力を求めるもの。⑨
「もう見ただろう?後ろの黒い龍を。あの力を私は手に入れようと思っていてね」
両手をゆっくり広げるドリアドは、気味の悪い笑みを絶やさない。
注意深く動作を見守り、俺達は武器をしっかり構えていた。
……戦えないんじゃないのか?
こいつも、フォルターみたいに魔法が使えたりするのか?
「そうだ。……逆鱗のハルトは…君かな?」
眼が合った。
「……」
黙っていると、ドリアドは頷く。
「うむ。君のそのバフとやらにも興味がある。まるで血結晶のように身体を強化すると聞く」
……!
思わず、目を見開いていた。
今、こいつ…血結晶って言ったぞ!?
「……いい反応だ。逆鱗のハルト。私はかつての魔法都市国家の王族でね。血結晶の扱い方はおおよそ把握しているんだ。……どうだい?君達も魔法都市国家の再建に協力するかね?」
「血結晶の扱い方か。それにしては、帝都でも実験まがいなことをしていたね?」
シュヴァリエが言うと、ドリアドはパンッと手を打った。
「そう!それだ!」
「……!」
思わず、剣で防御姿勢をとった。
「大きくは出来るが、ひとつだけ上手くいかない。……生成方法がわからないのだ。たくさん飲ませ中毒症状が出てから血を採っても結晶化が出来ない。……識っているのだろう?白薔薇」
意気揚々、とでも言うのがいいか。
ドリアドは眼を大きく開けて、覗き込むようにして俺達を凝視した。
「ああ、素晴らしい。何て良い日だ。……それで、どうだね。協力するかい?」
「誰が」
グランが吐き捨てる。
ドリアドは残念そうに眉を下げて、今度はそっとファルーアを指差した。
「そこの、白薔薇の魔女よ。君は相応の魔力を宿しているね。試しにその血を少し拝借しようか」
言われたファルーアは顔をしかめて、口を開き……。
「……何を……ッくうぁっ!?」
左腕を押さえて蹌踉めいた。
「ファルーア!!」
グランが盾をファルーアの前で構え、その隙にディティアが駆け寄る。
ボーザックはグランより少し前で、ドリアドを牽制した。
「ハルト君!」
ファルーアの腕が裂け、血がだらだらと流れ出している。
「治癒活性!……治癒活性!!」
バフをかけるけど、駄目だ。
傷が深くて、中々塞がらない。
「ディティア、アイザックを。……速度アップ」
「わかった」
さっと駆け出す彼女を確認して、俺はぎりぎりと歯を食いしばるファルーアの横にしゃがんだ。
「……今のは?」
「わからない……何か飛ばした……?」
傷口はぎざぎざしていて、風の類いよりは石で引き裂かれたようだと推測出来る。
止まらない血に、シュヴァリエが蒼いマントを投げてよこした。
「綺麗だから使いたまえ」
「あら、名無しにそんな甘くしていいのかしら?」
青ざめた顔だけど、ファルーアは皮肉を言えるくらいは落ち着いている。
けれど、流れ出る血はかなりの量だった。
すぐにマントを裂いて腕に巻くと、ファルーアはふうっと息を吐いた。
「やはり良い血だね白薔薇の魔女よ」
ドリアドは特に動こうともせず、にやりと笑うだけ。
何だ、あいつ何したんだ?
「……ふむ」
やがて、ガルフが呟いて、すっ、と杖を掲げた。
「ガルフ……?」
「ほっ」
「!」
ドリアドが咄嗟に『避けた』。
何も見えなかったけど、何かを避けたように見えた。
「なるほどのう……」
「えっ、何!?」
ボーザックが驚愕の声を上げる。
「……まさか、1回で。伝説の冒険者、爆炎のガルフ…侮っていましたね」
ドリアドが動こうとするのを、ガルフの杖が正面に捉えた。
「知っておるか、娘ッ子。その昔、魔法都市では様々な魔法があったそうじゃ。今はもう失われた、古代魔法とかいうやつじゃな」
ガルフは痛みを堪えているファルーアに語って、笑う。
「ほっほ、わかってみれば中々じゃの」
「くっ」
どうやら、ガルフとドリアドは何か……その古代魔法とやらで鬩ぎ合っているらしい。
「見えない魔法、単純じゃ。空気を集めて弾けさせておる」
「空気を…?」
ファルーアは呟くと、右腕で杖を掲げた。
「弾けなさい」
「くぉっ!?」
ドリアドの左腕に、ぱっと血が滲む。
浅かったようだけど、確実に当たっていた。
「仕返しには足りないわね」
ファルーアが、妖艶に笑った。
「ハルト。魔力感知バフを。見えるはずよ」
「お、おう!魔力感知、魔力感知!」
あわててバフを投げた俺は、はっとした。
見える。
俺たちの目の前では、
ドリアドとガルフの戦いがくり広げられていた。
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