協力しませんか。②
本日2話目になります。
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ざわざわしたギルドの1室。
次の日、アイザックが気を利かせて、レンタル制の部屋を確保してくれていた。
普段はパーティーリーダーが報酬について相談したり、ギルド員がディティアのような冒険者を呼び出して依頼を頼んだりするのに使われるらしい。
俺達は使ったことはもちろん無し。
俺は昨日のことが大分ダメージになっていて、ぼーっと本を眺めていた。
俺と同じ、バッファー。
2つまでらしいけど、重ねがけが出来る有名な冒険者。
ちょっとはバフの話とかしてみたかったなぁ。
祝福のアイザックに、今日は爆炎のガルフがいて、後は男女ひとりずつのパーティーがいる。
今は最後のパーティーを待っているところだ。
「逆鱗の、どうしたぼーっとして?」
突然アイザックに話しかけられたが、頭がついてこない。
「あー、うんー」
結果、適当に答えた。
「ハルトは今ねー傷心中なんだよー」
代わりにボーザックが答えてくれた。
傷心ってのはまた、違う気もするけど。
「ふーん?おい疾風の、逆鱗の何が駄目だったんだ?俺が伝えてやるぞ」
「…ッッ!?あ、アイザックさん!!辞めてください、違いますから!!」
ディティアが真っ赤になって反論するのを眺めて、ちょっと和む。
「ディティアは可愛い反応するよなあー」
ぼやーっと口にすると、彼女は更に赤くなって怒った。
「は、ハルト君は黙ってて!?」
ボーザックが、アイザックに、
「こういう無神経なところだよ、きっと」
と言ってるのが聞こえた。
ちなみに、ファルーアとグランは爆炎のガルフと何やら話し合っているようだ。
そこへ。
「遅くなったわ!」
「……すまない」
「いや-、遅くなりましたすみません」
入ってきた3人組。
1人は気の強そうな、肩にも届かない赤髪に真っ赤な眼の女性。
鍛えられた腹筋が程良く割れているのを、惜しげも無く晒している。
武器は、背中に背負った大きな…あれは剣、なのか?
楕円形のそれはともすれば大盾にも見える。
もう1人は話すのが苦手そうな色黒の男性。
目線は誰とも合わせずに居心地悪そうにしていて、人見知りなんだろうと予想した。
こちらも赤髪に真っ赤な眼。
この人は鉤爪が武器なようだ。
そしてもう1人は…。
「おやあ?君は!」
「っ!うわ、重複のカナタ…さんっ!?」
俺は反射的に立ち上がった。
琥珀色の髪と眼に、丸眼鏡の柔らかい雰囲気をまとったおじさん。
そこに、重複の2つ名を持つバッファーがいた。
この本の著者と分かった時点で、俺の中では先生のような存在になっていたみたいだ。
ちょっと自分でも驚いた。
******
「へえ、君があの逆鱗のハルト君だったんだね!会えて嬉しいよ~。それから疾風のディティアさん。久しぶりだねぇ」
柔らかい空気は部屋中に蔓延。
ディティアは頬を緩めて握手を交わしていた。
「聞いたよ、とても辛かったでしょう。何もしてあげられないけれど、せめて君の仲間のために祈らせてね」
その手を包み込み、ディティアに微笑む姿は神殿の神父みたいで。
なんかすごい雰囲気だな。
拝みたくなるぞ。
「なんだ逆鱗の。もう知り合いだったのか。驚かせてやりたかったんだが」
「いや、もう十分驚いたわ…言えよなー」
「あのねアイザック、ハルトの傷心相手がカナタさんなんだよ」
「……は?お前そういう趣味か…?」
「おいボーザック。誤解を与える言葉を使うなよ…」
「あははっ、ハルト元気出たね!」
******
「僕は重複のカナタ。バッファーです。彼はトロント。彼女はカルア。僕の妻で、トロントの姉です」
「妻ぁ!?」
グランが珍しく突っ込む。
「ええそうよ、よろしくね坊や」
うはあ。
グランに坊やとか言っちゃう人、見たことないわ。
グランははあ、と頷いたけど、不躾な視線を送って、口を開いた。
「…失礼だけど、カルアさんは…」
「歳を女性に聞くのかい?」
「あ、いえ、すんません…」
ぶはっ。
俺が吹き出したら、後ろ頭をやられた。
隣でボーザックも笑って、同じ一発をくらう。
グランの反応が面白すぎたから仕方ないと思うんだ。
「ふふ、綺麗でしょう?僕の自慢ですからね。そして、こちらの2人組は一緒に遺跡調査を行っていた、クロク君とユキちゃんです」
「あの、よ、よろしくお願い…します」
「お、お願いしますっ」
おおー、なんか初々しいぞ。
萎縮している2人組に、俺は微笑む。
「そんな固くならないで、俺もすげーメンバーがいすぎてそわそわしてるしさ」
思わず話しかけると、2人はますます身を竦めた。
「そんなっ、あの、パーティー『白薔薇』と逆鱗のハルトさんのことはすごく聞いてますから…!」
「あー…そうくるかー…、っいて!」
ファルーアに殴られた。
「ごめんねうちのお馬鹿さんが。私達もまだ実感なんてないわ、だから逆に申し訳なくなっちゃうし、楽にしててね」
そっか。
俺達、やっぱり結構知られてきてたんだなあ…。
ファルーアの言う通り、実感…はそんなに無くて。
グランとファルーアの一発で痛む頭をさすっていると、見かねたのかボーザックがにこにこと話し出した。
「俺はボーザック!君達いくつなのー?認証カードは持ってるみたいだけど、雰囲気が若いー!」
「えっ、と、自分は21です。ユキは20で、冒険者始めて1年、です」
流石というか何というか。
こういう警戒心を緩めて親近感を持つような話し方は、俺には難しい…。
ちょっと見習うべきかなあ。
「おお!1年で認証カードか!すごいね、俺達白薔薇は2年かかったよー。あ!ディティアは別ね、なんと半年だって!」
…しかもいつの間にそんな情報得てるんだよお前…。
ディティアは急に話題に巻き込まれて、クロクとユキにぺこぺこし始めた。
「あっ、えっ?私?ああっ、クロク君、ユキちゃん初めましてっ、ええと、ええと…!あの、恥ずかしいんだけど、疾風と、呼ばれてます」
クロクとユキもこの対応に驚いたようで、慌てて同じようにぺこぺこ。
ディティア、俺でもそれが可哀想なのはわかる…。
「し、疾風のディティアさんっ、うわあ、ユキどうしよう」
「く、クロクっ、ああっ、ほら頭下げてっ…!あの、あの!よろしくお願いします!」
「あっ、こちらこそっ」
ぺこぺこ。
ぺこぺこ。
「止めてやろうぜ、初心者いじめは」
遠巻きに、グランが呟いた。
カナタさんとカルアさんは、微笑ましくてたまらない様子で見守っていて動かなかったけど。
トロントさんは窓の外を眺めて我関せずだった。
******
「自分たちは、半年前にカナタさんとカルアさんに助けられて。それで一緒にここまで来ました。だから認証カードもお二人に助けられて取ったんです。パーティーは自立するよう言われてそのままユキと2人ですが、実際はずーっと一緒だったので…」
雰囲気に少し慣れたのか、クロクは漸く普通にしゃべり出した。
茶色い髪に茶色い眼のクロクとユキは、同じ村の出身らしい。
王都に向かう途中で魔物と戦闘になって、苦戦しているところをカナタさんとカルアさんが救ったそうだ。
途中の街で依頼をこなし、認証カードを得て、晴れての王都だと話してくれた。
ちなみに、トロントさんは王都在住のためここで合流したらしい。
クロクはロングソード、ユキはメイジという2人組に多い組み合わせだ。
けど裏を返せば後衛の補助の手段が無く、メイジが狙われると苦しくなる。
特に複数の魔物との戦闘では難しいパーティーなんだよな。
たまに近接も強いメイジがいるんだけど、そういう組み合わせに特化してるんだと思う。
「なるほどねー、大変だったんだねぇ」
ボーザックはすっかり打ち解けた様子で、あれやこれやと話し始めた。
数分はそんな感じだったんだけど、アイザックがそろそろいいかー?と皆をまとめる。
「あっ、はい!すみません祝福のアイザックさん」
…祝福ねぇ、どう見てもカナタさんの方が祝福っぽい見た目だよな。
クロクが姿勢を正すのを見ながら、俺はどうでもいいことを考えていた。
じろじろと眺めていると、アイザックが眉間にしわを寄せる。
「逆鱗の。お前の思ってることが筒抜けなんだが?」
「あれ?そう?」
わざとらしく顔を触ってみる。
アイザックは笑った。
「まあ俺も思ってるから構わん。最初の頃はどこでも2度聞きされたしなあ…。けどな、逆鱗よりは納得いってる2つ名だぞー?」
「うぐっ、ブーメランするなよな!…けど、そうだよな。祝福は役職的にはぴったりだし…?そう考えたら俺って何なんだ…?」
バッファーと逆鱗に結び付きなんて考えつくわけがない。
俺はため息をついてテーブルに突っ伏した。
ひんやりした表面はつるつるで、意外と気持ちいい。
「それじゃあ本題に移る」
そんな俺を華麗にスルーして、遺跡調査の打ち合わせは始まった。
******
「こんな感じか」
アイザックがペンを置く。
どうでもいいけど、めちゃめちゃ綺麗な字で若干引いた。
いや、すごいんだよ?
すごいし、綺麗なのは素晴らしいと思うんだけど、いかつい巨躯ととげとげしい杖のこの人が!ってなる…だろ?
東西南北、4つの隊に分けられた総勢12名。
内訳はこんな感じだ。
北に、クロク、ユキ、トロントさん、疾風のディティア。
東に、グラン、ファルーア、爆炎のガルフ。
西に、ボーザック、祝福のアイザック。
南に、カルアさん、俺、重複のカナタさん。
俺とファルーアに関しては、名高いベテラン冒険者について色々学べ!っていう配慮をしてくれたんだ。
バッファー2人のパーティーとか聞いたことないんだけど、すごく有難い。
「あははぁ、楽しみだねぇハルト君」
やわーっとカナタさんに言われて、俺ははっとした。
「あ、はい、よろしくお願いします」
「うわー、ハルト別人みたいだねぇ」
「う、うるさいぞボーザック」
しっしっと手を振ると、ボーザックは楽しそうに笑った。
まだ日も高くなるところだし、この後早速出発するらしい。
「そんじゃ、とりあえず飯にしようぜー」
グランが言うと、全員が賛成した。
よし、何か気合入ってきた。
「ハルト君、頑張ろうね」
拳を握っていた俺の肩を、ディティアがぽんと叩いた。
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