炎の華なので。②
「くそっ………皆無事か?」
すぐに身体を起こして第二波を警戒しながら、グランが言った。
振り返ると、ブスブスと色々な物が燻っていて、辺りは焦げ臭さで満ちている。
煙は上がっているけど視界はそれ程悪くない。
災厄の黒龍アドラノードは、首を降ろして沈黙した。
今ので、溜めた魔力をかなり使ったのかもしれない。
「……いた……っ」
「!、ファルーア、大丈夫か?」
立ち上がったファルーアが、顔を歪める。
「ええ、痛みはあるけど生きてるわよ。飛ばされて足を挫いたみたいね」
「……待ってろ、おい、アイザック…………っ」
呼んで、気が付く。
………あいつら、何処行った?
「……え?」
煙る先は、ブレスが大地を割って線を引いている。
その向こう側に、彼等は逃げたはずだった。
「……」
しかし、人影が見当たらず……。
「……おい……ボーザック?」
少し、声が震えた。
他の皆は、呆然と向こう側を見ている。
そして。
「……ぶっはー!うわあー、びっくりした!!」
「!!」
ひょこりと。
地面から、頭が飛び出した。
俺はあまりの衝撃に、一瞬後退った。
ボーザック達はブレスが通ったより向こう側に出来ていた穴から這い出てきたのだ。
「ばっ、馬鹿野郎!脅かすんじゃねぇよ!?」
状況を飲み込んだグランが怒鳴る。
「ええ!?な、何、どうしたの!」
驚くボーザックに、俺はへなへなと座り込んだ。
「あ……あーもーーー!!びっくりしただろ!ふざけんなよー!」
「ボーザックの馬鹿!」
「本当……最低だわ」
俺に続いて、ディティアもファルーアも怒った。
どうやら、爆炎のガルフが魔法で穴を作り、爆風から身を守ったらしい。
「ええーっ、な、何か、あれ?ごめんなさい?」
俺はボーザックにふんと鼻を鳴らして、後から出て来たいかつい黒ローブを見た。
「アイザック!ファルーア頼む!」
「お?怪我したか、待ってろすぐ治してやる」
いそいそと走ってきたアイザックにファルーアの治療にあたらせて、俺達は被害状況を確認。
……幸い、ちゃんと逃げきり、奇跡的に全員無事だった。
ファルーアのように怪我した人は数名いたけど、それでも皆意識もあり、すぐに動くことが出来る程度。
テントの殆どは壊滅したけど、食糧や水は更に後方の馬車隊が持っていてくれるので、大した被害ではなかった。
「生きていたか」
そこに、白馬を駆るシュヴァリエが、栗毛の馬に乗ったナーガを伴って現れた。
元々、グロリアスの隊は俺達の隣の陣だ。
アイザックとガルフが、解読のためにこっちに来ていただけなんだよな。
……シュヴァリエは珍しく焦った様子だった。
俺は思わず、からかってやろうと声をかける。
「よお、さすがに焦ったか?」
「……そうだね……僕としたことが、多少取り乱したようだ」
え。
「あ、あー……そう素直に言われると調子狂うな……心配すんな、こっちは誰もやられてないぞ」
瞳を伏せたシュヴァリエに、ちょっと罪悪感を覚えて答える。
すると、わさわさと長い睫毛を2~3度瞬き、シュヴァリエはにやりと笑った。
「まあ、このくらいで死なれては名折れもいいところだね。君はそれくらいしおらしくしていてもいいんじゃないか、逆鱗の」
ぶわあっ、と、爽やかな空気が撒き散らされる。
「っ、お、お前……!わざとかよ!性格悪いなあ!」
ふふっと笑うと、シュヴァリエはすぐにガルフに言って炎の球を頭上に掲げさせた。
「問題無い場合の合図だ」
すると、離れた箇所からもいくつか炎が上がる。
他の場所も大丈夫なように見えた。
……しかし。
「あれ?あっち、何か違う……雷みたいなのがあがってるよ」
眼の良いボーザックが指差した。
確かに、だいふ離れた場所でチカチカと瞬くそれは炎ではなさそうだ。
晴れた空の下でも、青白く光っているように見えた。
「あれは……ハイルデン組か?」
グランがそっちを見遣る。
「そのようだね」
シュヴァリエも、その隣に馬を寄せた。
ってことは、フォルターが率いるダルアーク部隊もいるはずだ。
「そっちのパーティーはこの陣で使えそうな物を回収してくれ!まだ燻ってるから火傷すんなよ!」
グランは指示を出して、肩を回す。
「俺達はハイルデン組のところへ行く。……ありゃ、問題が起きた時の合図だ。ハルト、五感アップをボーザックに。ファルーア!行けるか!」
「ええ、もう平気よ。……ありがとうアイザック」
「おう、気にするな。閃光、俺達はどうする」
ファルーアが立ち上がるのをディティアが様子を見ている横で、アイザックがシュヴァリエの指示を仰ぐ。
「……ふむ、相手がブレスを吐くことがわかったからね…爆炎の、祝福の。それから、白薔薇のメイジにも協力を頼みたいが、どうかな豪傑の。機密文書を至急読み進めてほしいと思っている」
グランはそれを聞いて、ファルーアを振り返る。
ファルーアは肩を竦めて、頷いた。
「わかった。ファルーアは残ってもらう。……見たところ機密文書を集めてたテントも塵になってるが、それは?」
「ああ、それなら数冊、私が持ったままよ」
「ほっほ、奇遇じゃな娘ッ子。ほれこの通り」
ファルーアと爆炎のガルフが、分厚い本を何冊も出した。
どこに持ってたんだよ…っていうか、そんなの持ってるから足痛めたんだな…。
呆れた顔をしていたのか、ファルーアにじろりと睨まれた。
「ハルト?文句あるのかしら?」
「えっ?いや、そんな訳ないって。ファルーアさん流石っす!」
俺は慌てて答えて、グランの後ろに隠れた。
「お前ら、ちょっとは気を引き締めろ。…行くぞ」
グランが、呆れたように首を振った。
本日分の投稿です。
基本的に毎日更新(仕事やらで遅れたりします)です!
どうぞ気楽にお付き合いいただけると幸いです。
更新初めて半年が過ぎました。
最近成長していないバッファーを、なんとかしたいと思います!
よろしくお願いします。




