地面が揺れるのですか。⑤
「さあて……やるとするか!」
グランが白薔薇の大盾をぶんぶんと振り回す。
相当重たくしてある盾なのに、グランにかかればだいぶ軽そうだ。
「肉体強化、肉体強化」
バフをかけると、グランはますます軽そうに盾ごと腕を回した。
「ハルトー、俺、脚力アップ試してみたい!」
ボーザックが嬉しそうに言う。
迫ってくるトカゲ型魔物はおよそ10頭。
濃い緑色で、普段は4足歩行なんだけど、走るときは二足歩行になる奴等だった。
大きさは1体がディティアくらい。
口に出すと怒られそうな気がするので黙っておく。
力もそれなりにあって、初心者から中級者になる頃に丁度良い相手だった。
偽龍よりももっとトカゲっぽくて、角は無くつるりとした頭をしている。
「任せろ、脚力アップ、脚力アップ!」
「やる気あるわねぇ」
「ファルーアもやるの!威力アップ!威力アップ!」
バフを飛ばして笑うと、ファルーアはくるりと杖を回した。
「あら、仕方ないわね」
俺は双剣を抜いて、肉体強化と脚力アップをかけた。
ディティアまで行かないにしても、それなりの立ち回りが出来るようにしておきたい。
「私はどうしようかな」
「速さアップ!脚力アップ!……ほら、行くぞ!」
「わあ、ハルト君人使いが荒いなあ」
ディティアは笑いながら、俺の隣でとんとん、と跳ねた。
「折角だしハルト君の動きも見ててあげるね」
「うわー、ディティアの方が人使い荒いよな?」
俺達は飛び出した。
「うぉぉっらあ!」
先頭をグランがぶっ飛ばす。
「グァヒンッ」
変な鳴き声をあげて、魔物がはね飛ばされた。
畑に転がった1頭目が起き上がる前に、2頭目をボーザックが横薙ぎに切り裂く。
後ろに跳ぶようにして避けたが、腹の辺りに浅い傷が出来た。
「まだまだあー!」
ボーザックは止まることなく、脚力アップを利用して突っ込んだ。
一気に距離が縮まって、追撃が2頭目を捉える。
「突きなさい」
ファルーアが3頭目と4頭目をまとめて土の柱で突き上げた。
フォルターが使っていた魔法だ。
「中々使えるわね」
「ほっ、土の魔法か。ふむ、柱にしておるのじゃな……ではこんなのはどうかの?」
そこに爆炎のガルフがひゅっ、と杖を突き出す。
ゴヵアッ!!
「うおっ……」
グランが飛び退く。
「おい爆炎!危ねぇだろ!」
出現したのは土の針達だった。
柱の先端を尖らせ、複数を一気に突き出すことで串刺しにするのだ。
グランの怒声は爆炎のガルフの笑いに掻き消された。
「ほっ、ほっ、こりゃすまなかったのお」
「あら、それいいわね。……刺しなさい」
ゴガァッ
「うっわあぁ!?ちょっとファルーア!俺が刺さったらどうすんの!!」
「爆炎のガルフより小さいし数も少ないわね…もう少し練り上げないとかしら」
「無視!?無視なの!?」
俺はボーザックに少しの哀れみを覚えながら、ディティアとその後ろの2頭へ走る。
「はっ!」
先にディティアがトカゲの頭を踏み付けて、俺は身を捻ってその側面を切り裂いた。
その瞬間にはディティアは次のトカゲの脚を斬っていて、ギシャア!と鳴き声があがる。
「っはあ!」
そいつも俺が斬り伏せて、先行するディティアの横に着地。
彼女は満足げににこにこしている。
「うんうん!いいねいいねハルト君!」
「少しはマシになったかな?」
「うん!」
俺はその返答にちょっと嬉しくなって、一緒に笑ってしまった。
すると。
「おい逆鱗の!俺達にバフは無いのか-?」
ゴワシャアッ!
とげとげしい杖を振り抜いて、トカゲの頭を強打しながら
アイザックが鼻を鳴らした。
俺はちょっと引いて、言った。
「え、お前ヒーラーじゃんアイザック…何で前線よろしく肉体戦してんの……」
「ふん、これくらいやれないと強いとは言わないだろ?」
胸を張るアイザックに、爆炎のガルフがほっほと笑う。
「祝福って感じもしないがの」
「じいさん、言ってくれるなあ」
俺はそれを聞きながら、ふとシュヴァリエを見た。
銀髪の爽やかな空気の男は、1頭のトカゲを前に1歩も動かず、ひたすら攻撃をいなして遊んでいる。
……悔しいけど、わかる。
あれは、攻撃をいなしながら、かつ魔物を足止めしていて、相当な技量がいるんだってこと。
俺には、まだ無理だった。
そうして、グランとボーザックが大半をやっつけたところで、それは起こった。
ごごご……
「うお」
グランの声。
地面が、唸りだしていた。




