凱旋なので。②
わあああぁーーーーーっ
門を開けた時、いきなり大音量で聞こえた歓声。
思わず身を竦め、その光景に眼を見開く。
俺達は、きっと間抜けな顔をして突っ立っていた。
「よっ、白薔薇-!」
「逆鱗のハルト-!!」
「不屈-!おかえりー!」
「疾風のディティアーこっち向いて-!」
「ファルーアさーん!」
「グラーン!盾見せて-!」
溢れんばかりの人、人、人。
その全員が、俺達を見ていた。
騎士団の制服に交ざって、冒険者達もたくさん。
もしかしたら、何も知らない一般国民もいるのかもしれない。
「な、何だよこれ……?」
思わず呟いたら、門の横に待機していたシュヴァリエが出てきた。
「さあ!お集まりの諸君、彼等が白薔薇だ!ハイルデンでは奴隷制度を廃止するに至った英雄、ノクティアでは大人気の菓子となり、ヴァイス帝国では陰謀によって崩御した武勲皇帝の娘を助けて国を立て直させた。我がラナンクロストでは言わずもがな、彼の飛龍タイラント討伐の立役者だ!」
大袈裟に身振り手振りでアピールする、やたらキラキラした次期騎士団長には、拍手が巻き起こる。
「シュヴァリエ…ちょっと大袈裟だぞ…」
あまりの人混みに、気後れすら感じる。
「閃光の、と付けてくれてもいいよ、逆鱗の。約束したからね。君の名はラナンクロストでは知らない者はいないはずだよ」
「…………」
俺は、肩を落とした。
どんな罰ゲームだよ……。
「そら、凱旋だ、白薔薇」
アイザックが、後ろに回り込んで俺達を急かす。
「凱旋って……こんな」
ボーザックが、ゆっくりと見回して、呆然と呟く。
「不屈のボーザックに栄光あれ!」
騎士達が、いつかのように剣を掲げた。
「凄いね…いつの間にこんなこと計画してたんだろう」
ディティアが眼を丸くしているので、俺は苦笑して見せる。
「そういえば、最近ハト飛ばしてたよな、アイザック」
「私、フェンの近くでシュヴァリエが話してたのも見かけたなあ」
足元の大きな銀狼に、ディティアが口を尖らせる。
フェンは、俺達へのサプライズが成功したことが嬉しいのか、彼女を見上げてぱたぱたと尾を振った。
「ほっほっ、胸を張ると良い」
ガルフが、杖で優しくファルーアを押し出す。
「ちょっと、ガルフ……これは、その、流石に……」
押し出されたファルーアは、珍しく身を硬くしている。
さらりと靡いた金の髪に、男性陣が歓声をあげた。
「ファルーアさん!痺れさせて!」
……いつの間にこんなファンを獲得してたんだか。
ファルーアは一瞬、龍眼の結晶をかかげ、少し躊躇ってからひゅんっと振った。
「…弾けなさい」
「……おお」
思わず、俺も声を上げる。
小さな……あれは雷だろうか?……光の粒が、いくつもいくつも弾けて、男性陣の頭上をきらきらと照らす。
綺麗だった。
綺麗だったけど……。
「すげぇ」
「ファルーアさん最高だ」
その粒に思わず手を伸ばした男達は……。
「うぐあ」
「ががっ」
電流が流れたように、望み通り痺れたようで。
やっぱりなー、と思う。
落ちもついたところで、ファルーアはふうっ、とため息をついた。
「品の無い男は嫌いなの」
「俺の急所を杖で殴るような女が何言ってやがる」
グランが小さい声で呟いたのが聞こえたのか、ファルーアはにこりとグランを振り返った。
「……グラン?」
「…………」
すっ、と眼を逸らすグランに笑ったら、肩を殴られた。
「それで、俺達はどうしたらいいんだ?閃光」
さっと話題をすり替えて、グランが言う。
シュヴァリエは笑って、前を指差した。
「もちろん、これは凱旋だからね。城まで練り歩いてもらうよ」
…………。
俺達は、顔を見合わせる。
城って………ここ、一般国民街だよな?
つまり、商店街、貴族街を抜け、山の天辺まで行くことになる。
「いやいや、それ、罰ゲームでしょ」
ボーザックが言うのに、俺も頷く。
「ははは、それくらいの距離、何とでもなるだろう?僕達は一足先に行って、ルクア姫を捕まえておこう。気を付けて来るといい」
シュヴァリエ、爆炎のガルフ、祝福のアイザック。
グロリアスの(迅雷のナーガを除く)面々は、颯爽と馬を駆り、人混みに消えた。
「……どうすんだよ、グラン」
「俺に聞くなよ……」
「行くしかないけどねー」
わああぁぁーーーーっ
続く歓声を一身に受け、俺達は歩き出した。
拍手や野次が、あちこちで起こる。
……今更だけど、シュヴァリエの影響力、やっぱり強いんだな。
凱旋なので、と自分に言い聞かせながら、俺はそっとため息をつくのだった。
19日分です。
毎日更新していますが、ちょっと仕事が詰まっています。
遅くなってすみません!
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