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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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162/847

その名、轟かせませんか。④

「まあ、お前と出会うまでは似たり寄ったりの輩ばっかりでな。名無しに噛み付かれたんだ、と笑いながら言われた日には肝が冷えたんだが」

アイザックはお酒を飲み干して、ふう、と息を付いた。


「2つ名があるから強いかって言えばそうじゃない。それでも、あいつの信じる指針はそれだ」


俺は苦笑して、同じように酒を飲み干す。

近くにあった酒を注いでやると、アイザックは笑った。


「なあ、逆鱗の。ところでお前、疾風とはどうなんだ?」

「ん?どうって?」

「うちの大将がずーっとご執心な双剣使いがひとりになった時、すぐに動き出したんだぞ。それを颯爽とかっさらっていったろう?」

「……?別に、かっさらったつもりはないけど。ディティアは、頼れる仲間が必要だった……間違ってもシュヴァリエじゃなく、な。そう思ったから、俺達は誘っただけだよ」

「いや、そうじゃなくて。……お前、疾風とは何も無いのか??」

「何もって……何?」

首を傾げると、ころころと楽しそうな笑い声がした。

振り返ると、ファルーアが後ろに立っている。


彼女は座っている俺の肩に右腕を置いてもたれると、グラスを傾けた。


「駄目よアイザック。ハルトは本当に鈍いんだから」

「そうだろうなあとは思ってたんだが……ここまでか?」

「そうなのよ。だからこういうの、聞いてみたかったのよねぇ。……ハルト、貴方、ティアが好きなの?」

「は?」

驚いて彼女を見上げる。

妖艶な笑みをたたえたまま、ファルーアが蒼い眼をこちらに向けていた。


何を当たり前のことを。


「好きかどうか?…好きだけど…当たり前だろ?嫌いだったらパーティー一緒とかしんどいし」


「…………」


アイザックは、絶望的に困惑した顔を見せる。

ファルーアは、やれやれとばかりに俺の頭をぐしゃぐしゃした。


「え、何だよアイザック……ファルーアも」

「ああ、いや。初めて、うちの大将に同情したなと」

「はあ?」

「もう……ハルト、私は貴方が心配よ」

「??」


そこで、わっと歓声が上がった。

ディティアの声だ。


「何だ?」

振り返ると、おお。

シュヴァリエとボーザックが、腕相撲をしている。


「あはは、閃光のシュヴァリエ。その程度?」

「ふふっ、不屈のボーザック。君こそ、この程度かい?」

「そんなわけないでしょ、まだまだぁ~!」

「奇遇だね」


ぎりぎりぎり。


「あははっ、2人とも頑張れ~」

ふわふわと笑っているディティアと、髭を愛でながらにやにやと眺めているグランとガルフ。


「閃光も強い方だが、ボーザックも中々やるな」

アイザックも、気分を切り替えたのか楽しそうに言った。

「おい、豪傑の。俺達もやろうぜ」

早速立ち上がって、グランのところへ向かう。

「あぁ?……面倒くせえよ」

「まあまあ、そう言うなって!それとも、俺に勝てないからか?」

「……ふん、言ったな?」


「あらあら、乗せられちゃって」

ファルーアが笑うから、俺も笑った。


「ほっほっ、逆鱗の。それでは儂とやるか?」


いきなり爆炎のガルフに言われて、俺は首を振った。

「負けるのが恐いからやらないよ……勝っても喜べなさそうだし」


ガルフは、白髭を撫でながら「なんじゃ、つまらんのー」と微笑んだ。



「ふんっ、ぬうぅぅ」

「くおっ、おおぉぉ」



血管を浮かせて真剣勝負している2人。

その、あまりの暑苦しさに、ボーザックとシュヴァリエはどちらともなく力を抜いた。


「何か……あれだね。俺達もこんなだとしたらちょっと」

「そうだね不屈の。僕達はこんな暑苦しくない」


酷い会話だが、勝負中の2人は聞こえていなかった。

言い得て妙ね、とファルーアがため息をつく。


「おい、ハルトぉ!バフよこせ!!」

「そりゃ、許さねえぞ豪傑のぉぉ!」


「はいはい、腕力アップ」


俺は呆れ半分、興味半分で2人ともにバフを広げた。


「くおおおお!?」

「んぐおぉぉ!!」


暑苦しい。本当に暑苦しい。

汗を浮かべ、歯を食いしばり、お互いの腕をねじ伏せてやろうとする姿。


ただひとり、酔ったディティアだけがきゃっきゃと喜んでいた。


そして。



みしっ……



不穏な音が響く。

しかしながら、やはり2人は聞こえていない。


「おお……こりゃいかんわい」

ガルフがグラスを持ち上げる。


ボーザックとシュヴァリエもグラス片手に機敏な動作で立ち上がった。

フェンが、ひらりと身を躍らせて、喜んでいるディティアをこっちに押し退ける。



みしみしっ……



「こんのおぉぉ!」

「なんのぉぉぉ!」


バリバリバリィッ!!



「うおっ!?」

「おわっ!?」



どがぁぁんっ!!


砕けたテーブルと、巻き込まれた2人。

床に這いつくばった厳つい男2人組に、ファルーアが冷たい声で言い放った。


「弁償、あんた達でしなさいよ?」


******


こうして、ダルアークの報告の前にしばしの休息を得ることが出来た。

この後、グロリアスは城で待機してもらう。

俺達はギルドで報酬を受け取って、そこで待機することになる。


とは言え、まだ時間はあるはずだ。

軽い依頼くらいなら、俺達でこなしてもいいだろう。


来るべき時のために、調子を上げておく必要がある。


武器をメンテナンスして、防具もチェックが必要だ。


……強く、強く。

この名前を世界中に轟かせてやろう。


俺はそう考えて、手を握った。

バフも、もっと広げられなきゃ意味が無い。


まだまだ、先は長そうだった。


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