生きるためなので。②
「それで何が知りたいのかな」
フォルターは声変わりしてないのかまだ幼い声音で無邪気に聞く。
ラムアルはゆっくりと頷いた。
「ダルアークの規模と目的から聞きたいわね」
「総勢1,000人以上、正式な数は知らない。目的は元々は魔物狩りで生計を立てるならず者集団だね」
俺に名乗ったときのように、フォルターはあっさりと言った。
これにはグランとアイザックが顔をしかめている。
「1,000人の構成は?あんた達のリーダーは誰?今の目的は?」
「狩り部隊がいろんな国に散らばってて、総勢800人ってとこ。オレもそこに所属してるし、お兄さんは知ってると思うけど100人近い人数が今オレの管轄下なんだよね。あとは調達とか輸送とかそういう人達が100人~200人くらいと、アジトの食事作ってくれたり洗濯してくれたりする人達、あとドーアみたいな実験担当が数十人」
えーと、あと何だっけ?とフォルターが笑う。
ラムアルはフォルターにお酒を注いで無言で促した。
すると、フォルターはありがとうと言ってひとくち飲んでから、爆弾を投下する。
「オレ達のリーダーはアルダン。ダルアークを創った人だけど、去年死んだよ。今はドリアドっていう交渉とかする奴がいるんだけど、そいつが動かしてる。……たださあ、なーんか…最近迷走気味なんだよね……オレ達、ドリアドの駒じゃないんだけど」
その時こぼした笑みは自嘲気味で、俺は何となく納得して、フォルターに言う。
「だからお前そんな簡単に情報をこぼすのか」
「……まあ、知られたところでオレは困らないと思うしね。それに、ダルアークの殆どは孤児だから、生き抜けっていうモットーがあってさ。この情報話すことで生きていられるならそうするでしょ。お金も何も無かったけどオレは生きるためにダルアークやってきたんだし。……孤児ってさあ、冒険者になりたくても、養成学校に入るお金も無い。雇ってももらえないんだよ?」
「……孤児…1,000人もいて、殆どが……」
ラムアルは驚きに目を見開く。
「ドーアもなの?」
ボーザックが聞くと、彼女は身を食べきって骨になった魚を皿におろした。
「うん、うちらは同じ街の出身だけどね」
ドーアは老人達を見回して笑う。
老人達が、ちょっと居心地悪そうに身じろいだ。
「我々はハイルデンの部族でな。数年前、奴隷狩りに巻き込まれて、逃げ果せた……。お互い天涯孤独になってしもうて、途方に暮れていたところを、そこのフォルターに拾われた」
奴隷狩り…。
俺は、やるせなくなった。
「ちなみにオレは物心ついたころからスラム街でひとりぼっちだよ。お兄さん、同情した?」
戯けてみせるフォルターに、俺は黙って酒を差し出す。
「わあお、優しいねえお兄さん」
「言っておくけどボコボコにされたことは根に持ってるからな」
「逆鱗の……君は小さい男だね。ふふ」
話に交ざったシュヴァリエをしっしっと手で払うと、フォルターはとうとう破顔した。
「ははっ、おもしろいねお兄さんは」
「そういえば、今はハイルデンの奴隷制度が廃止とか聞いたけど」
ドーアが、次の魚を口に放りこみながら言うと、アイザックが答えた。
「そうだ。しかも、そこの白薔薇が王様を手伝って廃止させたんだぜ」
「えー?王様って、もしかしてマルベル王子?それとも宰相?」
意外そうな顔をするドーアに、俺は笑った。
「ああ、マルベルだよ。宰相ヤンドゥールは奴隷狩りしてたから捕まった」
「へえ、国同士が仲良くするためにってのは本当なのか」
ドーアは納得したような顔で、何度も頷く。
皆が不思議そうな顔をする中、ディティアが首を竦めていた。
「ところでフォルター。結局、ドリアドって奴は何がしたいんだ?」
俺が聞くと、フォルターは肉にかぶりついたまま顔を上げた。
「んぐあ?おにひはん、ほれきいひゃう?」
「聞いちゃうんだなーこれが。はい、お水」
ボーザックがコップを差し出すと、フォルターは嫌な顔をしてから仕方なしに水を流し込む。
「味わってたのに。……魔力結晶のでっかいので、何かを動かすーとかなんとか言ってた」
「動かす?」
「うん。……最近地震多いじゃん?あれ、ドリアドがやってるって言ってたよ」
「…………はあ?」
「あーあ、お兄さん酷いねその反応。本当に言ってたんだって。……なんなら、オレがもっと聞いてきてあげるよ」
…………。
……。
「は?」
俺はぽかんと口を開けていたと思う。
「お前、何言ってるの?」
「だからさあ。ドリアドに、オレが聞いてきてあげるって」
「いやいや、お前ダルアークじゃん。それ裏切ってないか?」
「いいよ。さっきも言ったけど、迷走してるし。本当は、お兄さんと戦うのだって嫌だったんだから。オレは魔物を狩りたいの」
言いながらフェンを見たので、叩いてやった。
「いて」
「ふすぅ」
フェンは挑発するように鼻を鳴らす。
「あっ、このフェンリル今笑った。ふうん、ちゃんとわかってるのか。……頭いい魔物は狩らないよ。頭良くても襲ってくる奴は狩るけど」
俺は苦笑した。
よくはわからないが、思いがけず仲間が増えそうだな。
皆も、フォルターを疑ったりはしないようだ。
見ると、グランが頷いてくれる。
「じゃあ頼むよ。どれくらいかかるんだ?」
俺が言うと、今度はフォルターがぽかんと口を開けた。
「……え?何で?信じるの?」
俺が頷くと、ドーアがお茶をすすってから呟いた。
「この人達、お人好し集団だからね」
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