もう消えたいので。②
あけましておめでとうございます。
天皇杯が決勝ですよ!
早速見てきます。
本日分の投稿です。
よろしくお願いします。
正直に言うと、何の感情もわかなかったんだ。
何百年、あるいは何千年かの時をひとりで過ごしたと聞いても。
暗闇の中で、何も変わらず朽ちていくだけの街を眺め続けたとしても。
冷たいと言われればそれまでだし、それでも赤の他人だからと言いはるつもりもなくて。
ただ、ふうん、と思った。
だってさ、自分が選んできた結果なんだよね?
なら、仕方ないんじゃないかなって。
俺はそう思ったんだよね。
だから消えたいって言われた時、初めてはっとした。
そっか、死にたくなるくらいに、辛くて悲しい時間だったんだって。
それなら、終わらせてあげよう。
******
「ねぇハルト」
「ん?どうしたボーザック」
「俺ね、ちょっと感傷的かもしれないー」
難しい顔をして彼が言うので、俺は首を傾げた。
いつもは前向きで笑顔を絶やさないような奴だし、不思議な気持ちになったって言うか。
「大丈夫か?」
「うん。でもちょっと頼みがあってさー」
「いいよ、何?」
「ザラスにトドメを刺すとき、俺がそうしたいんだけどー」
「…お前」
驚いた。
確かにその話はちらっと出てたんだよな。
仮にも、元々は人間で、記憶まであるし。
普通に会話もできるザラスさんを消すことは、人を殺してしまうことと変わらないんじゃないかって。
「そうだなあ、ハルトには聞いてもらおうかなあ」
俺はちょっと待ってと言って、2人分のお茶を持ってきた。
グランは今、アイザック達と話し合いをしている。
******
俺はね、ハルト。
元々、小さい頃に山間部の街から引っ越してきたんだ。
理由は簡単、魔物に襲われて街が壊滅したから。
原因は、街が無理に開発を進めて、魔物達のテリトリーに何の準備も無しに入っちゃったこと。
はっきり言って、自業自得だった。
しかもさー、街の運営の責任者が、俺の父さんだったの。
大変だったよー。
でもね、どんな苦しくても、俺には家族と過ごす大切な時間だったわけ。
父さんは、自分で選んだ結果だったから、受け入れていたんだ。
仕方ないことって。
けど結局終わりは来た。
母さんが亡くなったんだ。
最後に、言われたの、俺。
『もう耐えられない、辛くて悲しいの。ごめんね』
その時、その背中を押せていたらって、何度も思う。
押せなかったの、俺。
だからさー、ちょっと重ねちゃった。
消えたいって言われたら、そうしてあげたいって思ったんだよね。
そういう救いもあるんだと、俺は認めたんだ。
そうしないと、父さんが受け入れてたことも、母さんがやったことも、両方無駄だったってことになっちゃうからさー。
そこまで言うと、ボーザックは頷いて、手を握ったり開いたりした。
「俺に出来ることならしようって、決めたからね、俺」
俺は言葉が出なくて、ただボーザックの結論に驚いていた。
正しいとか正しくないとかわからないけどさ、たぶんボーザックなりに受け止めて、受け入れた結果なんだろう。
「1個いいか?…魔物じゃなくて、人間の命を摘み取るってことに近いけど、それでも本当に後悔しないのか?」
「うん。俺が決めたことだしね」
すげーなって思う。
自分の両親どちらかがその判断をしたとして、受け入れられるかわからないし。
俺はボーザックに頷いた。
「その時がきたら、必ず協力する」
皆にも伝えておこう。
******
結構な深夜になって、グランが戻った。
結局、ギルドには掻い摘まんで報告することに決めたそうだ。
けど、敢えて『これが掻い摘まんだ情報である』ことも伝えるとのこと。
ギルドには、国同士の問題にもなりかね無い旨を伝えた上で、調整を進めるように進言するらしい。
もちろん、俺達はグランの話に何の反対もなかった。
それから、散乱した書類も残ってるんで、この情報について後から来るはずの調査員が見付けてしまう可能性があるだろって話になる。
だから、遺跡内にあるであろうレイス製造施設をザラスさんに聞いて処分することを決めた。
「いつまでも隠してはおけねぇだろうが、少なくともすぐってことはないはずだ」
グランはそう言って、少し難しい顔をする。
それまでに、問題が起こりそうな大きな発見があった場合に、国同士でどうするか…書面に起こすなり、全体で協力するなり、そういうことが出来ればいいなと。
後は国同士とギルドの問題だ。
そして、俺は皆にザラスさんにトドメを刺すのはボーザックだと伝え、他のパーティーにもお願いしに行った。
カルアさんだけが、眉をひそめて何か言いたげだったのが気にかかったけど、皆の同意は得られた。
******
翌朝。
早速ザラスさんの所へ向かったが…。
「おやおや……いませんねぇ」
魔力の流れが途絶えている。
「まじか…早速面倒なことになったな」
アイザックがため息をついて、きょろきょろする。
「おい重複の、逆鱗の。バフでなんとかなんねぇのか?」
「ふうむ、魔力感知を重ねがけくらいしか思いつきませんが、僕は二重が限界ですからねぇ」
「それじゃあハルトがかけたらいいじゃない」
ファルーアに言われて、ぐっ、と詰まる。
「ご、ごめん…俺、まだ魔力感知は使えな…」
「覚えなさい、今すぐよ」
「うえぇ」
「早く」
カナタさんを見ると、とても嬉しそうだった。
「では、みっちり行きますよハルト君!」
その日、折角なので調査を進めながら魔力感知バフ修得を進めることになった。
9人もいるんで、調査自体は楽ではあるけど、歩きながらのバフ練習はきつい、すごく。
それがさあ、カナタさんが思いの外、スパルタなんだよ…。
必死に手の上にバフを練る。
安定したバフにするためのコツを、カナタさんが横から見ながらアドバイスしてくれた。
時には「それじゃあ4回前と同じミスです、覚えてます?」とか刺されるんだ…。
おかげで、ちょっとした調整とかがすぐ直せるから効率が良いけど、戦闘には一切参加してないというバッファーとしてあるまじき状況にいた。
ザラスさんが求めているはずの魔力の流れは全然感じられず、五感アップだけボーザックとディティアにかけて警戒を任せてあって、なんて言うか自分の存在意義を疑ったよ、俺。
昼を過ぎたくらいだろうか。
地図もそれなりに記入が進んだ頃、俺はカナタさんに手の上のバフをかざした。
「……うん。納得いく安定感だね」
や、やった……!!
どっと疲れが。
「出来たの?ハルト君!」
ひらりとディティアがそばに来るので、俺はふふんと笑った。
なんと、建物の窓から降りてくるお転婆ぶり。
「ディティアを一番最初のバフ対象にしてあげよう」
「わあ!やったー!」
無邪気に喜んでくれる双剣使いに、早速バフ。
「とりあえず三重にする。見えなければ四重で試そう」
「わかった!」
ディティアは楽しそうに、バフを受けた。
「どう?」
「………うーん?」
「あれ、その辺の扉の罠とか変わった?」
「…うーん」
「……グラーン!場所変えよう!バフ出来たからさあ!」
「あぁ?」
ディティアが飛び降りて来た窓から、グランが顔を出す。
「うん、そうしよう、それがいいねっ」
ディティアはあははと作り笑いした。
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