その名、轟かせませんか。①
体調はまだあまり良くないのですが、
1話更新です!
「やべぇ、入ったらどうすりゃいいんだ?」
「とりあえず堂々と前まで行くわよ。少し距離を置いた位置で止まって、跪くの。いいわね」
突然のことすぎて、パニックになりかけた俺達。
ファルーアがグランに言いながら、こっちを振り返る。
「ティア、そのお馬鹿さんをちゃんと誘導してあげて」
「う、うん!」
「お馬鹿さんって俺……?」
思わず言ったけど、ディティアがくすりと笑うので口をつぐんだ。
彼女は余裕があるように見える。
とにかく、もうどうしようもないし。
俺達は巨大な扉の前で一列になって、時を待った。
「どうぞあまり緊張なさらないよう。……では、開けます」
侍女が優雅に礼をして、扉に向き直る。
緊張するに決まってるだろ!
と、突っ込む余裕もない。
「白薔薇の皆様をお連れ致しました」
『よい、開けよ』
低めの、威厳のある声が響く。
ぎぎぎ。
扉が、ゆっくりと開いていく。
どうでもいいことなんだけど、白い扉には巨大な鳥の画が細部にまで彫り込まれていた。
緊張してるからか、やけにはっきり認識する。
すると。
『白薔薇に栄光あれッ』
「うわ…」
思わず声が洩れた。
左右に並ぶ騎士達が、剣を掲げて号令のように声を重ねる。
その中央に、ラナンクロストのカラーである白と蒼の絨毯が伸びていた。
その終点には三段ほど高くなった場所と、立派な椅子。
そこに座りこちらを見ているのが、ラナンクロスト王だろう。
椅子の横にはルクア姫が立っているのが見てとれる。
高い天井に反響して、より大きく聞こえた声にびびっていると、グランが先陣を切って歩き出す。
ジャキッ
グランが通るのと同時に、騎士達が順番に掲げた剣を下ろしていく。
その整然とした動作には、思わず感嘆のため息がこぼれた。
……そして、王の前までやってきた俺達は、一礼をして跪く。
ファルーアとディティアに倣っておけば完璧な気がするし、何とかなりそうだ。
シュヴァリエがルクア姫の近くに控えているのに、ここで気が付いた。
いつも通りの澄ました顔で、笑みを浮かべている。
『よい、堅苦しい挨拶はいらぬ。顔を上げよ』
王の言葉で、俺達はそれぞれ立ち上がった。
年の頃は70前後。
白髪はしっかりと整えられて、口周りの頑固そうな鬚の手入れも抜かりないようだ。
何より威厳があって、滲んでいるオーラもやばい。
武勲皇帝とは違う空気を感じる。
俺の思っていた、王、そのままの人がそこにいた。
『それでは報告を受けよう』
王の声に、グランがぴりぴりとした空気を纏ったように見える。
……そりゃあ緊張するよなあ。
「……ルクア姫の命にて、ギルドの代表として各国を回ってきた……来ました」
ちょっと噛んだけど、ファルーアが小さく頷くのが見える。
大丈夫そうだ。
任せたぞグラン!
******
そうして15分ほど。
ここに戻るまでの詳細を大体語り終え、グランが咳払い。
「……え-、報告は以上、です」
その間、王は案外楽しそうに聞いていてくれた。
『ふむ、良い旅路であったか、白薔薇』
……白薔薇。
俺は、自分達のパーティー名を聞いて、身震いしそうだった。
ラナンクロスト王、その人が、俺達の名を口にしたのだ。
何となくだけど…ここまで来てやったぞ!って。
誇らしくなる。
「実のある旅路だった、俺……自分達にとっては」
グランが言い切る。
やがて、王はゆっくりと頷いて、控えていたルクア姫から何か、書状を受け取った。
『……白薔薇。後程ギルドから報酬を受け取るがいい。ギルド長には伝えておこう。此度はご苦労であった。……また、ラナンクロストを含め、各国で保管する魔力結晶、確かにヴァイス帝国より引き取ってある。……それともうひとつ、渡すものがあったな』
するすると書状を開く王。
俺達は、ちらりとお互いに目線を交わした。
……何だ?渡すものって。
『ラナンクロスト、ノクティア、ハイルデン、そしてヴァイス帝国。4国の王は、パーティー白薔薇の大盾使い、グランに名を付けることを約束した。……そうだな?』
…………!!
グランの背中しか見えなかったが、一瞬肩が震え、その手がぎゅっと握られたのがわかる。
「……その通りです、ラナンクロスト王」
グランが、深く頷く。
ラナンクロスト王はにやりと笑みをこぼして、書状を読み上げた。
『貴殿の2つ名。4国間でまとめさせてもらった。……豪傑。豪傑のグラン。……それが、貴殿の2つ名だ』
豪傑の、グラン。
俺は、何度も何度も、頭の中で反芻した。
自分のことみたいに、胸が熱くなる。
『勇猛果敢、4国間の王を唸らせる程の度胸。その名に相応しかろう』
「……っ、ありがとうございます」
グランが頭を下げる。
ファルーアも、ボーザックも、ディティアも、それからもちろん、俺も。
思わず頭を下げた。
『ふ、他国の王より伝言がある。……まずは、ノクティアのアナスタ王……その白く輝く大盾に見合う大きな男になれと。……ふむ、相変わらず盾マニアだそうだな。次に、ハイルデン、マルベル王……我が国の英雄に相応しき名を気に入ってくれるといいと。……ようやく頭角を現しおったな。そして、ヴァイス帝国皇帝ヴァイセン。……ほう、これは面白い。……その名に違わぬ豪快な支援を期待する、と。お転婆め、言いおる』
楽しそうなラナンクロスト王は、やがて静かな海のような、ルクア姫より少し濃い青色の眼を細め、グランに言った。
『豪傑のグラン。その名、轟かせよ。全ての冒険者がその名を知る日を、楽しみにしておるよ』
「……必ず。白薔薇の名と共に」
グランは、深く頷くと、もう一度頭を垂れた。
すみません、体調不良にてまちまちになってしまいました。
万全になるまでもう少しかかりそうです。
ペース落ちてしまってますが、治したら戻しますのでよろしくお願いします!




