生まれ変わるので。⑥
ギルドは既に冒険者とダルアークの避難民でごった返していた。
それでも混乱まで至っていないのは、ひとえに帝都のギルド長、オドールの指揮のお陰だ。
彼は特例として上手く采配をして、帝都近隣の魔物討伐の依頼などを振り分け、ダルアークや冒険者を分散し、報酬を渡すことにしていたのである。
そのため、ダルアークもとりあえずの生活に困ることはなさそうだった。
そんな中で。
「ええと……これはそっち、こっちのは署名してそこに」
驚くべきことに、前皇帝の息子、ジャスティが、率先して動いていた。
焦点の合わなかった虚ろな瞳は今やしっかりと光を湛えている。
俺達からすれば、それは目覚ましい回復である。
何がそうさせたのかはわからないけど……優秀な仕事ぶりだ。
「えぇと、ジャスティ」
ラムアルが声を掛けると、ジャスティは驚いた顔をしてペンを置いた。
「あぁ……部屋を使う?」
「う、うん」
彼女はそわそわと答える。
「ジャスティ兄、ギルド長も呼んでほしい。……あと、食べ物」
シャルアルはさらりと対応して、要求をした。
******
俺達白薔薇とラムアル、シャルアル、オドールとジャスティは、軽食を囲んで小さな部屋に集まった。
「爆炎のガルフからの手紙は、災厄の魔物っていう伝承に関するものだったわ。ガルフも詳しく読み解けていないけど、ざっくりとした内容を記す、とあるわね」
まずファルーアが話しだす。
「災厄の魔物は、太古の昔から存在していたそうよ。彼等は……そう、複数いたみたい。彼等は、他の魔物と同じように魔力を糧として生きていた」
複数……あんなのが複数もいたのか?
俺達は顔を見合わせた。
「魔法を使う魔法都市と剣の古代都市、2つが鬩ぎ合っていた頃、魔法都市は魔物を従える術を用いて古代都市を攻めた…もしくは、自ら魔物になって攻めた…と読み解けるらしいわ」
「結果は」
グランが聞くと、ファルーアは首を振る。
「わからない、どうも、悪者は退治されてめでたしめでたしと記されているようだけど…それがどちらの陣営か書かれていないようよ。しかもこれ、なんと機密文書扱いらしくて」
「機密文書!?ただの物語なのに?」
ボーザックが眼を丸くする。
「そうなのよ。だから、隠したい何かがあったんだわ」
ファルーアがそこまで言うと、ジャスティが律儀に手を挙げた。
「………あ、どうぞ?」
ディティアが許可する?と、ジャスティは頷いて話し出した。
「色々…思うところはあると思うけど。今は、先に話を進めたい。いいかな」
落ち着いた、ゆっくりとした話し方には、知性が感じられる。
ラムアルよりも落ち着いたオレンジ色の髪は、少し長め。
眼は、ラムアルの紅と違い、武勲皇帝さながらの金色だ。
項垂れて身体を丸めていたあのジャスティと同じ人には見えないくらいだった。
「おう、話せ」
グランが堂々と頷く。
ジャスティは安心したように肩の力を抜いて、さらに言葉を紡いだ。
「ヴァイス帝国にも機密文書はある。しかも、同じように災厄の魔物の話。……こっちのは、ある日魔物の群れと共に魔法都市が攻めてきた……剣の古代都市側の話なんだ」
「えっ、そんなのあるの?」
「ラムアル、今は黙ってて。……ちなみに、私も機密文書の存在は知ってる。ラムアルが勉強してないだけ」
「あ、そ、そうだった?」
立場が無いとばかりに、ラムアルは首を竦める。
シャルアルは彼女を無視した。
「ジャスティ兄、それで?」
「うん。……災厄の魔物は、魔法都市が持つ兵器として出てくる。龍の形、人の形、狼のようだったとも書かれていて……さっきの話からすると複数いたんだろうね。……剣の古代都市は、その兵器…災厄の魔物を倒すために、奮闘するらしい」
「剣であんなのと戦ってたのか」
思わず口を挟むと、ジャスティは苦笑する。
「昔は、もっと強い人が多かったんじゃないかと思う。伝承はどれも、凄まじい魔法と、それを持ってしても拮抗する剣の古代都市の話ばかりだよ」
「それでそれで?どっちが勝つの?」
ボーザックが身を乗り出して先を促す。
「それが、こっちも中途半端なんだ。生贄を捧げて、災厄をやっつける。めでたしめでたし。……魔法都市とどうなったかなんて書かれてないんだよ」
「い、生贄?」
眉をひそめるボーザックに、ジャスティはさらに言った。
「それも詳しく書かれてない。……とりあえず、ハイルデンとノクティアの機密文書も当たってみたらどうだろう?」
*****
早速、伝達龍に内容を託して飛ばした。
すぐに見えなくなった小さな龍を、ラムアルがじっと見送る。
その方向は、災厄の黒龍アドラノードのいる方向だった。
開いてしまいました、いらっしゃってくれた方、
ありがとうございます!
基本的に毎日更新の予定ですが、
仕事などなどによってたまにこんな日が出て来ます、すみません。
約半年、皆様のおかげで180話です!
本当にありがとうございます。




