華は散るだけなので。④
「やはり、魔物は魔法を食べることが出来るのかもしれません」
カナタさんの結論だった。
俺のバフはフェンに呑み込ませたし、まだ解明されてないけど魔物は食物から魔力を取り込んでいるものだと考えられる。
「僕達バッファーは、もしかしたら特殊なのかもしれませんね」
「特殊?」
「はい。古い文献になればなるほど、バッファーのことは載っていません。……目立たなかっただけかなと思っていたんですけどねぇ。もしかしたら、ですが……古代都市が滅亡する原因のひとつとなった病気……あれで、バッファーが生まれたのかなぁ、と」
「えっ?」
「昔の人ほどの魔力を、僕達は持ちません。強い魔法も使えない。それを補うためだったんじゃないでしょうか」
カナタさんの話は、果てしなく壮大だった。
確かに古代都市があった頃の人達は、強力な魔法を使い、それを可能にするだけの魔力を有していたんだと思う。
魔法が使えない人達ももっとずっと強かったんだろうな。
「夢が膨らみますねぇ」
にっこりするカナタさんに、俺は笑った。
******
「白薔薇の名前はよく耳にしたよ。ハイルデンの奴隷制度が廃止された時なんか凄かったね!」
カルアが笑うと、ボーザックが応えた。
「あの時は、人間相手だったから大変だったー」
「そうだろうね。まあ、よくやったね」
「へへー」
嬉しそうなボーザックに、グランも口元を緩める。
そりゃあ、完遂のカルーアはボーザックを不屈と名付けた存在だ。
そいつに褒められてんだから、嬉しいだろう。
感慨深い。
惜しむらくべきは、自分が転がったまま指先ひとつ動かせないでいることだ。
「そんで?豪傑のグラン。この後はどうするつもりなんだい?」
「あ?」
「ああ?」
「あっ、いや、すんません……」
少し向こうでボーザックがぶふーっと笑うが、何分動けない。
後で覚えてろよ……。
「とりあえず、ラナンクロスト王都へ移動する。ファルーアの治療に専念出来るのは王都らしいからな。……災厄の黒龍に関しては国同士が決めることだろ」
答えたグランに、カルアは腕組みをした。
「王都ね……確かに悪くない環境だろうね。……あんたらは、あの黒龍をどうしたいとかないのかい?」
「……ねぇな。あっても、素材のひとつふたつ貰いたいって程度。縁起担ぎも出来なそうだしなぁ」
「賛成~」
「賛成、です」
ボーザックとディティアが賛同すると、カルアは笑った。
「たまには欲張りな、仮にも英雄だよ?」
「それなら、華を咲かせたのはファルーアだな。あいつの意見を尊重する」
グランがたたみ掛ける。
カルアは、益々面白そうに呟いた。
「華は散るだけじゃないのさ。……実を結ぶんだよ」
******
結局その日、俺達の身体が動くことはなく。
幸い、水も飲めたし食べることも出来たんで、情けないことに給餌されるひな鳥のごとく、過ごした。
「水でも飲むかい?逆鱗の」
「お前からは絶対いらない」
「ふふ、言うと思った。……では疾風の、逆鱗のは飲んでくれないので、君に」
「えっ……い、いりません」
「残念ながら君に拒否権は無いんだよ疾風の」
「えぇ…!?」
爽やかな笑みをこぼして水筒を傾けるシュヴァリエは、明らかにからかいに来た様子。
「は、ハルト君!!ちゃちゃっと飲んで!!」
「えーっ、それ俺に振るか!?」
「振られたのは私の方なの!」
「ははは」
『笑い事じゃない!』
ボーザックにハモって返すと、そこにアイザックがやって来た。
「閃光の、遊んでやるな。……こいつらは絶対安静だ」
「祝福のがそう言うなら仕方ない。逆鱗の、しっかりと咥えたまえ」
「はっ?……んぐ」
突っ込まれた水筒は、飲みやすいように細い管が繋がっていた。
おお……飲みやすい……。
っていうか、これ、水じゃなさそうだ。
果物みたいな味がする。
少し感動していると、シュヴァリエは俺達全員に水筒を咥えさせた。
何だよ、最初から全員分あるんじゃないか。
「栄養が摂れるよう配慮した飲物だ。早く動けるようになりたまえ」
……悔しいけど、心遣いは有難い。
俺達はしばし無言で、飲物を飲んだ。
そうして、全ての怪我人が馬車に収められた頃、俺達も担がれて移された。
ディティアをナーガが担いだけど、氷のような眼に、ディティアは口を引き結んで冷や汗だらだら。
……可哀想に。
俺はフォルターに担がれて、ボーザックはカルアさんが、グランをアイザックが担いだ。
「感慨深いねぇ」
「いや、俺、今日は別に気絶してないからね?」
「ははっ、坊やは黙ってな。2度も担ぐんだ、感謝はしな」
「……うー。俺、ちょー格好悪い」
カルアさんとボーザックの会話に、思わず笑う。
すると、フォルターがふふっと笑った。
「お兄さんも、ちょー格好悪いからねー?」
「俺はいいんだよ」
「えー……。あ、そうだ、お兄さん。オレさ、ラナンクロストで冒険者養成学校行けないかな?」
「え?……何でまた?」
「お姉さんは、ラナンクロストが拠点なんだよね?」
「お姉さん??」
「あー、カルアのことですねぇ」
近くを歩いていたカナタさんが、笑みをこぼす。
俺は背負われたまま、もう一度呟いた。
「お姉さん……??」
「おいハルト?聞こえてるからね??」
「ええっ、それ俺のせい!?」
……空が夕焼け色に染まって、とてもきれいだった。
本日分の投稿です。
台風速いですね!
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