生きるためなので。①
それぞれの部屋を調べに行っていたメンバーが戻ってきた。
白衣の老人3人は、手のひらサイズの魔物に魔力結晶を与えて、実験をしていたらしい。
その内1匹を小さな箱ごと持ってきて、アイザックが老人達に質問を重ねていた。
難しい話はわからないけど、爆炎のガルフとファルーアが中心になって、シュヴァリエとアイザックが加わり、白衣の老人達とドーアを交えてゾンビ化の原因について話しているみたいだ。
グランとボーザック、俺は暇をもてあましていたので、ディティアとラムアルに付き合ってお茶を飲んでいた。
菓子白薔薇は最後のひと箱で、俺はラムアルにそれを差し出す。
「とりあえず、ドーアはギルドで保護するわ」
ラムアルが言い出すので、頷いておく。
彼女は菓子をひとひら摘まむと、驚いた。
「何これ、美味しい」
「すごいだろ」
笑ってみせると、2枚3枚と摘まんで、ラムアルがほっ、と息をつく。
「ディティアが言ってたわね、お菓子になったって」
「あっ、うん!そうなの!」
「落ち着いたら、城でお茶をしないとね。これに合うお茶を淹れるわ!」
うふふ、と笑い合う2人に、ボーザックが不思議そうな顔をした。
「そういえば水と油みたいだったのに、仲良くなったね」
彼の足元には、銀狼がぴったり寄り添ってもふられている。
そっちも随分仲良くなったと思うけど。
そっと手を伸ばしたら、フェンがフンっと鼻を鳴らして身体を捻った。
……酷い待遇である。
******
「ドーア、ドーア。いるー?」
その声がしたのは翌日。
俺達はそのまま根城の一画に泊まり込んでいて、昼食の準備を済ませたところだった。
まさにテーブルを囲んで食べようとしていたので、そこには生温い空気が漂っている。
「お、何かいい匂い…………ってお兄さん!?何してるのさ!?」
「よおフォルター」
ひょいひょいと軽い足取りでやって来た、白に金を混ぜたような金髪に明るい鳶色の眼の青年は、あどけなさを残した顔で盛大に驚いてくれる。
中々いい反応だ。
「やあ、その節は世話になったね」
何故か俺の横に座っているシュヴァリエが、爽やかな空気を撒き散らしながら、ふふっと笑った。
「げっ、ちょっとお兄さん!その人は反則だって!!」
「あれ?フォルター、知り合いなんだね?」
ドーアがフォーク片手に眼をぱちぱちさせる。
「ドーア……君、自分の状況わかってる?」
「うん。この人達はギルドから来たんだって」
「そうだけどそうじゃなくて……」
フォルターは頭を抱えて首を振ると、はあー、とため息を付いて、空いていた席に座った。
「まあ、どうせ?この人数相手じゃ良くて相打ち……十中八九オレ助からないし。お兄さん、オレも交ぜてよ、お腹空いた」
はあー、とため息をつきながら、フォルターは隣にいたディティアに眼をやった。
「……………」
「うん?……な、何かな?」
ディティアが首を傾げて、眼をぱちぱちする。
「って、ええー!?疾風!疾風のディティアだよね!?本物!?いや、白薔薇だとは知ってたけど!どうしよう、オレ、ファンなんだよね!」
転がり出そうな程眼を見開いて、フォルターは仰け反った。
「ほお、ご指名だぞディティアー」
「ぐ、グランさんっ、そういうのは茶化さなくてもいいんです!」
ディティアがわたわた手を振り、グランが笑う。
「さ、触ってもいい?」
そろそろと手を出すフォルター。
ディティアは困惑したのか同じようにそろそろと手を出す。
フォルターはそれをぎゅっと握ると、項垂れた。
「やばい、お兄さん、オレ今すごい」
「いや別にすごくないから。早く放せ」
思わず突っ込んで顔をしかめると、フォルターはいやいやするように首を振った。
「やだよ放さないよ」
「さすが、疾風のはやるね。けれど、そろそろ放してもらおう。彼女は将来グロリアスに入るのだから」
何故かシュヴァリエの援護射撃?が入ったけど、俺はさらに顔をしかめたはずだ。
「入らない!」
「入りません!」
ディティアも自分で否定して、手を引っ込めた。
「白薔薇辞めるつもりはないんだねぇ」
フォルターが名残惜しそうに手を握ったり開いたりしながら言うと、ドーアが声をあげた。
「ねえ、とりあえず食べようよ。うちらお腹空いたんだけど。……あと、白薔薇ってどういうこと?」
******
「君達白薔薇だったの!?何で言わないのさ!!」
「わしらは違うしのお」
ガルフが楽しそうに言うと、ドーアはわなわなと肩を震わせた。
「うちら、昨日の夜を無駄にしたんだ……」
「大丈夫よ。白薔薇だって名乗ってても、貴女が知りたい情報は何一つ教えないわ」
ファルーアがいじめっ子みたいな発言をする。
いや、事実ではあるんだけどさ。
「そんな!これから絶対に役に立つ薬になるのに?」
食い下がるドーアに、今度はラムアルがふんと鼻を鳴らす。
「これから?……武勲皇帝にも、あたしの弟達や妹達にも、もうこれからなんてないわ?」
「…え…弟、妹……?」
「そういえば名乗ってなかったわね。ラムアル・ヴァイセン。新しい皇帝を継いだわ。あたしの兄弟姉妹達は、2人を残して死んだのよ」
聞いていたフォルターが、口の中いっぱいに食べ物を詰め込んだまま、あーあ、と言う。
「……それでもまだ言えるのかしら?」
「そ、それは……でも」
「んぐ。……ぷっはあ、まあまあラムアル皇女、いや、もう皇帝なんだね?それくらいにしてやってよ。ドーアは、何も知らないんだから」
フォルターは葡萄酒で満たされた杯を、一気にあけた。
そして、自分の杯だけでなく、ラムアルの杯にも継ぎ足す。
とぽ、とぽ、と、液体を注ぐ音が食卓に響いた。
他の皆は黙々と食べることを選択し、俺もそうすることにする。
「ふん、いいわ。それじゃああんたが聞かせてくれるのね」
ラムアルはその杯を一気にあけると、葡萄酒の瓶をフォルターに向けた。
フォルターは、同じように杯をあけ、にやりと笑うとグラスを差し出した。
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