華は散るだけなので。③
「なっさけねぇなあ…」
グランがぼやく。
アイザックが頭上に投げ上げた光の球が、太陽みたいだ。
既に高くなった日と合わせてふたつあるようで、とにかく眩しかった。
しかしながら眼を閉じても瞼を透かして光は届く。
…うん、何て言うんだろ。
こう、眩しいからって顔を伏せることも出来ない。
指先ひとつ動かせないで、俺達は転がっていた。
バフ切れの身体は糸の切れた人形よろしく、突然倒れた俺達にアイザックが取り乱したほどだ。
ちなみに、最初に切れたのはグラン。
次にボーザック、それから俺とディティア。
いやぁ、かけ直せばよかったのかどうかすら、判断出来なかった。
すると、隣に転がったボーザックが、その向こう側に座っていたアイザックに話し掛けた。
「ねーアイザック-、土が温まってきて暑いんだけどー」
「知るか!……ったく、こんなところでバフ切れなんてやってくれるな」
「仕方ないだろー……俺だって万能じゃないの!」
「万能じゃないのは重々わかってる」
「えぇ……」
ちょっと酷い。
土の匂いと草の匂いが俺達を包み込み、まるで火山のようにくすぶる山脈が遠くにそびえている。
「……終わったねぇ」
ディティアがぼんやりと呟くと、グランが笑う。
「あぁ。……俺達の名前ががっつり広まるぞー」
「ファルーアにも2つ名付くよね?」
ボーザックが言うと、アイザックがおう、と答える。
「うちのじいさんが考えてたからな。炎を継ぐだろうよ」
「えっ?継ぐって何のことだ?」
俺が返すと、アイザックは笑った。
「ははっ、お前らは知らないか。彼の地龍グレイドスを屠りし伝説のパーティーは、全員『爆』の名が入ってるのは知っているな?」
あー、そういえば本で読んだ。
あの話をしたのは、ディティアの2つ名が付いた話をしてくれた時だったかな。
遠い昔のようで、俺は思わず苦笑した。
あの時は、こんなことになるなんて全く思ってなかった。
強くなりたい、有名になりたいって、ただそれだけで。
アイザックは同意と見なしたのか、話を続けた。
「爆の冒険者達は、自分の後継者に一部の名前を継ぐことにしてたらしい。爆炎なら炎、爆風なら風ってな。……疾風の、お前は風を継いだんだな」
言われて、ボーザックとは反対に転がっているディティアが、息を呑む。
「爆風の、ガイルディアさん……」
いつか必ず会いたいって、ディティア言ってたっけなぁ。
あの時の、花の咲いたような笑顔は、まだ俺達は見られていない。
……うーん、ちょっともやもやする。
「ガルフに会ったら聞いて、次は会いに行くぞディティア」
そこに、グランが声をかける。
ディティアが笑ったのがわかった。
「ほ、本当ですかグランさん!や、やったぁ……!」
「そのためには、早くファルーアに起きてもらわないとね~」
ボーザックの言葉に、アイザックが笑った。
「お前らは元気だなぁ……」
「わふっ」
既に自分で歩けるフェンが、同意するように鳴いた。
******
「白薔薇ともあろう者が、これは見物だね」
「出たな……」
思わず呟くと、颯爽と現れた白馬が俺を跨いで止まった。
俺の上で撒き散らされる爽やかな空気に、思わず眉をひそめる。
「いや、どけよ……」
「おや、これは失礼」
アイザックの光球を目印に、冒険者達が移動してきてくれた。
後方の馬車部隊も駆け付けてくれて、全ての冒険者達が合流する。
「そっちは」
「……予断を許さない者が多くいる。彼等はまだ戦っているよ、逆鱗の」
聞くと、答えが返された。
俺は眼を閉じて、反芻する。
誰もが無事ではすまないと、最初からわかっていたつもりだった。
けど、やっぱり胸の辺りがずきりと痛む。
どうか、頑張って、と。
俺は祈るしかなかった。
「さて、君達をどうしたものかね。馬車に突っ込めばいいだろうか?」
「とりあえず俺達はいい。先に怪我した奴等を回収しろ。ファルーアは……頼む」
グランが転がったまま答えると、シュヴァリエは「心得た」とだけ言って、ファルーアを抱き上げた。
うん、俺達、すごく格好悪い。
何となく、遠巻きにひそひそされているような気さえした。
「祝福の。馬車はどれだい」
「お、おう。……あの、白いやつに……」
「わかった」
すたすたと歩き去るシュヴァリエを見送って、アイザックは呟いた。
「驚いたな……あいつが自分から抱えるなんて見たことないぞ」
その近くに、いつの間にか黒いオーラを放つ迅雷のナーガがいたので、俺はそっと眼を逸らした。
やがて。
「うっわ、なっさけない」
「バフ切れですかハルト君?」
カルアさんと、カナタさんがやってきた。
ふたりは無事だったのかと思いきや、カルアさんの左腕には包帯が巻かれている。
「カルアさんこそ、怪我してるじゃんー」
ボーザックが言うと、カルアさんは左腕を掲げてにやりとした。
「あたしのは、カナタを守ったやつだから」
「いやあ、面目ないー」
ふたりはそのまま少し俺達を見回して、言った。
「ファルーアは…やっぱり倒れたのかい」
「ああ。かなり酷使しちまった」
グランの声は重い。
けれど、カルアさんはからからと笑い返した。
「あんたらがそんなじゃ、ファルーアが嫌がるだろ?自慢してやりなよ」
「……そ、そりゃあ勿論だが」
「今は耐え時ですね。……その間に、しっかりと休息するんですよ」
グランに、カナタさんが笑いかける。
そこで俺はふと思い出して、カナタさんに聞いた。
「そうだ、カナタさん。魔物にバフしたこと、ありますか?」
カナタさんはぱっと笑顔になって、きらきらと眼を輝かせる。
「実際は無いのですが、是非試してみたいと思ってました!まさか、ハルト君!」
「はい、フェンにバフを……確かに、付加出来たと思います」
カナタさんは言葉通り跳び上がって、喜んだ。
「それは!是非聞かせて……いや、先に僕の予想を話しましょう!」
「あーぁ、スイッチ入れちまって……。退屈だろ?あたし達は何か別の話でもしようか」
カルアさんが頭をかきながら、苦笑した。
本日分の投稿です。
基本的に毎日更新してます!
とりあえず当面はブクマ100人を目標にすることにしました。
がんばるぞー!
皆様のおかげで楽しくしています。
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