力を求めるもの。⑧
やがて、五感アップで警戒させていたボーザックがはっと顔を上げた。
「誰か近くに来る」
「ドリアドか」
グランが立ち上がり、俺達をさっと見回して頷く。
「捕まえるぞ」
「はい」
ディティアが双剣を抜いて、唇を引き結ぶ。
「フォルターはここにいて。そこの、シュヴァリエの飼い犬のあんた。ここでフォルター守っててよ」
「……」
ラムアルがさらさらと言うと、ナーガは、珍しく露骨に嫌な顔をした。
元々がキツめの顔立ちなので、よりキツいように見える。
「あんた速そうだし、フォルターひとりくらい守れるでしょ?」
「それは、貴女も言えるのでは」
めらめらと炎が見えそうなのに、坦々とした口調で、迅雷のナーガが答える。
ラムアルはふんっ、と笑った。
「馬鹿ね。この依頼はあたしが出したものよ?当の本人がいないなんてありえないわ!……あんた適材適所って知らないの?」
女って恐いなぁ……。
思わずファルーアを見たら、ものすごい顔で睨まれた。
「いや、あのさぁ……守ってもらわなくても魔法くらいは…」
思わずと言った感じで言葉を紡いだフォルターに、グランとボーザックが首を振る。
「ありゃ、駄目だ」
「やめときなーとばっちり受けるよ~」
「えぇ……」
「お言葉ですが、貴女よりは戦力になります」
「ふん、皇帝の強さ馬鹿にしてるの?」
全く聞こえていない2人をスルーして、シュヴァリエは涼しい顔で、ガルフと一緒に歩き出す。
うわ、さり気なく逃げる気だ。
「いいじゃない、あんた強そうだって認めてあげてるのよ?」
「そんなのいりません」
ヒートアップする2人をおろおろ見ていたディティアは、やがてため息をついて……。
シャアンッ
双剣が、軽やかな音を立てる。
「今はそれどころじゃないからね?喧嘩両成敗!」
「……!」
「………っ」
首元に添えられた剣に、2人は息を詰まらせた。
「落ち着いた?」
「ご、ごめんなさいディティア…」
「…………」
ディティアは満足そうに頷いて、振り向いた。
「シャルアル、フェン。ここで待機をお願い出来る?」
「……まかせて」
「がう」
冷や汗をかく俺達を余所に、フォルターだけは眼をキラキラさせていた。
「やっぱり疾風のディティア最強……!」
******
巨大な黒龍のいる広場の奥から、気配がやってくる。
フォルターに聞くところによると、ドリアドはいわゆる頭脳派。
肉体労働はどうやら出来ないタイプらしい。
つまり、戦いには向いていないということだ。
対して俺達は白薔薇が5人。
グロリアスが3人。
そしてラムアル。
楽勝のはずである。
「気は抜かないことだよ、逆鱗の」
「いや、だからお前さぁ…うん、もういいや…」
言い掛けて、やめた。
ディティアに双剣を突き付けられるのは嫌だしなぁ…。
そして。
奴は、ゆっくりと姿を現した。
「ここ何日か、本当にお客さんが多いね」
ほっそりした身体と左眼だけの眼鏡。
短く整えられた白髪交じりの頭。
眼はずるがしそうなつり眼で、切れ長。
身に纏うのは黒いローブのような、コートのような、不思議な丈の長い服だった。
背は標準的で俺とボーザックの間くらいだろうと思う。
「君がドリアドかい?」
「いかにも。閃光のシュヴァリエ」
「おや、僕ほどの者はこんな辺境の地にもその名が轟いているのかな?」
「……食えない奴だね」
シュヴァリエとドリアドは向かい合って悪そうな笑みを浮かべている。
「探り合いは無しだ、面倒臭ぇ。目的は何だ?」
そんな白々しい会話をグランがぶった切った。
さすがリーダー。
空気も一緒にぶった切った。
「君は……そうか、白薔薇」
「お前に覚えてもらう義理もねぇから忘れていいぞ。……目的は何だ?」
グランはぱたぱた手を振ると、言い切って注意深く盾を構えた。
「……力だね」
「は?」
「力がほしいんだ。どれだけ強くなってもまだまだ先がある」
「えっ?あんた戦えないんでしょう?」
今度はラムアルがさらにぶった切る。
ドリアドはにやりと笑った。
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