力を求めるもの。①
別れ際。
ユーグルのロディウルは、俺達に言った。
「せや…親切にしてくれたから教えたるわ。この大陸、そろそろ起きるで。気を付けてな、白薔薇」
「え…?」
思わず、俺達のこと知ってたんだ?と聞くと、ロディウルはにやりと笑った。
「タイラントが倒されたことは知ってたからな。そのドラゴンの装備見れば、ユーグルにはわかるんよ。こっちも、とにかく新しい魔物が欲しかったから、おうたのがあんたらで良かった」
「そんなもんなんだ。大陸が起きるってのはどういう意味なんだ?」
「そのまんまや」
ロディウルは、その答えは教えてくれなかった。
******
「世界にはいろんな奴がいるんだなぁ」
王都への帰り道、俺達はユーグルのロディウルについて思い思いに話していた。
「世界的に有名な人って誰がいるかな?」
ボーザックの質問に、それぞれ名を知っている人を挙げたりする。
ちなみに、冒険者はこの大陸以外でもギルドの支部を使うことで依頼をすることが出来る。
この大陸ほどどこにでもギルドがあるわけじゃないけど、海の向こうでも主要な街には支部が置かれているらしいのだ。
冒険者って名前ではなく、他の大陸ではトレジャーハンターとかって呼ばれていて、一攫千金を狙う職として名高いんだけど。
簡単に言うと、似たような条件の制度だから一緒にやりましょう!って感じだと思う。
隣の大陸はここよりずーっと広く、古代遺跡も、魔力結晶も、遙かに多く発見されている。
ここよりも、ずっと栄えてるのかもなあ。
「とりあえず、ギルドへの報告をしちゃいましょう」
ファルーアはそう言って、さらりと金髪をはらった。
俺達は頷いて、王都へと戻った。
大陸が起きるとか、山脈が怒るとか…とにかく訳が分からない状況からは抜け出したいなあ、と、ぼんやり思いながら。
******
それから数日が過ぎ、グランの2つ名が囁かれ始めた頃。
「お呼びだぞ」
アイザックが迎えに来た。
「来たか」
グランが立ち上がる。
必ず定期連絡をしていた時間だったんで、俺達はちゃんと全員ギルドにいた。
ラナンクロスト王都の要所を結ぶトロッコで城へと入り、会議に使われるような部屋に通される。
昼になろうかという時間だったからか、軽食が用意してあった。
それを食べ終える頃、見計らったかのように、グロリアスとルクア姫がやって来る。
「待たせたね、逆鱗の」
「俺じゃなくて皆に言えよ」
いつも通りのシュヴァリエに思わず返しながら、俺達はルクア姫に一礼。
「堅苦しいから気にしなくていいのよ。座って」
白い扇で口元を隠し、姫は微笑む。
ガルフは髭を撫でながら無言で席についた。
「では、始めようか」
シュヴァリエの号令で、すぐに本題に入る。
「ラムアル皇帝から、伝達龍が帰ってきた。内容を読み上げる」
アイザックは紙切れを広げ、読み始めた。
『シャルアルが帰ってきた。このこは本当に優秀でかわい……あー、ごほん。割愛する。
えー……近々、実験の最終段階が行われる。
隣の大陸からも魔力結晶を運ばせていた、予想以上の魔力結晶が集まっている。
ダルアークの現在のボス、ドリアドは無理な活動を実施していたため、ダルアーク内部でも反発が多い模様。
肝心の目的だが、何かを起こそうとしているのはわかった。
魔力結晶を使って目覚める何かが、山脈の地下に眠っているようだ。
ドリアドの宣言通りに地震も確認した。彼は、胎動だと話している。
とても危険、実験を阻止すべきと考える』
アイザックはここでごほん、と咳払いを挟んだ。
「起きるって……」
俺達は顔を見合わせる。
数日前に出会った、ユーグルのロディウル。
彼がそんなことを言っていたはずだ。
「まだ続きがある。……祝福の」
シュヴァリエが頷くと、アイザックは紙に目を落とした。
『また、ドリアドは自分を魔法都市国家の王の末裔だと豪語している。魔力結晶を使って再建するとも。
恐らく、魔力結晶に関するかなりの知識を持っている。
魔物に埋め込むのも、ドリアドの案だったらしい。
それと……フォルターが、実験場に侵入すると言ったきり戻らない。
情報を集めたけど、消された可能性が高い』
……!
俺は息を呑んだ。
フォルターが消された?
アイザックは一瞬だけ俺達を窺って、続きを読んだ。
『……帝都は巨大地震の際、建物が少し崩れた。けれど、大きな怪我人は無く、問題なかった。
ドーアと、迅雷のナーガ、研究員3人は城で保護することにする。
この手紙を出した後、出発するため、現地で。
別紙に地図と合流場所を印す』
手紙はここで終わり。
俺達は、嫌な沈黙を共有する結果となった。
「フォルター…」
思わず呟くと、グランに肩を、ファルーアに腰を叩かれた。
「いっ……てぇ」
「まだ確定してないわ。しゃんとしなさい」
「……もちろん」
鼻を鳴らしたら、ボーザックとディティアにくすりと笑われる。
「信じようね、ハルト君」
「俺達とも、合流出来たしね」
……うん。
そうだ、そうだった。
俺は手を、ぎゅっと握り締めた。
「もちろん、すぐに発てるね?白薔薇の諸君」
「当たり前だ」
シュヴァリエは満足そうに頷いて、ルクア姫を振り返った。
「それではルクア姫。冒険者として、抗うべき敵を斬り伏せて見せましょう」
本日分の投稿です。
ダルアーク編へと戻りました。
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