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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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195/847

華は散るだけなので。②

******


「待ってろよ、聞こえるか?……ヒール!……ゆっくり、深く呼吸しろ」


アイザックは俺を治療し、すぐにファルーアのところへ案内させた。

とげとげしい杖から、優しい光が散ってファルーアを包む。

動かすのも不安だったので、グランの上に倒れたままだった。


当のグランもまだ気を失ったままである。


「深く、深くだ。……いいぞ、大丈夫だ。……聞いてるだろう?」

アイザックは、意識の無いファルーアに語り掛けながら、必死の形相で魔法をかけている。


……その表情から、相当深刻なのだとわかる。


「……逆鱗の。疾風の。お前達はボーザックとフェンを連れて来い。出来るだけそっとだ、いいな?」

「……ああ」

「わかりました」

アイザックに答えて、俺とディティアは大きな岩の向こう側へ移動した。


「くぅん」

「フェン!起きたのか」


駆け寄ると、銀狼はそっと鼻を擦り寄せてきた。

「……そっか、もう大丈夫なんだな」

応えると、フェンは口を開けて舌を出し、はっはっ、と息をする。

血に濡れた毛も乾きつつあって、傷口が塞がっていることを物語っていた。


「フェン!?何、これ、こんなに血が……!」


それを見たディティアが声を上げる。

俺は苦笑した。


「後で説明するよ。とりあえず、ディティアはフェンを頼む。……脚力アップ、脚力アップ、肉体強化、肉体強化」


バフが切れたら、俺達はもう動けない。

6重は未知の領域だったから、意識を保ってられないかもしれない。

だから、多めに重ねておく。


「フェン、痛かったら言ってね」

ディティアがそっとフェンを抱き上げる。

「わふ…」


既にかなり大きくなっていた銀狼は、今やディティアと大して変わらない。

毛のボリュームを考えると、むしろ大きく見えすらする。



「よ、と」

俺はぐったりしたままのボーザックを何とか背負う。



治癒活性バフは効いているはずだ。

呼吸が整っているボーザックのひび割れた鎧が背中に当たって痛む。


この鎧は、ボーザックが旅立ちの日に一目惚れした物だった。

当時、お金なんてちっとも無かった駆け出し冒険者の俺達は、後で新調しろと何度も説得したのに、折れなかったのだ。


……そういうところも、不屈っぽいよな。


苦笑して、呟く。

「また、格好良い鎧見付けような」

すると。


「アドラノードの骨で造るのも、有りかもねー」


「っておい!起きてたんなら言えよな!?」


突っ込むと、背中が震えた。


「ははっ、今背負われて起きたー!……あれ、あの黒いの、アドラノードだよね。……終わったの?」


ボーザックが、いてて、と呻きながら意気揚々と尋ねてくる。

その明るさに、正直ほっとした。


「うん。……ファルーアは治療中だ。アイザックが来てくれた」

「えっ、アイザック?俺、どれくらい寝てた?」

「さあ?1時間か2時間か……?」

「流石に、岩の直撃は耐えられなかったかー」

「悪かったよ、俺のバフ不足だよな」

「あははっ、ハルト、何か素直だー」

「うるさいよ……?」


ちょっと恥ずかしくなって眉をひそめる。

それでも、ボーザックは背中でからから笑っていた。


「フェンも、ティアも平気そうだね。…よかったぁ。グランは?」

「ファルーアの下敷きになって昏倒してる」

「うは、何それ!残念だなぁグラン!」

俺はその言葉に、思わず笑った。


そうだな、残念だなぁグランのやつ! 


******


「……駄目だ、ここじゃこれ以上は無理だ」

アイザックが、ファルーアにかけていたヒールを一旦中断する。


ファルーアの下敷きになったままで眼が覚めたグランが、眉をひそめた。


「あぁ?……どういう意味だ、祝福」


「体力と魔力の消耗が激しすぎる。ヒールをかけ続けても急に元には戻らない。しかも、それだけじゃない。バフによる症状はヒールじゃ治せない上に、その間、栄養もとらなきゃならん。……ラナンクロスト王都まで移動する」


「えっ、いやいや。こっからかなりかかるよね?」

岩を背もたれにして座らされていたボーザックが目を見開くと、アイザックは首を振った。

「そうだが、他にどうしようもない。……シュヴァリエ達と合流して、まずは移動だ」


そんな。

ディティアが心配そうにファルーアのだらりと横たわる手を握った。


「おい、祝福」

「何だ、豪傑の」

「濁す必要は無ぇ。言え。ファルーアは、どうなんだ?」

「…………」

「言え」

「うちのじいさん……爆炎のガルフが、魔法の規模を見て危険だと言っていた。俺から見てもこれは……危篤と同じような状態に、見える」


……!!

俺達の誰もが、息を詰めた。


グランが、ゆっくりと、固く眼を閉じる。


アイザックは俯いたまま、付け足した。


「けど……伝言だ、白薔薇」

「伝言?」

「魔力を使い果たし昏睡した者が、数年後眼を醒ました事例があるよ、逆鱗の」


ぶはっ。


俺は、吹き出した。

「あ、あいつ……!」


グランも、ボーザックも、ディティアも。

ふふ、と、誰からともなく笑う。


俺も、笑った。

「ファルーア、根性あるもんなぁ」


俺達は頷き合って、まずは冒険者達と合流することにした。


しかし、そう時間が経たない内に、全員ごろりと転がることになる。


……バフが、すっかり切れていた。


あー……忘れてた-。


本日分の投稿です!

毎日更新を基本にしてます!


お陰様でブクマ人数が90人となりました。

皆様、本当にありがとうございます。


減ったりもするのでどきどきですが、

ここまでお付き合い下さる方に、

たくさんの感謝を。


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