炎の華なので。⑧
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「……やれるわ」
唐突に、ファルーアが言った。
グランが頷いて、魔力結晶を取り出す。
龍眼の結晶は煌々と光り、顔を出した太陽に負けていない。
一帯に渦巻く魔力が、身体にゆらゆらと纏わり付く。
凄まじい魔力が、溢れていた。
魔力感知バフをかけたら、きっと眩しくて眼を開けていられない。
「気張れよファルーア。……いくぞ!」
ぱりっ…………ゴガアァァアアンッ!!
グランが遠く、高く投げ上げた紅い石が、落下の衝撃で弾けた。
鼓膜がビリビリするほどの音。
すぐさま、メイジ部隊の上に炎の球が投げ上げられるのが確認出来た。
あれがもう一度上がる時。
それがファルーアの魔法発動の合図となる。
前衛達とメイジ部隊が撤退したら、2回目が上がる手筈なのだ。
俺達はファルーアに寄り添うようにして、辺りを警戒しながら合図を待った。
やがて。
ひゅうぅぅ―――!!
撃ち上がる炎の球が、燃え上がった。
太陽に照らされてもなお輝く炎にラムアルの髪を思い出す。
帝都で、きっとヤキモキしてるだろう。
ファルーアは龍眼の結晶にそっと手をかざし、すうっ、と息を吸った。
「……咲きなさい!!」
ファルーアの声が、響き渡る。
こおおおおぉぉぉっ……
初めて聞く音を立て、ゆっくりと。
濃いオレンジ色の炎が、全部で6枚。
黒龍を中心にして、放射線状に広がっていく。
かなりの規模で燃え上がったその炎は、疎らに生えた木々をも呑み込んでいく。
「すごい……」
思わず、声が漏れる。
こんなに離れていても、熱が伝わって来るほど。
ファルーアは眼を爛々と光らせて、手をかざしたまま、魔法を制御しているようだった。
ずおおおおぉぉぉっ…!!
異変に気付いた災厄の黒龍、アドラノードが、必死にもがいたように見える。
ゴゴゴゴ……!!
呼応した地面が、激しく揺れ始めた。
「……!」
ファルーアが蹌踉めくのを、グランがしっかりと支える。
「大丈夫だ、支えてやる。……しっかり狙え」
「……っ」
その時、ファルーアが食い縛ってこっちを見た。
俺は、その表情に、頷く。
「持久力アップ!」
既に4つを重ねていたバフを、5重に。
予想以上の消耗だったのだろう。
そして。
「炎の、華……」
ディティアが、呟く。
放射線状に広がった6枚の花びらが、ゆっくりと、中心を軸にして外側から持ち上がった。
それは、華が蕾へと戻っていくような、そんな姿に見える。
揺れは今も激しく続いていたけれど、俺達は息を呑んで見守っていた。
ごごごご……ごごっ!
「………!!来ますっ!」
「ガウガウッ!」
その時、ディティアがフェンとともに声を上げ、前方左方向を指差した。
「う、あ…」
ボーザックが呻く。
巨大な土煙が、木々を薙ぎ倒しながらこちらに向かってくる。
「まさか…あれ、尻尾!?」
大剣を構え、ボーザックが叫ぶ。
かなり、長い。
胴体より先に地上に出すことに成功したのだろう。
土煙の中、黒くて長いものがゆらりと揺れるのがわかった。
「…くそっ、ここまで来る!!…跳ぶか、受け流すか、選べお前ら!!」
「……っ」
あの尾を受け止めるのは難しいだろう。
けれど、受け流すことなら出来るかもしれない。
しかし、あの土煙を見る限り、受け流しただけじゃ巻き込まれかねない。
「跳びましょうグランさん……!」
同じ結論に達したのか、ディティアが双剣を腰に戻す。
「ファルーア、抱えられても制御出来るよね!?」
ボーザックが呼応する。
ファルーアは唇を噛み締めたまま頷いて、刺していた杖を抜き取った。
その間も、土煙を巻き上げながら黒龍の尾が迫ってくる。
「ハルト!必要な分を重ねろ!迷わずやれ!!」
グランの指示に、俺は息を思い切り吸って、ファルーア以外にバフを広げた。
「脚力アップ!脚力アップ!脚力アップ!脚力アップ!」
まだ、足りない。
そう思う。
「脚力アップ!……脚力アップ!!」
6重。
これを切らせたら、俺達はもう何も出来ないかもしれない。
ファルーア以外に投げたバフに、俺は頷いた。
あとは、跳んだ時に何とかするしかない。
「……フォローは任せて」
言うと、グランはにやりと笑った。
余裕は無い。
無いけど、無いからこそ、笑うんだ。
俺も、引き攣りそうになる頬をぐいっと引き上げた。
「大一番だぞお前ら!!やってやろうじゃねぇか!!」
「うん。……合図は任せてよ。フェン、俺に掴まってね」
「がうっ」
「…必ず、越えましょう、皆で」
「ははっ、俺達ちょー格好いいな!!」
ファルーアはそんな俺達に視線を向け、微笑んだ。
額には汗が浮かんでいたけど、それでも、ファルーアにしては優しい笑みだったと思う。
それを、グランがしっかりと抱えた。
「悪ぃなファルーア、ちと暑苦しいだろうが我慢しやがれ!」
ゴゴオオオオオォォォォッ!!
土煙が迫り来る。
尾の向こうは煙り、何も見えなくなっていた。
「構えて!!」
ボーザックの声。
俺達は腰を落とした。
「3……2……1……跳べえぇ――ッ!!!」
だんっ
全員が、踏み切る。
ズガガガガアァーーーッ!!
高く、高く、跳ね上がり…………俺達は凄まじい音と土煙に巻き込まれた。
本日分の投稿です!
今日も少し早めに。
基本的に毎日更新予定です!
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