実を結びましたか。②
ラナンクロスト王都。
小高い山がそのまま街となった、白と蒼の美しい都。
ダルアークを討伐するために出発して、戻ってくるまでに約3ヶ月程だろうか。
そんな長い期間でもないし、別段懐かしくもないわけだけど…帰ってきた俺達を迎える国民の歓声はなかなかだった。
やっぱり、うん。
感慨深いものはあるよなぁ。
アドラノード調査隊は既に募集が開始されていた。
各国から、10名。
総勢40名になる予定だそうだ。
彼等は考古学者、魔物学者等々、専門の知識を持った者達で構成される。
それとは別で、調査隊の護衛依頼が認証カード持ち専用掲示板に貼られていた。
******
俺達は、生涯無料で提供されることとなったギルド内の宿で、ギルド長と会っている。
ラナンクロスト王都ギルド長、ムルジャ。
見た目はまさに執事。
物凄い速さでくるくると回るペンは、1度見たら忘れられない。
「さて、この度も大変お疲れ様でした。……ファルーア様の件もお伺いしております」
しっかりと撫でつけられてオールバックにされた白髪交じりの黒髪と、美しく整えられた口髭。
ネクタイ、ジャケットも着こなした紳士である。
「そのファルーア様は、城で保護され、治療が行われておりますね」
「ああ。そうなるな」
グランが答えると、ムルジャはペンを紙に走らせた。
おお……達筆……。
「では、白薔薇の皆様、こちらにサインを。これは、ギルドが発行する通行手形のようなもの。城への自由な出入りを許可するものです」
さっ、とこっちに向けられた紙には、白薔薇の名前と、城への入城許可の内容が書かれ、ムルジャのサインが完了していた。
分厚い羊皮紙には薔薇の型押しがされていて、見た目も綺麗だった。
たぶん、それもムルジャの心遣いなんだと思う。
ギルド長って、何だかんだすごいよな…。
宿は広めの部屋で、6つの木製ベッド。
マットの上にシーツも有り、ふかふかの毛布も整えられた贅沢な空間だった。
使い込まれた艶のある丸テーブルには、白い薔薇が飾られていて、皆で囲んで食事出来るだけの大きさがある。
広い風呂には足を伸ばせるだけの湯槽もあって、もちろん、フェンも宿泊出来る最高の条件だ。
入城許可証をしっかりとしまって、俺達はギルド長に礼を告げた。
「じゃあ早速行くとするか」
******
城まではトロッコを利用した。
山をぐるぐると回りながら、何台もの5連トロッコが何往復もしているのがラナンクロスト王都。
主要箇所には大体停まるため、利用者は多いかと思いきやそうでもないのは、ギルドが貴族街と商店街のほぼ間にあるからだろう。
一般国民街、商店街、貴族街から成っている王都は、例えば一般国民が貴族街まで行くことがほぼ皆無なので、必然的にギルドから城方面に乗るのは冒険者かお貴族様ってわけだ。
しかも貴族達は馬車で移動することも多いので、トロッコにはそこまでいたりしないのである。
「中々快適だよねぇ」
ゴロゴロと走って行くトロッコの上で、ボーザックがきょろきょろする。
俺達白薔薇は、あんまり利用したことが無い……というか、する機会がそもそも無かったからな…。
ちなみに、昨日の夜にラナンクロスト王都に入った。
ファルーアは白い馬車でアイザックと共に城に連れて行かれ、俺達はギルドへと足を運んだのである。
ひと晩ちゃんとしたベッドで休んで、今日、ファルーアに会いに行くって時に、タイミングを見計らったようにギルド長がやって来たってわけ。
うん、やっぱギルド長はすごい。
ゆったりと大きな雲が流れていく青い空は心地良い。
時折漂うお昼ご飯の匂いに、思わず元を探してみたり。
それでも、俺達は昏々と眠り続けるファルーアのことを考えては、少し感傷に浸ったりしていた。
……そうこうしている間もトロッコは進み、城の前に着いた。
正門からはさすがに少し距離があって、城壁沿いに進んでいくと、巡回する騎士と眼が合った。
騎士団の制服で帯剣した2人組だ。
「…………」
「…………」
しばし見つめ合っていると、突然ひとりがあっ、と声を上げる。
「逆鱗のハルト……!?」
「えっ、白薔薇!?」
…………。
げんなりしてグランを見ると、嫌な顔をされた。
ひどいと思う。
明るい茶髪の軽そうな騎士は、失言だと気付いたのか口元を押さえた。
しかしもう1人の濃茶の髪の騎士は、じろじろと俺を眺める。
「弱そう……」
「聞こえたぞ……間違いじゃなくても口にするかなぁそれ…」
思わず文句のひとつも言ってやろうかと思ったんだけど。
ざっ、と。
踏み出した影があった。
「ちょっと!貴方達失礼すぎます!ハルト君は強いです!!」
「って、ええっ!?」
噛み付いたのは、意外にもディティアだった。
本日分の投稿です。
昨日は更新できずでした、すみません…。
基本的には毎日更新予定です!
たまにできなかったり遅れたりして申し訳ないかぎりです。
どうぞよろしくお願いします!




