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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
18/844

もう消えたいので。①

本日分の投稿です。

毎日更新中です!


お読みいただきありがとうございます。

俺達は、固まっていた。


『……』


恐らく、レイスだかリッチだかも、困惑してるんだと思う。

ゆらゆらしながらも言葉は無かった。

カナタさんはひとり頷きながら、話を進めていく。


「貴方は魔力結晶の造り方を識っているのですね。この都市が破棄された理由も。ですので、それが識りたいのです。しかし!それだけだと貴方には何の得もありませんね?何か望みはありますか?」


黒い影は揺らめきながら赤い眼をちらちらと瞬かせた。


『お前タチは…いや、お前は、何をイッテいるのだ?』


はい、ごもっともで……。

「いいじゃないですか。識っておかないとこちらも不安になるでしょう?こんな大きな都市を放棄したんですから」

やっと我に返ったのか、年の功なのか…最初に言葉を発したのは爆炎のガルフだった。

「まあ、確かにのう…識っておきたいとは思うがのう…重複の、お前は歴史に興味があったんじゃったか…?」

「ああガルフさん。そんなに興味はありませんよ?ただ、魔力結晶には興味があったものですから」

「ああ-、そうなんだよガルフ。カナタは魔力結晶を調べててねぇ……遺跡調査も何回目だか」

ため息をついて、カルアさんは剣を降ろした。

ようやっと、皆が自分を取り戻しつつある。


『…変な奴ラだな。……ふむ、では取引だ』


「はい!どーんと!」

『消えタイのだ』

「……はい?」

『もう、消えたいノダ』

ゆらゆらしながら、そいつはそう言った。


******


さて、話をまとめよう。

レイスだかリッチだかは、元人間のザラスの記憶がある、らしい。

人が亡くなり、そこに特殊な条件下で魔力が集まるとレイス化する。

そして、レイスがさらに魔力を溜めるとリッチになるそうだ。

元ザラス曰く、生前の記憶は残っていたりするんだけど、記憶としてあるってだけで、自分はその人ではないと認識があるんだとか。


魔法都市では人が亡くなるとレイス化させ、魔力結晶を造っていたという。

記憶が残っていないレイスは凶暴なため即排除されていたとも教えてくれた。

記憶があっても、順番に排除されるそうだけど。

人権問題みたいなのにも発展したこともあるらしく、記憶があるレイスをどうするのかは何度も協議されたんだって。


さて、魔力結晶の製造、その方法だけど…。

レイスの血を抜き取り、特殊な方法で固めること、だった。


俺は別に魔力結晶も、歴史も、興味が無いから、それがどれだけのことなのかさっぱりなんだけどさ。

内容は聞いてて気持ちのいいものじゃなかった。


その特殊な方法っていうのは、抜き取った血を、生きている人間の身体…例えば掌の表面などに注入し、体内で固めるって方法だったんだ。


だけどやっぱり上手くはいかなくて。

原因不明の病が流行り、亡くなる人が一気に増えた結果レイスが溢れ、しかも死因が流行病だった場合はそのレイスからは血も取れず、最終的には手に負えなくなってしまったそうだ。


そもそも俺達が知ってるレイスからは血は出ない。

その詳しい理由は不明だけど、もしかしたらその流行病で生き残った人々が今の俺達の祖先なのかもな。


元ザラスは言った。

かつての同胞が血を求めるのは、記憶にもあったから仕方ないことではあったが、それでも、レイス化した後に血を抜かれる様は異常だった、と。

次々に処理されていく同胞を見て、徐々に凶暴化するレイスも少なくなかったらしい。


破棄されて残された都市の中、都市の魔力を集め果たした元ザラスは、この遺跡の奥でまだ来ないだろう終わりを待っていた。

体内に溜まった魔力が尽きれば、いよいよ自分も消滅できるはずだったんだと。

いつの間にか同胞は殆ど消滅し、この遺跡内にはあと十数匹が残っているらしい。

しかし、地震で崩落した場所から、魔力が再び流れ込み、状況は変わった。

空腹の身体は夜になると意識を保てなくなり、魔力の流れが集まる場所へと移動し始めたのだ。

そこで、今の場所に辿り着いた。


これが、全貌である。


「ふむ…僕らじゃ手に負えない規模になってしまいましたね」

カナタさんは眉をハの字にして、考え込んだ。

「ザラスさんを浄化するのは僕らであればなんとかなると思いますが…魔力結晶の製造方法をギルドに報告すべきかは正直判断がつきません」

「まぁなあ。最悪は血の出るレイスを生産する国が出るだろうよ」

グランがカナタさんの話を引き取って、ため息をついた。

「おい、重複の。お前は、魔力結晶の生産方法を識ってどうするつもりだった?」

アイザックが続ける。

「バフを込めたかったんです。まだまだバッファーはこの世界に少なすぎます。バフがあれば少しでも生き残る可能性が上がる。だから、バッファーの代わりになるアイテムを開発したかった」

カナタさんは丸眼鏡を直すと、両手を広げてみせる。

「けれどこれでは…人道的な問題にもなりかねません。祝福のアイザックさん、爆炎のガルフさん、それから白薔薇リーダーのグランさん。どうしましょうか」

話し始めた俺達を、紅い眼が見ている。

魔力の流れは相変わらず彼に集まっていた。

「……あのさ、ザラスさん」

『ナンダ』

「あんたはどうしてほしいの?結晶の造り方とか、また広がったらいいと思う?」

紅い眼が瞬く。

ディティアもそろそろと俺の隣にやってきて、彼を見上げた。

「その技術、安全だったのかな?」

ザラスは少し間を置いて、答えた。


『魔力結晶による戦争は世界中で起こっていた、と記憶がある。今は失われているのだとしタラ、新しい火種になるだろうな』


******


「……報告すれば、もっと有名になれるよね」

拠点とする地上部分に戻ってくると、ボーザックが戯けてみせた。

俺は笑い返して、その肩に軽く拳をあてる。

「でも戦争起こすとか、そういう悪名だぞー?」

「だよねー。俺は、ハルトみたいな英雄っぽい有名がいいからなあ」

「はあ?」

「かの飛龍タイラントを屠りし英雄、逆鱗の……あたっ」

「そういうのやめろよな!」

笑うと、ボーザックも笑った。


とりあえずザラスさんは置いてきた。

日が傾いてきたので、意識を保てなくなる前に1度戻ったのだ。

報告するかしないかは、持ち帰りの宿題だ。


待っていた3人には事情をざっくり説明し、詳細は省いた。

それだけ危険で重い内容だったしね。


それと同時に、考えた。

自分達は、どうするのかを。


******


その夜、俺達、白薔薇は屋上に集まっていた。

「俺は、ギルドに報告して後は任せた方がいいんじゃねぇかと思う。その方がギルドに恩をうれるからな。他の誰かが違う遺跡で情報を見付ける可能性もゼロじゃないだろ?」

グランが難しい顔で切り出した。

「でもそれは…各国に危険な情報を渡すってことよ?」

「そうですね、私もそれは現時点で反対です」

即座にファルーアとディティアが反対する。

ボーザックはさっきのように、

「悪名を売るのは嫌だなあ」

と頷いた。

「ハルトはどう思う?」

俺は、さっきまであれこれ考えたことを慎重に口にした。

「えっと、さ。何も、全部を馬鹿正直に伝えなくてもいいんじゃないかと思うんだ。クロクやユキに話したように、大切なことを省いた内容で。例えばさ、今のレイスからは血が出ないんだから、造れないだろ?」

聞いていたファルーアが、小さく唸る。

「成る程ね、例えば、レイスから製造されていたらしい、とだけ伝えれば…」

「あーそっかあ。嘘にはならないね」

グランはいつものように髭をさすった。

「確かにな。嘘を話したり黙ってたりして、手柄が横取りされるのも気に入らねぇと思ってたし、何より、後々それがばれたとして、冒険者として首を切られちまうんじゃないかと思ってな…それが恐ぇんだよ」

あー、確かに。

罰則は厳しい。

情報を隠蔽したとして、この規模のものはばれたら…たぶんもう冒険者ではいられない。

俺は、グランの考えに感心してしまった。

「…確かに、冒険者としてやっていけなくなるのは困るわね」

「うん…」

ファルーアとディティアも頷く。

グランはそれに頷き返して、ぽんと膝を叩いた。


「よし、俺達の意見はこれで決まりだ」



毎日更新中です!

また明日もお待ちしています。


がんばります。

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