何故活動してるのですか。③
日は既に暮れかけ。
海へと沈んでいく太陽が、あらゆるものに長い影を落とさせている。
オレンジ色の夕焼けは、ラムアルとシャルアルの炎色の髪と混ざり合って、なんとなく2人が太陽に特別愛されている様に見えた。
根城はひっそりと静まりかえっている。
砂浜沿いにぽっかりあいた巨大な洞窟が見えるんだけど、その奥がそうだという。
多少高い波もシャルアルが言うにはいつも通り。
それなのに、人影ひとつ見当たらない。
五感アップもかけているけど引っかかるような気配も無かった。
「朝まで待っても良いし、このまま攻めてもいい」
シャルアルが、岩陰に身を潜ませて、小さくささやいた。
「そうね……閃光のシュヴァリエ、こういう時はどっちがいいのかしら」
ラムアルが、後ろにいたシュヴァリエに確認を取る。
「おや、僕の助言でいいのかいラムアル皇帝」
「いいから聞いてるのよ。悔しいけど冒険者としては貴方の方がすごいもの」
「それはいい傾向だね。ただ、それ以外でも僕は君に負ける要素は無いよ、皇帝」
「そんなこと無いわ。未来の婿には不自由させないつもりよ」
……。
聞いてる方は面倒くさくなる会話である。
「いいよどっちでも……ほら、行こうぜラムアル」
俺はどうでも良くなって口を挟んだ。
「俺も賛成だ、待ってるのは性に合わねぇし」
グランが援護射撃。
「逃げる準備とかしてるかもしれないし、とりあえず中の様子は知りたいな」
ディティアも言うと、ラムアルが苦虫をかみつぶしたような顔をした。
「ディティアがそう言うなら……」
あ、俺の意見はスルーですか、そうですか。
「ははは、さすがだね逆鱗の」
「お前、馬鹿にしてるだろ……」
「はいはい、とりあえず行くわよ皆。シャルアル、先導をお願いね」
ファルーアがまとめて、俺達はそろそろと洞窟へと入った。
******
〈これは……〉
入口から少し進むと、すぐにそれが目に飛び込んできた。
ぼんやりと光る、親指ほどの紅い石。
それがガラスのコップみたいなのに入れられて、通路の彼方此方に置いてあったのだ。
〈ランプの代わりにしているんだわ……明るい〉
ファルーアがささやく。
血結晶。
それに魔力を込めて、光らせているのだ。
根城の中はごつごつとした岩場かと思いきや、意外にも滑らかな岩肌を晒していた。
増水した時には、俺がすっぽり隠れるくらいは浸かるようで、俺の頭くらいの高さから壁の色が違う。
通路は3人並んでも余裕があるほどで、天井も大分高い。
シャルアルが船もあるって言ってたし、水が入ってくる間は船で移動出来るようになっているんだろう。
〈あ、そうか……これが魔力だとしたら……魔力感知〉
俺はバフを広げる。
総勢11人はすっぽりと入れることが出来るようになっていた。
まあ、フェンには申し訳ないけど。
すました顔で前を歩く美しい銀狼に、心の中で謝っておく。
奥の方に向かって、魔力が濃くなっているのが見える。
つまり、奥にはもっと多くの結晶があるはずだった。
〈へえ、こんなバフあるのね!〉
魔力の集まりを視覚化するこのバフに、ラムアルは興味津々できょろきょろした。
〈あっ、ハルトの腕輪、すごいわね。……宝石、エメラルド?……何これ綺麗〉
俺は苦笑した。
目聡いなあ、ラムアル。
〈ハイルデン産のエメラルドに魔力がすっごい含まれてるんだ。こいつを軸にしたらメイジやヒーラーはすっごく助かるらしいぞ〉
〈ほー、そりゃあ、高く売れるな〉
アイザックが会話に参加する。
〈……すごい、あの国、そんなもの隠してたの?〉
〈なるほどな。それで奴隷業からすんなり足を洗えたのか〉
アイザックは納得したのか、俺の背中をばしりと叩いた。
〈いっ……!〉
痛い、すごく痛い。
〈やるな逆鱗の。そうか、そりゃあ奴隷制度廃止の英雄だなんて言われるよなあ!〉
〈何だ、知ってたのアイザック?〉
ボーザックが小さく笑う。
〈ああ。英雄白薔薇っつー噂はすぐ耳に入った。けど上手くいかないんじゃないかと疑ってたんだよな。製鉄しかない国で、重要な労働者だった奴隷達がいなくなるんだぞ?〉
〈誰が金払って雇うのかって話になるだろうしな。この宝石見付けたのはハルトだ。ハイルデン王も喜んでたぞ〉
グランも参戦。
奴隷制度なんて無いほうがいいって、俺は思ってるし。
新しい産業として、ハイルデン王マルベルがやってくれる。
だから、きっと大丈夫だ。
〈中々やるじゃないハルト〉
ラムアルからもお褒めの言葉をもらった。
敵の根城のど真ん中で、緊張感に欠けている気もするけど。
そうしている内に、シャルアルが、横穴を指差した。
〈ここ、部屋になってるから。いったん入って〉
入口からは上り坂になっていて、途中らせん状の坂も登った。
ここは水が入ってきても、もう浸かることがない高さにある。
中に入ると、シャルアルが音を立てずに扉を閉めた。
〈この先から、人がいる気配がする。私が人数を見てくる。合図で、突入してほしい〉
〈シャルひと…んぐ!?〉
ラムアルが眼を見開いて大声を上げそうになるのを、ディティアが制した。
〈私も一緒に行くねシャルアル。……合図は?〉
シャルアルはディティアに頷いて、手に魔力結晶を転がしながら、合図を教えてくれる。
ボスひとりなら爆発1回。
ボス以外に5人未満なら爆発2回。
ボス以外に5人以上なら爆発3回。
ボスがいなかったら、戻ってくるらしい。
〈もし、30分何も無かったら、突入して〉
〈わかった。……五感アップ、反応速度アップ、魔力感知〉
俺は2人にバフをかけなおして三重にする。
〈ありがとうハルト君。じゃあ、行ってくるね〉
〈行く〉
俺達は頷いて、そっと出て行く2人を見送った。
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