協力しませんか。①
本日は2話投稿予定です。
毎日更新中です!
じわじわ読んでくれてる方がふえてきました。
うれしいです。
よろしくお願いします。
「そんじゃあ本題といこう」
アイザックは俺をたっぷり哀れんで(馬鹿にして)、遺跡調査の話に移った。
「実は、俺達グロリアスは今のところ別々に動いててな」
しかも、いきなり衝撃的なことを言う。
「別々なんてことあんのか?」
グランも不思議そうだ。
「ああ。ほら、トップがあれだろ?王都では別々になることが多いんだ」
「成る程な、王国騎士団か…」
「そう。それで、俺と爆炎で遺跡調査をしてる」
「爆炎のガルフと?」
ぴくりと反応したのはファルーアだ。
彼女が腕を磨いたら2つ名をやってもいいって言っていた白髭の爺さんを思い返す。
かつて、地龍を屠ったという教科書にも載る人物だ。
「そうだ。迅雷は……正直よく分からん。あいつ喋らねぇから」
「ええっ、あの人、パーティーでも話さないの!?」
今度はボーザックが目を見開く。
「結構有名よね。閃光がいないとあんまり動かないってきいたことあるよ」
ディティアがそれをキャッチして投げ返す。
「そーなんだよなぁ。だから遺跡調査は『私は待機しています』ってそれしか言わなくてよ…ま、いいんだけど」
「いいんだ……」
最後は俺が拾った。
「そんでな、資料あるだろ?そう、これ。この地図は昨日更新された最新版だ。俺とガルフでちょっとずつ回ってる。他にも2組受けてるパーティーがいるんだが、そいつらは北を、俺達が南を受け持ってる状態だ」
地図を覗き込んで、俺達は感心した。
かなり細かい。
そして宣言通り南北に長い地図だ。
「元々地下都市だったのか、天井部分が崩れたから発見された。その都市の上の方が地上に出てたんで、その部分は既に調査済みだったんだ。小さい遺跡だと思われててな。地上と繋がる部分はその時には見つかってなかったんで、今回大騒ぎになった。ここ、崩落部分から入れる」
アイザックが崩落部分を指差す。
「あー、そんでな。疾風は知ってるよな、前に見つかった古代都市」
「はい、森の中のですね」
「それと同じ、魔法都市だったみたいでな…罠が多いんだよ」
「あぁ…嫌なパターンですね」
「それをガルフ爺さんに手伝ってもらって消しながら、建物調査してくんだけどな、骨が折れるのよ」
「ええ、そうでしょうね」
「そこで、だ」
アイザックは意味ありげににやりと笑う。
「協力、しねぇか?」
「あ、お断りします」
『ハルト!』
即答したら怒られた。
「はははっ、お前面白いな逆鱗の!」
「嬉しくないって…」
「安心しろー、何も全員一緒に探索ってわけじゃねぇよ、実は北を回ってる2組とも協力してんだ。そっちは3人と2人のパーティーでな。もう一組きたら、人数分けて東西にも地図を延ばそうって話になってたんだよ」
「ああ、成る程…そういうことか」
グランが納得して背もたれに寄りかかり、髭をさすった。
「12人もいれば東西南北網羅出来るだろ」
「報酬は?」
「今回は決まった額じゃなく成果制だな。とりあえずの地図完成で金が出る。あとは遺跡内で見つけたアイテムはよっぽどのもんじゃなきゃ貰えるぞ」
「え、アイテム貰えるんですか?」
ディティアが驚く。
「おう、前の森の遺跡内で見付かったのと同じようなもんが出てくる。だから研究用にはしないから使えるなら持ってけってよ。ただし、どんなアイテム取ってきたかは申請がいる。それ以外を持ってたら罰金か、二度と冒険出来なくなるそうだ」
「そうなんだ……ちょっと意外」
アイザックは小さな石ころを取り出した。
親指大の小さなものだ。
紅くて…ルビーみたいだけど、中に何か…血管みたいなのが透けている。
「一例だが、これはそっから拾ってきた」
「!、これ、魔力結晶じゃない!」
反応したのはファルーア。
聞き慣れない言葉に首を傾げていると、触ってもいい?とファルーアがアイザックに頼んで了解を得た。
「ほら」
その手に乗った紅い石ころの中、血管みたいな部分が光る。
「ファルーア、これ何?すげー綺麗なんだけど!」
ボーザックが顔を寄せてまじまじ見つめる。
「魔力結晶は魔力を溜めることが出来る石なの。どうやって作ったのか、はたまた掘り出したのか謎なんだけど…魔法都市の遺跡内ではたまに見つかるのよ。装飾品としても高価なのよね」
彼女が石を置いたが、それは光ったままだった。
「魔法都市では、これをセットすることで武器を強くしたり、生活に役立つものを動かしたりしていたんじゃないかって言われてるわ」
「すごい、夜にランプが要らなくなるな」
「これじゃあたりないけどねー」
俺はボーザックと触ったりして感心。
グランもディティアも知っているのかあまり関心を示さなかった。
うーん、もしかして授業で習ってたのか?
…これって、バフとか入れたらどうなるんだろう。
俺は気になって、そっと摘まんだ。
ちょうどいいや、練習がてら浄化のバフにしよう。
ビシィッ!
「うわっ、わ、わ」
石が真っ二つになって、からからとテーブルに落ちる。
俺はさーっと背中が冷たくなるのを感じた。
「わ、わ、ご、ごめんアイザック!ど、どうしようこれ、うわあ」
「あんた……何したのハルト?」
「いや、魔力を溜めるっていうから、バフを入れてみようかなって…」
「馬鹿?この欠片じゃ入りきらないわ!……ああ、勿体ない」
「そうなの!?……アイザック、さん。すみませんでした…これ、高い?」
頭を下げる。
アイザックは堪えられなかったのか、笑い出した。
「お前、やってくれるな!あー、ほんと飽きないわ!白薔薇のリーダー、これ、協力断れないだろ!?はははっ」
グランは手を額に当てて、息を吐いた。
「断るつもりもねえけど……これじゃ締まらねぇなあ」
「よし、それでチャラだ。まだ持ってるしな!」
******
「ハルト」
「はい、グランさん、まじですみませんでした」
「わかってるならいい。弁償とか言われたら小遣いから差っ引くけどな」
「はい」
グランは肩を落とした俺を、笑ってぶっ叩いた。
「ま、いいじゃねーか!今回は対等なパーティーだ。前みたいに無名じゃねぇし。明日に備えて各自好きに過ごせ、宿屋集合な、解散!」
後の2組を紹介するってことで、明日ギルドに集合することになった。
まだ日は高かったし、俺達は宿を取って、久しぶりの王都を満喫することになったのだ。
グランは宿で大盾を磨くらしいし、ボーザックは食べ歩きをしてくるらしい。
ディティアとファルーアは商店街を回るとのこと。
俺は、前来たときに気になっていた本屋に行くことにした。
商店街の一画に、その本屋はある。
ひっそりした裏路地で、こぢんまりした造りだけど、並べられた本に、バフに関するものも多くあってすごく気になったのだ。
潰れてなくてよかった…。
俺はほっと息をついて、扉をそっと押した。
俺の背より高い本棚。
古い本の香り。
静かな、ひっそりした空間。
結構好きな雰囲気だ。
俺はバフの本が並ぶ一画を目指す。
小さな本屋には、カウンターに分厚い眼鏡のお婆ちゃん、後はお客がもう1人だけだった。
そうだ、この本の著者と同じ人って他にも本出してるのかな。
俺はバックポーチからボロボロの本を引っ張り出す。
えっと…著者の名前は…。
ぱらり、とページを捲ったときだった。
どんっ。
「おあ」
「あっ、これはこれは!申し訳ありませんね」
俺の手から、ばさりと本が落ちる。
ぶつかった男が俺より先に拾い上げてくれた、が。
ぽろりと表紙と中身が分離してしまった。
ばらばらーっと広がるページ達。
「あ――あぁっ!?」
俺は思わず叫んでしまった。
「これは……」
拾い上げてくれた、ものすごく優しそうなおじさんは、散らばった本を呆然と見ている。
俺はあまりに呆けているおじさんに、叫んで悪かったかもと思って取り繕った。
「あ、いや、ごめんなさい。使い古してたから……」
慌ててしゃがみ込み、拾おうとした時。
がしり。
掴まれた。
腕を。
「君、バッファーなのかい?」
「えっ?……あ、え?はい、そうです、が?」
ものすごく包み込まれている。
手を。
おじさんは丸眼鏡で、その髪も瞳も優しそうな琥珀色だった。
だけど、なんだこれ??
俺は驚いて固まってしまった。
「こんなに使い古したこの本、僕は見たこと無くて……今とても感動していたんだ」
「あ、そう、ですか……」
やっとのことで答えると、おじさんは微笑んだ。
「……嬉しいなあ、こんなこともあるんだね。……これをどうぞ、新装版で追加バフも記載してあるんだよ。あと……そうだ、嬉しいかわからないけど」
おじさんはやっと手を離すと、バックポーチから同じサイズの本を出し、最後に何か書き込んだ。
「…えっと?」
ぽんと渡された本。
確かに、前のより厚い。
おじさんはにこにこしたまま使い古してバラバラになった本を掻き集め、呆然としている俺に笑顔で会釈すると、両手にそれを持ったまま、いなくなった。
…優しくてゆったりしているのに、何故か嵐のような時間だった。
******
「で、その本がこれ?」
宿に帰った俺は皆にそのことを話した。
ボーザックが本をぱらぱらする。
横から覗き込んでいたディティアは、あるページを開いた瞬間に飲んでいたお茶でむせた。
「んぐっ、…げほげほっ、わ、わあーー!?」
それに驚いて、ストレッチをしていたグランが寄ってきた。
「あ?どうした?」
その、最後のページにあったのはサインだ。
そういえば、何か書き込んでたっけ。
「ぶっ、ちょ、ちょっと!ハルト!あんた…馬鹿なの??」
ファルーアも覗いてから信じられない!と、言い出す。
「ええ?だから、何?」
「これ…重複のカナタのサインだよ!?この本の著者も、重複のカナタ!!」
ディティアが叫ぶ。
え。
重複?
俺は目を見開いた。
「ええ!?あのおじさんが有名な重複!?」
「うわあ、その場でサイン確認もしなかったんだハルト…」
「いや、ちょっと放心してたしさあ…」
「ほんと、あんた馬鹿ねぇ…」
「ある意味すげぇな、しかもお前、知らずにその本読んでたんだろ?」
「う…そうだけどさあ…」
俺はサインをまじまじと眺めた。
重複のカナタ。
崩した文字だけど、しっかりと読むことができた。
毎日更新中です。
ブックマークうれしいです!
ありがとうございます。
よろしくお願いします!