炎の華なので。③
「…五感アップ、速度アップ!」
五感アップをボーザックに。
速度アップを全員に。
俺達はフォルター達の陣へ急いだ。
程なくして、ボーザックが大剣を構え、フェンが鳴いた。
「ウォウッ」
「魔物の群れだ!襲われてる!……ハルト!」
「おう!速度アップ!」
俺はすぐにバフを広げて、草がまばらに生えた土を蹴り、さらにスピードを上げて走った。
黒い波が冒険者達に襲いかかっているのがはっきりわかる。
そいつ等は、トカゲのような形で二足歩行の魔物だった。
…かなりの数だ。
「蹴散らすぞ!」
「はいっ!」
グランに応えたディティアは、フェンと一緒にスピードを上げた。
ボーザックがそれに続く。
魔物達は俺達の存在に気付いて、数頭がこっちに向き直る。
キンッ……バシィッ!
先に戦闘に入っていたメイジ達の鮮やかな連携。
氷の塊が魔物達に襲いかかった。
そこに雨のように矢が降り注ぎ、魔物達に混乱が生じる。
最前線で指揮を執っていたフォルターが、こっちに気が付いて手を上げた。
「お兄さん!お願い!」
「任せとけ!」
俺達は魔物の群れに飛び込んで、片っ端から斬り伏せていく。
「うーっりゃーあ!!」
ボーザックがぐるりと大剣を振り回す。
その合間を縫って、ディティアとフェンが攻撃を繰り出した。
グランは手近な敵を殴り飛ばし、時には短剣で突いて、数を減らしていく。
「ハルト!」
「大丈夫っ……はあっ!」
気合一閃。
俺は魔物を蹴り飛ばした。
その瞬間に、より強く蹴るべく、脚力アップをかける。
派手に吹き飛んだ魔物に、フォルター達から歓声が上がった。
「お兄さんやるぅ!」
「へへっ」
フォルターに褒められて思わず笑っていると、すぐ真横で黒い影が斬り伏せられた。
「うわっ!?」
思わず飛び退くと…ひらりと小柄な影。
「もうハルト君!調子乗らないの!」
……魔物を倒し、さらに警戒しながらディティアが隣にやって来る。
危なかった…。
「はは、ごめん……」
「あははっ、お兄さんかっこ悪~!」
「フォルターも!早く倒しちゃうよ!」
ディティアに怒られて、フォルターは何故かぱあっと目を輝かせ、ますます笑顔になった。
「疾風のディティアのご命令とあらば!……じゃあ皆、仕上げといこう!」
それを聞いたボーザックとフェン、グランが、さっさとこっちに集まってくる。
「やれるなら最初からやれよな…」
グランの声は……聞こえてなさそうだな。
フォルターが左手を上げると、弓部隊がキリキリッと弓を引き絞った。
左手はそのままに、今度は右手を開いて前に出す。
同時に、メイジ達が杖を構えた。
「1隊!!」
『やぁー!!』
フォルターの掛け声に合わせ、氷が、魔物達を囲むように弾ける。
「2隊!!」
『はぁっ!!』
氷を逃れて真ん中に寄り、固まった魔物達を、さらに土壁が隔てる。
「3隊!!」
『おおおっ!』
ごおっ!!
土壁の中で炎が踊った。
「こりゃ、大分統率取れてんな」
グランが囲いから漏れた魔物をぶん殴って、感心した声を上げる。
「弓、てぇー!!」
ヒュバババッ!!
続いて振り下ろされる左手。
同時に、弓部隊が囲いの内側へ矢の雨を降らせた。
ギャオオオウ!!と、激しい断末魔が幾重にもなって響く。
しかし、フォルターの右手はまだ翳されている。
俺は、息を呑んだ。
「突け!!」
ゴッ――!!!
ぎゅっ、と。
握られた右手。
その瞬間……!
囲いの中。
前後左右の土壁が、内側に向けた何本もの針となって突き出される。
……文字通り、魔物達は沈黙した。
「よーっし、残りもやるよ!!」
意気揚々と声を上げるフォルター。
ダルアークの狩り部隊の士気は高く、まだまだ残っていた魔物達が、逃げ出そうとする。
…………しかし。
あっという間に、魔物達は殲滅された。
*****
「あれだけいると、1度じゃ囲いきれなくてさ。お兄さん達来てくれて助かったよ!」
笑うフォルター。
確かに、数は多かった。
どうやら魔物達は災厄の黒龍アドラノードのブレスと同時に現れたらしい。
山脈から逃げる途中だったのか、もしくは餌となる魔物達が既に山脈から逃げた後で、獲物を探していたのかもしれない。
……フォルターはそう言って、屠った魔物達を一瞥した。
「さてと。それじゃあ炎の球投げてー!他の陣に安全だって合図送らないとね。日も暮れてきたし……ねぇお兄さん達、どうすんのかな、このまま移動は無し?」
また黒龍アドラノードが動いてブレスが吐かれたら対処出来ないかもしれない。
確かに、下がるって手もあるんだよな…。
フォルターの意見を聞いて、考える。
けれど、俺は首を振った。
「まだ移動の話は出てないよ。……ブレスは、口の奥が光った後に、放たれるまで少し時間がある。それから、そんなに広範囲じゃなかった。首を横に振られない限り、逃げられる可能性は高いと思う。注意して」
「そっか、わかった。じゃあ、何かあったら連絡してよ」
高く上がった炎の球を見上げながら、フォルターは少しだけ笑った。
「ブレスが吐かれても無事だし、やっぱお兄さん達ついてるね」
毎日更新予定!
と言いながら、やはり日付が代わったりしてしまうという……申し訳ないです。
皆様いつもありがとうございます。




