地面が揺れるのですか。①
「フォルター」
黙々と食事をしていたシャルアルが、突然話し掛けた。
すっかりお皿が空いているところを見るに、食べ終わったのか?
「うん?……えーっと、君は誰?えらく小さい子だね」
シャルアルは、その言葉にむっとした……はずだ。
表情は変わらなかったが。
「シャルアル。ラムアルの妹」
「ああ、どうりでそのオレンジ頭」
フォルターは自分よりもはるかに小さいシャルアルの頭を、よしよしーとばかりに撫でる。
シャルアルは、やはり無表情だった。
「ちょっと、気安くシャルを撫でないで」
ラムアルがじろっと睨んだが、フォルターはどこ吹く風。
笑ってシャルアルの頬をむにむにしだした。
「えー、あはは、柔らかいなあ」
「ちょっと!」
ますますお怒りのラムアルは放置で、フォルターは目線をシャルアルに合わせて笑いかけた。
「シャルアルは、何歳-?」
「20」
「…………ん、え?」
「20。たぶん、フォルターは私より年下」
「……嘘だよね」
俺を見るフォルターに、首を振る。
俺は知らない。
そもそもフォルターの歳も知らないし。
「フォルター、教えてほしい。貴方はドリアドが何処にいるか知っているの」
坦々と話を進めているシャルアルを、フォルターは呆然と見ていたけど、やがて諦めたのか頷いた。
「ラナンクロストとヴァイス帝国の国境付近にアジトがあるんだ。そこにいるよ」
「わかった。私も連れて行って」
「はいは……ええ!?」
フォルターは顔を上げて驚く。
「シャル!急に何を……」
ラムアルもびっくりである。
それでもシャルアルは表情を崩さず、続けた。
「この容姿を活かさない手はない。私も、孤児のふりをしてダルアークに潜入する」
******
自分が幼く見えるのは自覚あったんだなーとか、結構どうでもいいことを思ってたわけだけど。
シャルアルは断固として意見を変えず、皆も納得していたりして。
ひとり、ラムアルだけが怒っている。
しばらくそんな状態だったものの、シャルアルが上目遣いで「お願い、ラムアル」と言ったらいちころだった。
凄まじいシスコンだ。
俺達はそれを見届けたところで、食器の片付けを始める。
いつまでもぐだぐだはしていられない。
帝都にはオドールとイルヴァリエが残っているし、あまり長居すると次の部隊が来ちゃうかもしれないからな。
「ところでフォルター、お前いくつなの?」
皿を洗いながら興味本位で聞いたら、フォルターは口を引き結んだ。
「18だけど」
その手は俺が洗った皿を次々と拭いている。
「なんだ、結構年相応なんだな」
「……えっ、そう?」
急に眼を輝かせるから、変わり身の早さにちょっと引いた。
「えっ、何でそんな嬉しそうなの」
「だってさあ!皆オレのこと子供だ子供だって言うし。15とかさあ」
「あー、そうなんだ」
18といえば、冒険者として旅立った年齢だ。
今、新米冒険者を見たら、確かに初々しく思うだろう。
けど。
「ボコボコにされたのもあるけど、そんな子供にやられてたら俺立ち直れない」
思わず言うと、フォルターはあははっと歯を見せて笑った。
「1対1だと、ちょっとわからないと思うよ、オレ」
「そうか?」
「うん。オレの全力魔法あんな受けても立ち上がられたし……」
「あら、貴方メイジだったの?」
ファルーアが次のお皿を運んでくる。
「そう。話しただろ?円柱の岩の塊みたいなのが……」
「ああ……そういえばそうね。……円柱ね。……突きなさい」
ごがあっ!
「ちょっ、あっぶな!!」
「ファルーア!お前っ、何してんだよ!」
俺達の正面は壁で、そこに洗い場がくっつけてある構造なんだけど、そこから円柱が突き出してきたのである。
しかも、おいおい。
俺の上半身くらいある。
「なるほどね、これは中々使えそう。ありがとう、このお皿も頼むわね」
ファルーアは俺の注意なんて聞かずに、ひとり納得してくるりと踵を返した。
「………」
フォルターはぱくぱくしていたけど、やがて、肩を落とした。
「あのねお兄さん。この壁、岩じゃん?土よりも硬くて、すっごい集中力いるんだよね。…オレ、ちょっと魔法出来るくらいで自惚れてたみたいだ」
俺はなんだか可哀想になって、付け足してやった。
「ファルーアは爆炎のガルフが面倒見るくらいだし、気にすんな。お前も同じ年齢になる頃にはもっとすごくなってるかもしれないぞ」
******
こうして。
俺達はギルドへ、ドーアとフォルターを連れ帰ることになった。
ダルアークの潜入作戦もあるんで、この根城には老人達と、念のための見張りとして迅雷のナーガが残ることに。
「頼んだよ、ナーガ」
「お任せ下さいシュヴァリエ様」
シスコンでもブラコンでもない、恐ろしい関係であった。
12日分の投稿です!
21時から24時を目安に毎日更新しています!
250を越えた…!
なんてありがたいのでしょうか!
ありがとうございます、
ありがとうございます!




