有名になりませんか。①
疾風の2つ名を持つ双剣使い、ディティアが仲間になった。
俺達のパーティーは、数多の冒険者の興味の対象になったわけだけど。
「依頼、どうしようかな」
選ぶのは俺の仕事だ。
俺達の故郷のギルドには、早朝だというのに結構な人数がたむろっている。
街がそこそこ大きいため、新しい依頼をいち早く確認したい奴らが多いんだろう。
依頼の張り出された掲示板の前で悩んでいると、ちらちらと視線を感じた。
注目を浴びるようになったなあ…。
これが、興味の対象になった俺の最初の感想だ。
見てる奴の多いこと多いこと。
ディティアを仲間にした俺達が羨ましかろう!とか言ってみようかなと話したら、ファルーアに殴られたのは昨日の話だ。
「討伐依頼…よし、これにしよう」
まずは、ディティアと共に戦うときの陣形や、戦い方を考えるところから確認だって、グランも言ってたから、こういう依頼をいくつか熟すのがいいはずだ。
カウンターで依頼を受け、たくさんの視線を一切無視して、俺はギルドを後にした。
******
「ただいまー」
帰ると、居間にパーティーメンバーが集まっていた。
ギルドでは目立ちすぎるので、当面は俺の家が拠点になったのだ。
父さん、母さんは当然、疾風のディティアを知っていたので、特に揉めたりしなかった。
2人とも元々冒険者なだけあって、理解があって助かる。
「依頼受けてきたー」
ばさりと資料を置くと、早速グランが見てくれる。
「大型が2種類と、小型1種類。小型は10匹前後の群れだって」
付け加えると、ボーザックがうんうんと頷いた。
「陣形確認に複数戦闘の練習か。いいんじゃない?さすがハルト」
「早速行くのかしら?」
「そうだな。昼飯食って、討伐と行こう」
皆が話を進めるのでディティアを見ると、彼女は笑い返してきた。
うんうん、笑えるようになってきたな。
彼女の変化は、嬉しいものだった。
討伐対象は街から少し離れた場所に生息している。
たまに畑を荒らすため、定期的に討伐依頼が出るブタに角を生やしたような大型魔物が今回のターゲット。
話し合いは既に済んでいて、前衛に大盾のグランと大剣のボーザック、中衛にバッファーの俺と遊撃手としてディティア、後衛にメイジのファルーアとなっていた。
「目標確認!」
ボーザックの声で臨戦態勢をとる。
ターゲットは基本的に大盾のグランが受け持って、ボーザックがそのサポートをとるのが常だったけど、そこにディティアが入ることで討伐は楽になった。
正直なところ、今までは一撃が重い大盾と大剣で、隙が生まれやすかったからな。
俺はバフをかける以外は、実は双剣を使っている。
弓も考えたんだけど、間合いを詰められたら対処しようがなかったからだ。
それに、今までファルーアを守るのも中衛の俺が受け持っていたんで、バフだけに集中するわけにもいかなかった。
「ハルト君、もう少し高く構えるといいよ」
そこにきて疾風の登場。
自由に動き回る彼女はまさに風。
「お、おう」
ひらりと舞い踊る戦いっぷりときたら、もうなんか、圧巻。
しかも、いつの間にやらファルーアとの連携が凄まじい。
ディティアが斬った箇所で爆発が起こり、かなりのダメージを与えていくのだ。
本当、やばい。
このパーティー、強すぎる。
ちなみに、余裕が生まれたおかげでバフに集中出来たのも底上げになった。
俺はいつもより効果時間が短い代わりに威力の高いバフを順にかけていく。
戦い終わった後にディティアが感心したくらいだから、それなりにやれたんじゃないか?
「切れる瞬間にバフをかけ直してくれるからすっごく楽だった、私びっくりしたよハルト君」
「そうかな?なら良かった」
前衛2人も満足そうだ。
「それより、ファルーアとの連携が凄かったな。いつの間に?」
聞くと、ファルーアが笑った。
「今日からよ?ティアも私を見てくれるし、私もティアを見ていたからね」
「てぃあ?」
さらに初耳の単語に聞き返すと、今度はボーザックが割って入る。
「ティアか!いいね、俺もそれでいこうかな?」
ディティアはその提案に微笑んだ。
「あ、うん!ボーザックさんも是非」
「ついでにさん付け辞めてくれると助かるんだけどどう?」
「えっ、それは…むむ、そっか、わかった。ボーザック」
ディティアが順調に馴染んでいくのは、素直に嬉しい。
「じゃあ俺も君付け辞めてよ」
笑って言うと、予想外の返事をもらった。
「ハルト君?ハルト君は…うーん、ちょっと難しい」
「え」
驚いて彼女を見ると、ディティアは本当に悩ましい顔をしている。
「なんか、ハルト君はハルト君って感じがしてるんだよね」
「ああ、そうなんだ…?」
どう応えていいかわからず、ただ困惑する俺の肩に、ボーザックがぽん、と手を置いてきたから、俺はそれをはらって睨んでやった。
なんだよ、もう。
******
討伐依頼を全て終えると、夕方で。
今日も天気が良く、夕焼けが綺麗だった。
前を歩くディティアの髪が、夕焼け色に光る。
今ここに、彼女が居てくれることに感謝しないとな。
俺達パーティーは、もっと強くならないと…ひいては、有名にならないといけないんだから。
「しかし、思いの外やりやすかったな」
グランが満足げに言う。
ファルーアも頷いて、杖をくるくると回した。
「これなら、すぐにでも出発出来そうね」
「あー、そしたら俺、海がある方へ行きたい」
ボーザックは嬉しそうに続けた。
「内陸まわってたから、そろそろ海鮮がいーなって思ってたんだよ」
「じゃあ次は海都オルドーアにでも向かうか」
「賛成!いいよね、ファルーア、ティア!」
「あれ、俺が入ってないぞ、ボーザック?」
「ハルトの意見は反映されないからね、聞いてない」
「うわー、それ酷くないかー」
ファルーアとディティアから笑い声があがり、俺達は夕焼けの中、街へと戻るのだった。
続きは順次、投稿いたします。
よろしくお願いします。