生まれ変わるので。④
ゴゴゴゴ……
何度目かもうわからない。
激しい揺れは度々起こり、その度に黒龍が少しずつその巨躯を晒す。
飛龍タイラントの角よりはるかに太い爪を地面に引っかけるようにして、右の前脚が顕わになる頃には、俺達は山脈のなだらかな斜面に出ることに成功した。
後方に巨大な黒い龍。
土煙が立ち上り、まさに山から生まれようとしている風貌を、時折振り返っては確認する。
「あれ、本当にドリアドだと思う?」
木々も疎らになってきて見晴らしがよくなり、隣を走るボーザックが聞いてくる。
「わからない。そもそもドリアドだとしてさ、どうやって確認すんだ?」
「さあ…?喋るかもしれないよ」
「龍が?魔物だろ?」
「あんた達、元気ね…」
さすがにはぁはぁと息を切らせながら、ファルーアが言った。
あっ、そうか……。
「持久力アップ!」
ファルーアが、心底呆れた顔で俺を見る。
「わ、悪かったよ……その、気持ちの余裕が無かった」
俺はバフを広げて、片っ端から重ねていく。
20人は入ってないか……。
ひとところに固まって走ってくれているわけじゃないから仕方ないのもあるけど、まだまだだ。
「ハルトよぉ、お前、もっと早くかけろよ」
グランに言われて苦笑する。
「はは、悪い……」
その時、近くを走っていたディティアが、右を指差した。
「あれ、ねぇ、あれって」
視線を巡らせると……おお。
真っ白な馬が、7頭の馬を引き連れて走ってくるのが見える。
「来たか」
シュヴァリエがそう言って、指笛を鳴らした。
ピューゥイッ
白い馬達は一斉に向きを変えると、なんとこっちへ向かって真っ直ぐに駆けてくる。
「すげぇな」
グランが思わずと言った感じで呟く。
正直、俺もちょっと感心してしまった。
「早馬を出してこちらに避難用の馬車を向かわせよう。各国との連携も必要だろう」
何処が安全かなど、全くわからないからね、と。
シュヴァリエは続ける。
先頭で指揮を執るラムアルと、その近くを走るシャルアル、フォルターとすぐに話をして、シャルアルを帝都に、フォルターをハイルデンのマルベル王のところに向かわせることにした。
「グラン、ラナンクロストには…」
俺が視線を走らせると、グランもすぐに頷いてくれる。
「そうだな。……おい、閃光!」
「何だい、豪傑の」
「ふん、やっぱ悪くねぇな、2つ名を閃光様に呼ばせるのは」
「……ふふ」
「…お前らグロリアスはラナンクロストへ戻れ。これ以上の適役はねぇだろ?俺達は1度帝都に避難する。伝達龍で状況を送ってくれ」
グランが言い切ると、シュヴァリエは少し苦笑して見せた。
「君達にそんな指示を出される日が来るとはね。名付けた者として鼻が高いよ、逆鱗の」
「ふん、俺からしたら屈辱しかないけどな」
「では、我々はこのままラナンクロストへ向かう。馬はグロリアスで4頭、シャルアルとフォルターで2頭。残りは好きにしたまえ」
「言われなくても」
応えると、シュヴァリエは満足そうに頷いて、銀の髪をかき上げた。
「……逆鱗の」
「何だよ、まだ何かあるのか?」
「今回は仲間がいるだろうから無いと思うが、死に急ぐ戦いは許さないよ」
……!
俺は、武勲皇帝と戦っていた時のことを思い出す。
今も、あの時も、半分絶望的だった気がする。
あの時、こいつは……俺を諫めてくれた。
それくらいは、認めてやってもいい。
「無謀なことはしないし……士気だって高めてやるよ」
「ふ、それでこそ、名付けた甲斐もある」
「言ってろ」
俺達は、ほんの一瞬だけ。
視線を合わせて、お互いに背を向けた。
******
「行く」
シャルアルが言うと、ラムアルが馬上の彼女を見上げて何度も頷いた。
「気を付けるのよシャル!いい?帝都ではギルドを訪ねて……」
「……わかってるラムアル。うるさい」
「そんなー!……でもそのひんやり対応もやっぱり可愛いわね」
呆れる俺達の眼を余所に、シャルアルがこっちに頷いて見せた。
「すぐ戻る。頑張って」
俺達も頷き返す。
彼女の足元、馬の横には、銀狼が優雅に佇んでいる。
……シャルアルと一緒にフェンを行かせることにしたんだ。
馬の速さ調整と、護衛を兼ねて、である。
美しい銀狼は、ボスであるグランに鼻先を押し付けてから、踵を返して走りだした。
シャルアルの馬が追従する。
それを見送ってすぐ、フォルターが馬に乗りながら1度俺達のところへやって来て、マルベルへの書状を預かった。
「お兄さん達、死なないでよね。まだ色々と報酬もらってないしさー」
軽口を叩くけど、満身創痍にも見える。
痩せて痩けた頬は、それでも笑みを絶やさない。
「お前こそヘマすんなよ?檻に入れられたりとか」
応えたら、フォルターはますます破顔した。
「へへっ、うん!……ダルアークの皆をよろしく」
俺達は、ラムアルも含めて、しっかりと頷いた。
「よおし!ダルアークの皆!それじゃあ行ってくるから、また帝都でねー!ドリアドに付きたい人はそれでかまわないよ、ダルアークは好きに生きられる場所だ!」
フォルターの声に、何人かが呼応する。
フォルターは、それに手を振って駆け出した。
*****
はるか後方にいるはずの黒龍は、それでもまだまだ巨大。
身体の半分ほどを地上に出し、時折首を巡らせる。
予想以上に遅い動作のおかげで、だいぶ距離を取れたとは思うけど。
「ファルーア」
「何、ハルト」
急ぎ足で進むことすら限界にきたのはダルアークの人達だった。
恐らく、狩りを担当しない補助の人達や、実験部隊なんだろう。
そんな彼等と歩調を合わせ、俺はファルーアに声をかけた。
「魔物になってすぐってさ、動きが遅いとかあるのか?」
「え?……知らないわよそんなこと。…でも、そうね」
彼女はうっすらと暮れ始めた空を仰いだ。
「もしかしたら、身体を動かすのに慣れていないとか、いつから寝ていたかしらないけど、鈍っているとか。……ええ、あるかもしれないわ」
そう。
もしかしてあれがドリアドだとしても、そうじゃなくても。
簡単に山から這い出してきそうな巨躯がまだまだ埋もれているのは変だと、俺は、思い始めていた。
本日分の投稿です。
基本的に毎日更新予定!
毎日のつもりですがやっぱりたまに間に合わなかったりするので(´・_・`)
いつもすみません。
また、なんと!
300ポイントをこえました!(テッテレー)
皆様、本当にありがとうございます!




