新皇帝の誕生なので。③
皇帝ヴァイセンとその皇子、皇女達5人は、アイザックによって手厚く浄化され、棺に納められた。
ラムアルは、城から出してきたという礼服に身を包み、しっかりとそれを見送る。
……真っ赤なマントには金の刺繍で獅子が画かれ、炎色の長い髪がよく映えた。
「……さようなら、皇帝。……可愛い弟、妹達。あたしが、新しいヴァイセンになる」
しっかりと前を……時代の先を見据えるラムアルの紅い眼は、もう涙を流すことは無かった。
……皇帝は、泣くな。
きっと、その言葉を胸に刻んでいるんだろう。
後ろにいたシャルアルは、武勲皇帝と同じ金の双眸で、しっかりと見届ける。
「私は、諜報活動でラムアルを助ける」
無表情で物騒なことを呟いているけどな。
******
2週間もせずに、体力のある男達が先に帝都に戻ってきた。
それ以外に、東側からも冒険者や商人がやって来る。
彼等は、すっかり綺麗にされて浄化も施されたあの広場に集められ、ラムアルによって事の顛末を聞かされた。
それでも、力強く話すラムアルに、反対を示す帝都民はいなかったし、商人は建築資材等の売り時とばかりに張り切っていたし、事はスムーズに進んだ。
ヴァイス帝国は、生まれ変わったんだって、誰もが思ったんじゃないかな?
その間、俺達は東側の魔物を狩り、街道の安全を確保。
ダルアーク討伐のための各国への連絡も滞りなく終わった。
……無事、国宝は各国で1つずつ、所持されることになったのだ。
ノクティア王アナスタからは、貰った王家の証と同じ印の封がされた手紙も返ってきた。
『大盾は綺麗にしてるかい、グラン?……菓子白薔薇は爆発的な人気だ。ハイルデンから来た商人が大量に仕入れてったよ。ところで、お前達が送り込んできた部族はなんだい!いきなりナンデスカットの前で踊り出して、今じゃ大人気の催し物だよ……売上もうなぎ登りだから許すけど、面倒を増やすのはやめてほしいね。……それと、今回の件はわかった。お前達のサポートは任せな。欲しい装備があれば見繕ってやるからね』
……なんとも頼もしい手紙だ。
ちなみに、忘れてたけどハイルデンから手紙を持たせた部族は、無事に王都に着いたことがわかる。
しかもナンデスカットの部屋を借りて、バイトもし、希望者は冒険者養成学校に通っているそうな。
すごいやる気である。
次に、ハイルデン王マルベルからは白薔薇宛てに濁ったエメラルドが届いた。
きっと、国の立て直しが上手くいってるんだろう。
『見とけ、ハルト』
ひとことだけ、そう付け加えられていた。
もちろん、魔力結晶の件も快諾してくれたわけだけど。
そうしている間に、女性や子供、お年寄り達が戻ってきた。
ラムアルは彼等にも話をして、復興の進行状況を伝える。
帝都民達は、彼女の話をちゃんと聞いてくれた。
******
全部が元通りとまではいかなかったが、帝都が落ち着いた頃。
ラムアルの即位式が行われた。
真ん中にある円形の広い台を中心に、すり鉢状に坂になった広場で、帝都民達があの日を思い返しながら思い思いの顔で集まっている。
俺だって、思い出すくらいだから。
悲惨な思いをした帝都民達は、もっと不安だったり辛かったりするのかもしれない。
その真ん中。
皇帝のマントをまとい、彼女は堂々と立つ。
拍手と歓声。
期待と不安。
響き渡る声を一身に受け止めながら。
ヴァ、イ、セン!
ヴァ、イ、セン!!
「愚民共!!我を誰と心得るッ!」
オオオーーーッ
その日、ヴァイス帝国の新皇帝、ラムアル・ヴァイセンが高らかに名乗りを上げた。
「……すごいね、ラムアル」
「ああ。あれが皇帝なんだな」
「私ね、ハルト君。皇族の強さって、ちゃんとあるんだなあって思った」
「そうかもな」
俺はディティアに笑って、グランを振り返った。
ラムアルが皇帝になった今、その話をする必要があると思ったんだ。
「グラン」
「何だ?」
「どうすんの?2つ名!」
「あっ、それ俺も思ってた-!」
ボーザックが食いつく。
グランは髭を擦りながら唸った。
「おお……そりゃあもちろんラムアルにも頼むつもりだが」
「あとはラナンクロストにも伝えて……ふふ、完璧ね」
ファルーアが妖艶な笑みをこぼす。
「…ああ、そうだな。後はダルアークとやらを蹴散らして、もっと名を上げるしかねぇだろうよ」
そうだな。そうしよう、グラン。
声には出さなかったけど、俺は頷いた。
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すごい!
みなさまいつもありがとうございます!
5月2日分の投稿です。
毎日更新しています、が、連休中は時間がまちまちな予感です。




