実を結びましたか。①
俺達は、ファルーアとは違う馬車に突っ込まれた。
ファルーアの乗る白い馬車は、祝福のアイザックが常駐する回復の拠点なんだそうだ。
つまり、重篤な者達が乗せられているってこと。
アイザックはそこで昼夜問わず回復にあたるんだってさ。
「ハルト……床が痛いよ」
「言うなボーザック……」
「布でももらうかー」
平原を走る馬車は、街道に出るまで激しく揺れる。
ごろごろと転がされただけの俺達は、身体中をもろに打ち付けて泣く泣く過ごすしかなかった。
ボーザックに言われて応え、グランがぼやいたところに、さっと影がかかる。
「床に敷く布、持ってきたよ!」
「おおーさすがティア!」
そう。
影は、どういう身体をしているのか、先に動けるようになった疾風のディティアだった。
…………出発して、3日目の昼過ぎ。
いい加減寝ているのも飽き飽きしていた時のことだった。
「やっぱりディティアは頼りになるなぁ」
「悪ぃな雑用させちまって」
「ティアありがとー助かる~」
口々に言う俺達に、彼女はくすくすと笑う。
「いいんです!私も、白薔薇だもんね」
******
すっかり回復したフェンは、爆炎のガルフによって生み出された限りなくお湯に近い水で綺麗に洗われて、大移動する馬車達の先導を担っていた。
とはいえ、冒険者達はそれぞれの国に戻るため、それなりに少なくはなってたんだけど。
それから、伝達龍のお陰で飛躍的にスピードが上がった各国の交渉は、今のところ大々的に集まって、会議を開く方向で進んでいた。
参加するのは王達と、主要ギルド長、そして、冒険者の代表らしい。
当然、次期騎士団長であるシュヴァリエ率いるグロリアスは代表からは外れた。
「やはりここは白薔薇じゃろうな」
爆炎のガルフは白髭を何時ものように撫でながら、半分……いや、きっとほぼ全て、面白そうに言った。
「そういう事務的なやつはもう2度としたくねぇ……それにファルーアがいねぇ」
グランはげんなりしていたけど、どうやら決定しそうだ。
「アドラノードの素材やら、調査やらもあるしねえ。待つわけにはいかないだろう」
一緒にラナンクロストに来ることにしたらしいカルアさんも、そう言ってグランの肩をばしっばしに叩いている。
出発して1週間もすれば、俺達も普通に動けるようになっていた。
酷使した身体は、意外にも平常運転まで戻ってくれたんだ。
「バフを何回も重ねているうちに、身体が慣れていくかもしれませんねぇ」
カナタさんは俺達を見て、さらさらとメモに何か書いていた。
そうそう、余談だけど、フェンは時々カナタさんのバフに付き合っているみたいだ。
バフの効果の検証に、ひと役買っているらしい。
「偉いじゃんか、フェン」
俺が撫でてやろうと手を伸ばしたら、フェンはするりと背中を向けて、尾で叩いてきた。
「……フェン?撫でさせてくれるようになったんじゃないのか?」
暗に、バフしただろ?って気持ちを込めてみたけど……無駄だった。
くそー。
覚えてろよ?
******
そして、俺達は夕飯の後、皆で白い馬車を訪ねる。
星は相変わらず綺麗で、時折しゅーっと尾を引いて銀色が流れる。
……その度に、早く眼を醒ませ、また皆で星を眺めよう、と、祈るばかりだった。
「入るぞ」
「おう、来たか」
中に入ると、フカフカの絨毯を布団代わりに、3人の男女が寝かされている。
その1番奥に、アイザックがどっかりと胡座をかいていた。
アイザックのすぐ傍、2人の男女は脂汗を浮かべ、包帯をぐるぐるに巻かれて荒い息をしている。
……酷い怪我をして、まだ意識が朦朧としているのだ。
アイザックのヒール治療も続けられているけど、彼等の怪我……いや、損傷は激しく、一気には治せないらしい。
そのせいで、こうして高熱となり汗を滲ませながら、彼等は戦い続けている。
……とはいっても、この馬車には最初十人を越える人数が寝かされていた。
つまり、残りの者達は完治とは言えなくても十分動けるようになったか、永遠の別れとなったか……その二択だ。
アイザックは全てをひとり、背負っていた。
出来れば、この2人にも助かって欲しいと、そう願わざるをえない。
「今日はどうだ」
「いつも通りだ。……少し、治療は進んだが」
「そうか」
グランはアイザックと男女についての言葉を交わしてから、1番近くの彼女に眼を落とす。
これが、毎日交わされているやり取りだった。
呻く男女とは全く違う、人形のように静かに横たわる彼女は、本当に……魂が抜け落ちたかのような、そんな状態で。
俺達はその傍に座って、1日の報告をするのである。
治療のために殆ど馬車を出ないアイザックへの報告でもあるけど、それは完全に二の次。
未だ眼を醒ます気配の無いファルーアは、今日も、ただ、息をしていた。
5日分の投稿です!
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