力を求めるもの。②
指定場所までは2~3週間だろう。
俺達は馬を飛ばし国境へ急いだ。
街道を逸れて合流場所への直線距離を奔る。
そのせいか、途中、魔物と何度も遭遇したけど、そりゃもう破竹の勢いとやらで俺の出る幕は無かったわけで。
天候も決して悪くなくて、時折雨が降っても長くはなく。
耳付きの雨用ポンチョを羽織ったフェンが、少し残念そうにしていた。
俺は馬上でひたすらバフを広げる練習を繰り返して、少しでも効率を上げるために頑張ることにする。
大規模討伐依頼に参加する以上、自分のバッファーとしての働きは最大限有効活用すべきだし。
何より、俺のバフひとつで、誰かが怪我をしたり、命が脅かされる脅威から少しでも縁遠くなるのであればいい。
そう思ったんだ。
******
待ち合わせ場所まであと少し。
1日掛からないだろうって距離まで来た。
夕暮れ時で空が茜色に色付き、東の空からゆっくりと紺へと染まっていく。
そんな時に、グランが言った。
「これからダルアーク討伐……まあ、解体だな。それを実行するわけだが……対人戦が殆どだろうと思う」
「……そうね!」
ファルーアも今回は馬を駆っていて、その足音に掻き消されないように応える。
「相手の士気も、混乱もあってそんな高くないはずだ。だが気は抜けねぇ。俺達も、俺達の持つ情報を渡すわけにはいかねぇしな」
「もちろん!」
今度はボーザックが左腕を突き上げて、応えた。
「だから、よく聞け。正直嫌な予感しかしねぇ。起きるってのは、相当なでかぶつだろう。いいか、最優先はその何かの阻止だ!」
「はいっ」
ディティアの声が重なる。
「雑魚は構うな、向かってくる奴等には容赦するな!全員、気合入れていけ!!」
「おう!!」
最後は、俺が拾う。
「頼んだよバッファー!」
「任せとけ!」
ボーザックに笑い返し、グランに頷いた。
グランも、満足そうに髭を擦りながらにやりとした。
「よし、白薔薇の名前、刻んでやろうじゃねぇか!」
『おぉ!』
「…………はぁー、盛り上がってんなぁ」
アイザックはそんな俺達に苦笑する。
シュヴァリエは、ふ、と笑うと言い切った。
「僕等グロリアスは品があるパーティーだからね、祝福の」
「ふん、ノリの悪い奴!」
俺が悪態をつくと、シュヴァリエは爽やかな空気をぶわあっと撒き散らした。
「ああ、すまないね逆鱗の。暑苦しいのは苦手なのでね」
…うっわー。
嫌味な奴!!
******
しかし。
問題は、冒険の付き物だ。
「あれは……」
シュヴァリエが手を挙げて馬を止めたのは、次の日の昼頃。
既に合流場所である山脈が見えている草原だ。
見通し抜群に晴れ渡った空の向こう、横たわる巨大な山脈に近付くにつれて、何か……靄がかかっているのがはっきり分かるようになった。
「何あれ?」
ボーザックが眼をこらすから、俺は全員まとめて五感アップで視力を強化する。
「……何か燃えてます」
ディティアが呟く。
確かに、山脈は煙のようなもので覆われているようだ。
饐えた匂いは全く感じない距離だけど、かなり大規模な火災に見える。
「山火事にしては煙が少ないか?」
アイザックが言うと、ガルフも頷く。
「そうじゃの……燃え始めというわけでもなさそうじゃ。あれは集落が燃えるような規模だの」
「でも、あんな所に村も街も無かったはずね」
「ふむ、どうやら急ぐ必要がありそうだね」
シュヴァリエは迷わずに馬の向きを変更し、駆け出す。
俺達も追随した。
「合流場所からさほど遠くない。近くもないが……。地図と見比べても、ダルアークの根城で間違いなさそうだ」
アイザックが器用に馬上で地図を見て言った。
「何かあったのかしら……」
「あのお転婆姫のことだ、待ちきれなかったのかもしれねぇぞ」
「あぁ……なるほど……」
思わずグランに賛同する。
ディティアも同意見なのか、否定せずに眉間にしわを寄せていた。
………………
…………
近付くにつれて、煙の臭いがうっすらと感じられる。
これは、五感アップを切らしていないからだ。
もう少し強くなったら、消さないといけない。
それまでは周りを警戒しつつ、迅速に近付いていく。
山脈の麓は緩やかな坂道で、疎らだった木々が密度を増し、段々と急になっていく。
すると今度は切り立った岩場も目に付くようになって、とうとう馬では進めないような険しい山肌にぶち当たった。
「フェン、頼む」
「がう」
皆が馬から下り、俺が言うと、彼女は美しい銀色の毛並みを靡かせながら、馬達の周りを少し歩いた。
「ふす……」
「ひぃん」
馬達はやがて、来た道を引き返して山を降りていく。
唯一、シュヴァリエの白馬が最後まで残っていたけど、シュヴァリエが頷くと賢そうな眼をゆっくり瞬いて、踵を返し走り去った。
「ありがとうな」
「わふ」
俺はそこで、五感アップを消して、皆に頷く。
「よし、行こうか。遅れないようにしてくれ、逆鱗の」
「……お前、わざとだろ…」
こうして。
俺達は、徒歩で上へと向かうことにした。
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