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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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181/847

生まれ変わるので。⑦

伝達龍を飛ばした後、俺達は戦う方法について話し合うことも出来ず、とりあえずギルドの個室に戻った。


「ジャスティ」

そこで、ラムアルが皇子の名を呼ぶ。

彼は、ああ、と頷いてこっちを見た。

「少し…話しても?」


「おう。じゃあ俺達は席を外す」

グランが大きく頷き返すと、ジャスティはきょとんとした顔をして首を振った。


思うに、こいつ意外と純粋だったんじゃないだろうか?


「いや、いてほしい。これは、俺だけの話じゃないから」

「えっ、そういうもの?」

ボーザックが同じようにきょとんとした顔をする。


あー、若干雰囲気が似ているような、似ていないような。


どうでもいいことを考えていたら、話が始まった。


「…まずは、帝都での武勲皇帝魔物化、あれは全て俺……私が引き起こした。…謝ってすむ話ではないけど、本当に…申し訳ありませんでした」

立ち上がり、深く頭を下げるジャスティ。


1番驚いたのはラムアルのようだった。

「ジャスティ、あんた…!」

無理もない。

あの時、1番大きく取り乱したのはジャスティじゃなく、ラムアルだったんだから。


今でも、俺でさえ、はっきり思い出せる。

咆える皇帝、血に染まる部屋。

倒れた皇子、皇女達。


あの時、逃げるしかなかった時の、自分の不甲斐なさ。

思わず手を握り締めたら、ディティアの手の甲がちょんと触れた。


「……」

エメラルドグリーンの眼が俺を真っ直ぐ見詰め、濃茶の髪を揺らして頷く。

俺は思わず微笑んだ。


うん、大丈夫。ありがとな。


声には出さずに口を動かすと、彼女も微笑んだ。


ラムアルは怒りたいわけではなさそうで、眉を寄せ、ぎゅっと唇を引き結んでジャスティを見ている。


「ラムアル姉さん、シャルアル。俺は…自分自身の不甲斐なさに、皇帝の息子として…情けなさしかない」

「…………」

どの口が、皇帝の息子とか言うんだよ、なんて思うことは無かった。

それくらい、この皇子の話し方は真摯で、悲痛だったんだ。


「まあ、ラムアル、シャルアル。……此奴はこの通り真っ直ぐすぎて、すっかり洗脳されていたように思う」

オドールが助け船を出すと、ジャスティは苦笑した。


「その、皇帝に成りたかったのは本当なんだ。何だかんだ兄さんは強かったけれど、民を率いていくのは絶対無理なくらい馬鹿だと思っていたし…。皇帝も常々、俺を倒せば皇帝にしてやるなんて豪語していたから…本気でそう思っていて。


ちゃんとはっきり、とんでもないことになったと気が付いたのはラムアル姉さんが、シャルアルと一緒にダルアーク討伐のためにここを空けた時。つい最近だよ」


「……もしかしたら、古代魔法でもかけられていたのかしらね」

ファルーアが金の髪をくるくると弄びながら、ぽつんと呟く。


「古代魔法か……どうだろう。そうであってもなくても俺は処刑されても余りある罪を犯したのは変わらない。……ラムアル姉さん、俺は、生まれ変わったような気がするんだ」


「生まれ変わった……?」


「そう。処刑までの少しの時間、精一杯生きられるようね。それまでは、ラムアル姉さん。ううん、新皇帝。サポートさせて、必ず役に立つ」


ラムアルは眼を見開くと、急に腕でごしごしと眼を擦った。

「ば、馬鹿言わないで!……誰も、処刑するなんて指示、出してない……!

武勲皇帝は、俺を倒してみろってあんたに言ったんでしょう!?ざまあみなさい、倒したのはあたしよ!


……だから、だからあんたは……あたしを、新皇帝を支えなさい……!

皇帝になりたかったら、勝負してやるわ!!

何度でもぼこぼこにしてやる!」


もう、後半は鼻もぐしゅぐしゅ言っていて酷かった。

それでも、グランが思わず目頭を押さえるのが見える。


ラムアルは、ジャスティが自分を取り戻したことを誰よりも喜んでいる。

それがわかる。


けど、ジャスティはそれに笑って、優しい表情で告げた。


「駄目だよラムアル姉さん。俺に罰を与えるのは、皇帝の役目だ。そこを履き違えてはいけない」


「……!……ほんと、相変わらずあんたは……!」


ラムアルは目元を被ったまま、歯を食いしばった。


俺達からしたら、処刑しろなんて何で言えるんだ、と思ったけど…。

これが皇族なのだろう。


しんとした空気が部屋に満ちた時、黙って聞いていた彼女は、いつも通りの無表情、抑揚の無いトーンで、言った。


「それなら、ラムアル。……ジャスティは、生まれ変わったらしい。もう、1回死んだ。罰は与えてある」


……シャルアルだ。


その言葉に、今度はジャスティが眼を見開く。


「私は、どの兄姉も馬鹿だと思う。武勲皇帝とまともにやり合った兄2人も、飛び出した姉2人も、情けないこと言って死んで生まれ変わったらしい兄も、皇帝としてまともじゃない姉も。……つまり、大人しく新しい命を差し出すべき」


ぶはっ。


噴き出したのは、ボーザックだった。

つられて、ファルーアが。

ディティアが。

俺も笑った。


グランだけは、目頭を押さえたままだ。


「あっはは、はー!そうだよジャスティ!だってさぁ、俺達、皇帝倒すためにめっちゃくちゃ頑張ったんだよ??そんで今、ジャスティをそんなにした奴のせいでもっとでっかい敵が出て来ちゃってさあ!簡単に新しい命捨てないでほしいな!」


「やだもう、こんな仲良し家族見せ付けられて、恥ずかしくて笑っちゃうわねティア」

「うん、これまでに仲間や家族を失った人達に失礼だよ、生きて、ジャスティ」


「おいグラン、大丈夫か?…ジャスティ、うちのリーダーの感動に水差すなよな」

「くっそ、ほっとけハルト!うるせぇよ!」


オドールも、珍しく口の端を上げて笑っている。


グランの足元で、フェンが馬鹿にするようにがふ、と鳴いた。


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