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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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力を求めるもの。⑤

「…っ、ラムアル!!」


ディティアの絶叫が、合図となった。


手前に引く形の扉を開けたその向こう側は、どうやら大きな部屋になっていそうだ。

その中に、無数の人が我を忘れたように座り込んでいた。


その中央あたり、オレンジ色の炎のような髪を持つ新皇帝、ラムアルがぼんやりと虚空を見つめている。


……普通じゃない、そんなのはすぐにわかった。


「……っ」

叫んだけれど、ディティアはちゃんと冷静。

「見えた、天井に大っきな目玉みたいなのが張り付いてる!」

ボーザックが偵察をしてくれるのを、しっかりと待っていたのである。

「ハルト君!」

「おう!…精神安定!!脚力アップ!」

用意するよう言われていたバフを、皆に広げた。


精神安定バフ。

ラナンクロストにはいない、混乱持ちの魔物から己を守るためのバフだ。


アイザックは混乱を回復することが出来るけど、自身が混乱してしまったらそんなの通用しないわけで。

念のために入口の外に残る手はずになっていた。


「いっくよー!」

ボーザック、ディティア、シュヴァリエ、グランが部屋に飛び込んでいくのを、俺は入口から1歩だけ入った場所で補助する。


……魔物は、初めて見るやつだった。


天井に赤黒い根を這わせるようにして垂れ下がっていて、俺と同じくらいの直径はあろうかという巨大な目玉の形。

ぬらぬらと光る眼球に、天井から伸びる肉片のような赤黒い膜が巻き付いて支えているようだ。


黒眼の周りだけ肉片が巻き付かずはっきり見えるようになっていて、奴等は何か…光線の様な物を発した。


その瞬間、黒い眼が紅く発光する。


「とおっりゃ!」

それを避けたグランが、入って右側の目玉に飛びかかる。

瞬間、魔物はぐりんと目玉を振って回避し、予想以上の速さで天井から垂れ下がったまま移動した。


「動くのかよ!?」

「うっわぁ、気持ち悪っ」

グラン、ボーザックがやや逃げ腰になったところに、ディティアが飛びかかる。

「はぁぁっ!!」


ザンッ


鮮やかな舞で、双剣が根っぽい肉片の一部分を切り裂いた。


「しっかりしてくださいグランさん!ボーザックも!」

男2人を叱咤する疾風の名の双剣使いは、座り込む人達をひらひらと避けながら、目玉を追い込んでいく。


もう1体の目玉は、シュヴァリエが1回の跳躍で地面に打ち落とした。


…閃光のような剣捌きが、根のような肉片を全て断ち切ったのだ。


くそ、癪だけどやっぱ強い。


転がった目玉は、しかし斬られた肉片など無かったかのようにずるりと『立ち上がった』。


カッ!!


「っとぉ!?」

シュヴァリエの避けた光線が俺を目がけて飛んでくる。

咄嗟に躱して、俺は怒鳴った。


「おいシュヴァリエ!危ないだろ!!」

「ははっ、閃光の、と付けてくれてもいいよ逆鱗の。戦いの最中に気を抜いてはいけないよ」

「ぜってー呼ばないし、お前に言われたくないし!」

「ふっ、僕は気を抜くなんて愚行はしないよ逆鱗の」

「あーもう!いいからトドメさせよ!」


本当に疲れる!


「その必要は無さそうじゃ逆鱗の」

「ハルト、危ないわよ」

「ん?……って……うぉあちっ!?」


ゴオッ!!


目玉と同じくらいはあろうかという炎の塊が、俺の横をぶっ飛んでいく。

それはシュヴァリエを捕まえようと移動した目玉を呑み込んで、一気に天井まで迸った。



……腕がひりひりする。



「ガルフ……俺を丸焼きにしたいの?」

左腕を確認する俺に、爺さんはいつも通り髭を撫でながら笑った。

「ほほっ」

「多少焼けても治してやるぞ逆鱗の。ヒール!」

「そういう問題じゃないだろアイザック……」


俺はすっかり艶々になった腕をさすって、ディティア達を振り返る。

地面に落とされた目玉を、グランが盾で弾き飛ばすところだった。


ガィィン!!


「トドメだぁ!」

飛んできた目玉に、ボーザックが大剣を振りかざす。



ザシュッ!!!



どんっ、ぶしゅうーーーっ!!



転がった目玉の魔物は、見事に真っ二つになった。


……ついでに言うと、蹲っていた人が巻き添えになって、目玉と一緒に転げた。


「うわ!わーー!ごめん!大丈夫!?」

ボーザックが慌てて駆け寄ろうとするが、混乱の威力が強かったのか、その人は尚も虚ろな表情でぼーっとしたままだ。


どう見ても、やばそう。


「……こやつ以外、特に脅威は無さそうじゃの」

呑気な声でガルフが言いながら、ゆっくりと入ってくる。

それどころじゃないだろ、と突っ込みたかったが呑み込んで、俺はとげとげしい杖の厳つい男を呼んだ。


「アイザック!」


「まぁ待て逆鱗の。こいつらは混乱が薄れた頃に何度も繰り返してかけられたんだろう。急激に治すと頭に負荷がかかっちまう。あとは、さすがにこの人数をお前みたいに範囲で何とかなんて出来ないぞ。相応の時間がいる」

「このままでもやがては元に戻るじゃろうが、放っておくと何人かは頭がおかしくなってる可能性もあるしの」

「そんなにやばいの?」

ガルフに、大剣を拭ったボーザックが聞き返す。


「しかしそんなに時間も掛けられないだろうね。……アイザック、君は残って救助を。他の皆で奥に進む。……どうやら、街の人達もここにいるようだしね」


シュヴァリエの意見に、改めて周りを見回す。


冒険者のように武装している者と同数……むしろ多いかもしれないけど、全くの普段着なんて人達が多かった。

心なしか、幼い容姿が多いように見えなくもない。


……ラムアル達の襲撃からここに逃げてきて、混乱させられちゃったのか?


それにしては違和感がある。

あの縄ばしごを降りてきたとしたら、相当の時間が必要だったろうし。

逃げたと言うより、先に避難してたんじゃないか?


……でもそうすると、街に火を放ったのはラムアル達ってことになる。

それも、納得いかなかった。


「とりあえずラムアル皇帝はうるさそうだから先に起こしてやるよ」

アイザックの言葉に、俺は我に返った。


おっと。

今はそれどころじゃなかった。


俺は、気を引き締め直すために、両方の頬を、ばしっ、と叩いた。


5日分の投稿です!

ほぼ日刊です。


出来るだけ毎日更新中!


平日目安は21時から24時付近です。


どうぞよろしくお願いします♪

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