依頼をこなすので。②
とりあえず、報酬はギルド預金に回した。
「本当にギルドハウス建てられるかもしれんな…」
グランがぼやく。
「ねぇ、ティア-。いつも依頼の時あんなに貰ってた?」
ボーザックは眉間にしわを寄せながら、こめかみをぐりぐりする。
「えっ?ううん、あんなには無いけど……」
そう言うけど、金額には驚いてない気がするんだけど……。
「無いけど?」
ボーザックの追撃に、彼女は言いにくそうに答えた。
「そんなに使わなかったから…」
「成る程……それであの貯金か」
グランが首を振る。
そういえば、彼女のパーティーだったリンドールのギルド預金を、白薔薇に全部入れたって話だったよな。
俺はファルーアと顔を見合わせて、ごくん、と息を呑んだ。
え、もしかして俺達結構お金持ってる……?
「ふふ、白薔薇ともあろうお方が、そのような感覚でいらっしゃったとは。何とも微笑ましいものですな……しかし、その気持ちをどうかお忘れなきよう」
ムルジャは物凄く洗練されたアグレッシブな動作でペンを差し出した。
「では、豪傑のグラン殿。サインを」
「お、おう」
グランは、サインをするのに何故か腕と肩を回してから、ペンを取った。
******
「どーれーにー……しよっかな」
「やっぱり討伐がいいかなあ?」
手続きが終わり、俺はディティアと2人で依頼を見に来た。
そういえば、こうやって普通に依頼を探すのは久しぶりだ。
「何か、これが日常だったのにな」
思わず、こぼす。
視線は掲示板に留めたままだったけど、ディティアがゆっくりと頷いた気配を感じた。
認証カード持ち専用の掲示板には、びっしりと依頼が貼ってある。
「そうだね。ダルアークなんて組織の討伐も受けちゃったし……もうすぐ、白薔薇も2つ名持ちのパーティーだし」
「……有名になってきたな」
「ふふ、うん。……本当に。ねえハルト君、私、これ御守りにしてるんだよ」
「うん?」
そこで初めて、ディティアに視線を落とした。
彼女はポーチから綺麗にたたまれた紙切れを出す。
『ディティアへ。
最高のバッファーと、仲間の笑顔、いりませんか?』
「……!!」
俺はかあーっと頬が熱くなるのを感じた。
「な、なんてもん持ってるんだよ…」
あの時はディティアを探すのに必死だったから。
今となると、結構恥ずかしい。
「あははっ、ハルト君真っ赤だよー?でもねえ、これ、本当に嬉しかったんだから」
とびきりの笑顔の彼女から、思わず眼を逸らす。
「……最高のバッファーと、仲間の笑顔、確かに受け取りました、ハルト君」
「……何だよそれ。まだまだこれからだからな」
彼女はくすくすと笑った。
「あ、これどうかなハルト君」
紙をしまった彼女は、低い位置にあった依頼を指さした。
少し落ち着いて、俺もどれどれと覗き込む。
『ヤールウインドの討伐。最低1体』
「ヤールウインド?」
「確か…風将軍とか呼ばれてる大きな怪鳥の魔物だよ」
「へえ」
見てみると、遺跡付近に最近棲み着いたらしい。
確認されているだけでも数体いるそうだ。
「遺跡は今も立ち入り禁止なんだよな?」
「だと思う。調査員や討伐部隊だけは、近くに入る許可が下りるんだろうね」
「飛べる魔物はあんま経験無いしな。いいかも」
俺はディティアに頷いて、カウンターに依頼を持って行った。
******
「そっちいったよ!」
「任せろ!」
ボーザックが追いやったヤールウインドはグランの方へ飛ぶ。
そこを、高く跳ねたグランが上から地面に叩き落とした。
「おー…やるねぇ」
「ハルト君も参加したら?」
「いや、だってさあ。あの2人楽しそうだし」
うん。
本当に楽しそうだ。
2人にかけたのは脚力アップバフの三重。
攻撃的なヤールウインドは2人を上から突こうとするんだけど、彼等の跳躍は空を飛ぶ鳥のごとく。
逆に上から叩き落とされたり斬り伏せられたり。
鋭い嘴と硬い羽毛で、濃い緑色の怪鳥は、遺跡付近の地面にお椀状の穴を掘り、そこに草を敷き詰めて巣にしていた。
それなりに縄張り意識があるようで、巣はいくつかあるものの、互いに距離がある。
「がうっ」
フェンの呼び声で、俺達はそっちを見た。
「見て、卵があるわ」
戦う2人を無視して、ファルーアが指差す。
フェンが傍に佇んでいる巣にはひと抱えはあろうかという卵が2つ、転がっていた。
「でっか!」
大人ともなれば1メートルを超える怪鳥の卵だ。翼を広げたら3メートルはあるんじゃないかなぁ。
そりゃあでっかいよな、と思うけど。
……眼にしてみると、そりゃあもう。
「オムレツ何人分作れるかしらね」
「そもそも食べられるのかなあ」
ファルーアとディティアが卵を覗き込む。
……すると。
「おい、そっち行ったぞ」
グランの声がして、俺が振り返った。
って……。
「うおっ、危なっ!?」
ビュンッと耳元で風が唸る。
鋭いかぎ爪を避けた俺は、慌てて剣を抜いた。
「ちょっ、何してんだよグラン、ボーザック!」
「悪ぃ悪ぃ、ふざけてたらそっち行っちまった」
上空に1度舞い上がった怪鳥は、翼をたたんで急降下の体勢に入る。
「……肉体強化っ、腕力アップ!反応速度アップ!」
バフをかけて、腰を落とす。
「キィィィ―――ッ!!」
「おおおっ」
俺は甲高い声をあげる怪鳥を、双剣の腹で捉えた。
「吹っ飛べ!!」
バコォォオン!!
自身のスピードと俺の振り抜きで、怪鳥は、呆気なく遠い地面に墜落してゴロゴロッと地面を転がる。
「ふう……」
「わあ、やるねぇハルト!」
ボーザックが剣をぶん回して笑うから、ふんと鼻を鳴らす。
「ちゃんと見とけよなー」
「ごめんごめん」
それを見ていたフェンが、突然唸りだした。
「フェン?」
俺はフェンの視線を追って…………固まった。
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仕事とかによって、間に合わなかったり遅れたりすることがありますが、よかったらお付き合いください。




