何故活動してるのですか。⑤
「ください」
「条件次第」
「条件は何ですか」
「ダルアークの情報の開示」
「わかりました」
「はやっ」
ドーアは忠犬よろしくその場に座り込み懇願。
すんなりと情報を開示することを呑んで、漸く俺達を見回した。
「ところで君達誰?」
「おい……」
俺は肩を落とす。
「ドーア、彼等はわしらを討伐に来たギルド員らしい」
シュヴァリエ達に連れられて大人しく控えていた白衣の老人が言うと、ドーアはローブをとって顔をしかめた。
現れたのはソバカスのある、あどけなさを残した女の子。
長い癖のある黒髪に少したれた茶色い眼で、年の頃は18前後だろう。
「えっ?ギルド?討伐??」
「そうだ。君達ダルアークは、ヴァイス帝国にかなりの被害を与えた。よって、討伐依頼が出されている」
アイザックが、がつん、ととげとげしい杖を床に打ち付けて、説明する。
「えっ、被害って…?…あれは公正な実験だよ。皇帝にも許可取ったって、ドリアドが……」
「ドリアド?……皇帝に魔力結晶を持ってきた奴がそんな名前だったような」
ラムアルが首を傾げると、シャルアルがすすっと前に出た。
「ドリアドは調達担当のボス」
ドーアはそれを聞いて、おかしそうに笑った。
黒ローブがそれに合わせてゆらゆらする。
「ふはっ、調達担当のボス?確かに!……ドリアドはダルアークの参謀みたいなもん。交渉とか、物資の調達はドリアド主体でやってるんだ」
ラムアルがそれを聞いて、唇を噛んだ。
「あいつのせいで、皇帝は死んだ。あんたの実験の成果で、ゾンビ化してね」
「……は?」
ドーアが、間の抜けた顔をする。
「なんじゃと?」
控えていた老人達も、何だか空気がおかしい。
「え?は?……ゾンビ化?皇帝が?……いや、待って。それじゃあ帝都は?」
額に手を当て唸るドーア。
老人達も狼狽えるばかりで、やっぱり何かおかしかった。
「帝都は1度壊滅した。今は皇帝が討伐されて新しく皇帝が立った。お前達の実験の成果が実って、大量にゾンビが発生してたぞ」
アイザックが言う。
怒りで震えているラムアルの横に、シャルアルとディティアが寄り添う。
それを見回したドーアは、目を見開き、みるみる青ざめた。
「ま、待ってよ。て、帝都には、魔力結晶が蔓延して……だからおかしくなったっていうのは聞いたけど。……どういうこと?うちら、何も聞いてない。それに、そんなのは成果じゃなくて……」
それを聞いて、思った。
こいつら、本当にダルアークなのか?って。
想像と違いすぎたから。
困惑を隠せない俺達は、呆然と座り込んでいるドーアに、しばらく何も返せなかった。
******
「うちらは、魔力結晶について研究してる、ダルアーク所属の研究員。魔力を込めて使う実験や、製法の模索をしてた。……あの紅い色が魔物の血と似てるから、ヒントを得て色々やってたんだ」
ドーアは、老人達と身を寄せ合って、肩を落としている。
「中毒者が出てからは、使う量とか、結晶に吸わせる血とか、諸々データをとっていて……それがある日、魔物のゾンビ化を引き起こした。……人間にもそれが起きることは、予測できてたんだよ」
広い部屋は食堂になっているのか、キッチンが備え付けられていた。
ディティアとファルーアが何処かからお茶を発掘してきて皆の分を用意する。
驚いたことに火も無くて、小さな魔力結晶を砕くことで調理していたらしい。
今回はというとファルーアがお湯を沸かした。
大量に用意した水は、一瞬で殆どが蒸発して白くけぶり、残った分がお茶になったようだ。
「それで、どうして実験を続けたの?ゾンビ化するって分かってたのに」
ラムアルが聞くと、ドーアは困ったような顔をした。
「どうしてって。夢の薬になるかもしれないのに、諦められる?弱って動けなくなった人も、これでまた立ち上がって歩ける。寝たきりの人にも効果があったんだ。うちらは、中毒者を出さないようにしてたよ?拡散させたのは武勲皇帝じゃないの?」
「それは…っ」
ラムアルが言い淀む。
…お互いがお互いを責めるような流れになってしまったのが気まずいのか、ドーアはラムアルから眼を逸らした。
ラムアルもまた、俯いてしまう。
ふう。
グランが、ため息をついた。
「……とりあえず起きたことはもうどうしようもねぇんだ、先に進ませようぜ皇帝。……おい、はっきりしてもらう。お前らダルアークは、何で活動してる?目的は何だ?」
紅い髪と紅い眼の巨躯に詰め寄られて、ドーアは、縮こまった。
「う、うちらは、だから……」
「お前らのことはわかった。ダルアーク全体は、何してるんだ?そもそもお前らの頭は何処で何してる?」
さらに詰め寄られて、ドーアが助けを求めるようにこっちを見た。
……いや、俺を見られても。
肩を竦めてみせると、彼女はするするとローブを被りなおして、言った。
「魔力結晶の増産……だと思う。何かに使うつもりで、数と……あと、大きさに拘っていた」
「増産かあ…本当に造れるとして、何するつもりなんだろう?」
ボーザックが戯けてみせると、少しだけ安心したのか、ドーアは続けた。
「……噂なんだけど。白薔薇って奴等が魔力結晶を造れるらしいんだよ。どういうわけかそいつら、王族や皇族に謁見して回ってんだって。だから、わざわざこんな、帝都の近くまで移動したんだ」
「しろば……むぐ」
ラムアルの口を、シャルアルが両手を伸ばして塞ぐ。
シュヴァリエがやたらキラキラした雰囲気で言った。
「へえ、じゃあダルアークとやらは、白薔薇を追い掛けていたのかい?」
「……そうだね、そいつ等捕まえて、ここに連れてくるねってフォルターの奴が言ってたし」
「ふぉる……いてぇっ!」
ファルーアが脛を思い切り杖で強打。
俺は悶絶した。
……くそ、ファルーア……覚えてろよ?
「……フォルター、狩り担当と聞いた。あってる?」
シャルアルに、ドーアは頷く。
「そう。あいつは狩りばっかりしてる。勘違いしないでね、魔物相手だから。……数日もすれば戻ってくるんじゃないかな。あいつの方が詳しいから、そっちに聞いてよ。うちらはあんまり知らないんだ、正直」
俺達は、その情報に、顔を見合わせた。
ドーアはそれを見ながら、小さく、遠慮がちに呟いた。
「それでさ、その、サンプルはもらえるのかな?」
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