあ、確かに聞きたくない名前だよ…けど、あいつがディティアの居場所を用意しようとしてたのはわかってるつもりだよ爆炎のガルフ。すっげー癪だけど」
「ほっほっ、そうか。…ほほ、そしたらいい情報をひとつやろう。海都オルドーアに行ったのも、そもそも疾風を追い掛けたからなんじゃ」
「え?」
シュヴァリエが、ディティアを?
わざわざ追い掛けてきたってことか?
「どこぞの名も無いパーティーに入って、海都に向かったらしいと聞いてのー、憤慨しておったわ」
「うわあ、それ白薔薇のことか?あいつ…確かに堂々と誘ってたしな。どういう神経してんだ、馬鹿なの?」
「ほっほっ、閃光を馬鹿呼ばわりするのはお前くらいじゃの!さすが逆鱗に触れられただけあるのう」
「ええ、俺、馬鹿にされてるよな、今」
爆炎のガルフは上機嫌なのか、何度も髭を撫でていた。
そして、意味深にひとこと付け足していった。
「疾風を誘うことを諦めておらんよ、うちの閃光は。せいぜい気を付けるんじゃな」
おい、シュヴァリエ。
お前、いい加減諦めろよな…。
******
「よっ」
少し低い建物の屋上から、ディティアが戻ってきた。
「このすぐ向こう側、大きな建物なんだけど、そこに魔力の流れが見えます」
「どれどれ…おお、見えた。あー、あの建物…だいぶデカそうだな」
アイザックが前の方に出て行って確認してくる。
俺はアイザックの頭上に輝く光の球を見て気が付いた。
「ん、何か天井低くなったか?」
それを聞いてディティアが上を見上げる。
「確かに低くなってきてた。もしかしたら、端っこまで来たのかな?」
崩落した場所からは南に大分来たから、確かに都市の端っこでもおかしくないかもなー。
北や東西にどれ位広がってるかはわからないけど。
問題の建物は、他とは造りが違っていた。
これは…ちょっと、見るからに怪しい。
何て言うか…何かを閉じ込めてたみたいな厳重さを感じる。
建物の外側に巨大な柵。
俺の2倍の高さはありそうな門扉は分厚そうで、表面には濃く渦巻く魔力の塊―罠だ。
そしてその横に、ザラスさんがやったのか大穴が口を開けていた。
「監獄みたいですねぇ」
カナタさんが似たようなことを考えてたみたいだ。
「はっ、囚人はレイスかもしれないねぇ」
カルアさんが受け答えして、大剣を抜く。
「もう夕刻に近い。念の為気を引き締めていくよ」
******
『…キタか』
ザラスさんは広間で待っていた。
彼の周りには紙の束がうずたかく積まれて、山になっている。
それ以外にも、箱のような物がいくつか。
どれも古ぼけてはいるけど状態は良さそうだ。
「居なくなったのでひやひやしましたよ」
カナタさんが肩を竦める。
『レイス製造方法の詳細ヲ集めておイタ』
すっきり無視してザラスさんがゆらゆらする。
そして、とんでもないことを言った。
『ツイデに、血水晶……イヤ、お前タチの言い方ナラ、血結晶もアル』
これには、皆驚いた。
ザラスさんは持っている鎌で箱を指す。
近付いて中を覗いてみると…。
「魔力結晶がこんなに!?」
ファルーアが飛び上がった。
箱の中身はあるわあるわ魔力結晶。
大きな物から指先大まで。
これは…山分けに出来そうだ。
『これで十分カ?…消してもらエルのか』
はっとする。
ザラスさんは、俺達が1度戻った後に移動し、これを集めてたんだろうな。
俺達が確実に、自分を消してくれるよう、その対価として。
「こんなに…ザラスさん、ありがとうございます。…望みは叶えましょう」
闇を纏うその姿は、どこか憔悴すら感じさせた。
紅く瞬く眼には、哀しみと期待がこめられているようで。
「おい、カナタ」
「ああ、わかりましたよカルア…。ハルト君、ごめんね」
「…えっ?」
次の瞬間。
飛び出したカルアさんだけが銀色に光った。
浄化のバフ!?
咄嗟にボーザックを振り返り、バフをかけようとする。
…間に合わない!
ボーザックもこっちを見ていて、驚いた表情になる。
「ゆっくり眠るんだ、もういいんだよ」
ザンッ!!
正直、驚いた。
一撃。
たった一撃で。
カルアさんが、ザラスさんを屠ったのだ。
その黒い姿は、一瞬にして霧散し、漂っていた魔力だけが色濃く残された。
「ちょっ、カルアさん!?何で!」
「そこの坊やには悪いけど、ガキすぎるからねぇ!悪かったねハルト。おい、ボーザックとか言ったね?」
「……え、あ」
呆然とした表情で、ボーザックが立ち尽くす。
「あーあー、まぁ言いたいことは解るけどなぁ…」
アイザックが、仕方ないとでも言いたげに呟いたのが聞こえた。
ツカツカとボーザックに歩み寄って、カルアさんは腰に手を当てた。
同じくらいの背なのに、カルアさんが大きく感じるほどのプレッシャー。
うわ、何か怒ってるよなぁ…?
「おい、坊や。あんたがトドメを刺したいってのは聞いてた。やらせるかはまた別だ」
「……どうして」
「あんたの事情なんて知ったこっちゃないんだよ。何もかも受け入れましたって面しやがって、気に入らなかったんでね」
「っ、俺は!」
「おい、歯ぁ食いしばれ」
「えっ!?ちょっ、うわっ!?」
ゴッ!!
ディティアとファルーアが息をのむ。
平手とかじゃなくてさ…カルアさん、拳でボーザックを殴り飛ばしたんだ。
カナタさんは額に手を当てて難しい顔をしている。
「あんたの事情はわかんないけど、何か、諦める人間の近くにいたことがあるんだろ?…それをただ受け入れたんなら間違いだ」
「……」
地面に突っ伏したボーザックは、殴られた左頬をそのままに立ち上がった。
「受け入れて、それでもあんたは辛かったはずだよ。違うかい?」
「…辛くなんか…。俺が、そう出来なかったから…。そうしてたらきっと…」
「ほら、何にも出来なかったことを理由に、辛いことを正当化してやがる。…よく聞きな、自分が手を下しても、辛いんだよ」
「…え?」
「その辛いはねぇ、今みたいな奴をやっても重なるだけなんだ。背負うことを知らない坊やには早いんだよ」
カルアさんは満足したのか、ふうーと息を吐いてボーザックに背中を向けた。
「あんたは、その辛いことを受け入れて生きるんだ、ただ受け入れるんじゃない、認めて、背負って、共にね」
******
資料は灰に。
魔力結晶は箱ごと回収した。
ついでに、爆炎のガルフとファルーアとで、建物自体を派手に壊しまくっておく。
「これだけやればいいだろ」
グランが土煙のあがる建物を見て言った。
俺達は地上へと戻ることにした。
ボーザックは頬を腫らしたまま、ぼんやりと歩いている。
カルアさんはいたって普通。
あれが、大人の余裕とでも言うんだろうか?
その姿を見ていたディティアが、何かを考えているように見える。
「ディティア?」
「…」
「おーい、ディティア」
「カルア、カル、ア。…。完遂のカルーア…」
「ディティア!」
「ひゃあ!?は、ハルト君!?何、どうしたの」
「どうしたのはこっちの台詞なんだけどなあ」
「ああごめん…。何かさっきの話、カルアさんのことで気になることがあってね…ちょっと一緒にカナタさんのところに行ってくれる?」
俺は頷いて、後ろを歩くカナタさんを振り返った。
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