意志はここにあるので。⑤
バフがすっかり切れた。
俺とディティアは、動けなくなって、壁にもたれていた。
「……」
「………」
言葉を交わすわけでもなく、ただぼんやりと動き回る人影を眺めるだけ。
それでも、その視界にはグラン達が見えている。
「……生きてたな」
「うん、生きてたね」
思わず、口元が緩む。
ちらっと見ると、ディティアの頬も緩んでいた。
「心配掛けやがって!」
「あははっ、アイザック久しぶり~」
遠縁の親戚と戯れるボーザック。
イルヴァリエが一緒にいる。
シュヴァリエと、戻ったカルヴィエと共に、状況確認をするグラン。
ラムアルが、気丈にもその中にいた。
それから、爆炎のガルフに何やら話している、女性にしては背の高いファルーア。
「…良かったね」
ディティアはそう言って、よろよろ立ち上がった。
「いたた……すごい、五重ってこんなになっちゃうんだ」
俺はと言えば。
驚いて声が出なかった。
……え?何で立ててるの?
俺、指一本すらきついんですけど??
「ディティア…動けるのか?」
「えっ?…うん、すごく筋肉痛みたいになってるけど。…歩くくらいなら」
「…………え?」
「え??」
彼女は眼をぱちぱちして、またゆっくりと座った。
「あっ……こ、ここにいようかな??」
それがおかしくて、俺は噴き出した。
「ふっ、ははっ、いいよいいよ!びっくりしただけ!」
「な、何かごめん……?」
そうこうしてる間に、とことこと歩く小柄の少女を見つけた。
「……ん?」
こんな所に何で?という疑問より先に、俺は思った。
オレンジの髪…?
その子はグラン達の方に向かっていき、やがて…。
「おお、シャルアル」
グランが声を掛けた。
その名前は「やっぱり」と思ったけど、何でグラン??
それに驚いて振り向いたのはラムアルで。
「シャル!!」
小柄な少女は、ラムアルにぎゅーぎゅーにされた。
******
とりあえず、大規模討伐部隊は移動することになった。
その頃には、空は暮れ始めていて。
ゆっくりと濃紺に塗り変わる空を、俺は。
……格好悪いことに、グランの背中で、見ていた。
「鍛えなきゃなぁ…」
ラムアルとファルーアに支えられながらも歩くディティアを見ながら呟く。
どう頑張っても、俺は身体中が軋んで歩けなかったんだよ。
グランが笑った。
「なんだよ…」
「いや、ディティアと張り合うのは相当だろうなと思ってよ」
「わかってるけどさあ……やっぱ、これじゃあさー、締まらないだろ?」
「そうだね」
隣を歩くボーザックも笑う。
俺も思わず、ふふっと笑った。
横たえられた皇帝ヴァイセンと、謁見の間に残された4人の皇子、皇女達。
可哀想だけれど、夜に作業するわけにもいかず、俺達の向かう先はギルドだ。
ラムアルは意志はここにあるからと、自身の胸を張って、皆を先導した。
やってきたシャルアルの話も、そこで聞くことになる。
討伐部隊も相当疲弊していたけれど、重傷だった人も含めて、アイザック達ヒーラーが一心不乱に治療に専念したことで、全員がしっかりと己の眼で事の顛末を見守ることが出来そうだった。
………そこに。
「やあ逆鱗の」
「出たよ…」
爽やかな空気が漂う。
俺はグランの背中で眼を逸らした。
「カルヴィエ率いる騎馬隊が、ラナンクロスト王都まで奔ってくれるそうだよ」
俺の反応を無視して、シュヴァリエはさらりと言った。
しかも、まだ先があった。
「ところで君達白薔薇に、新たに称号をつけるよう打診するつもりだ」
「ああ?どういうことだ?」
グランが反応する。
「あの武勲皇帝を討伐したんだ。当然だろう?」
「でもトドメはラムアルだよー?」
ボーザックが首を傾げる。
「その、ラムアル皇女からの提案だ。ギルドへ打診するから手伝えとね」
「……面倒なことにならねぇといいが」
唸るグランに、シュヴァリエは「ではな、逆鱗の」と言って、いなくなった。
最後に、疾風のを見習うと良い、と笑うのを忘れずに。
くそ、反論出来ないのが悔しい。
******
ギルド。
あれだけ念入りにかけた魔法はシャルアルによって解除済み。
オドールから方法を聞いていたらしいから、信用されてたんだろう。
各部屋を割り振って、夕飯の炊き出しはイルヴァリエと残りの騎士団が担当してくれるらしい。
ありがたい…。
俺は椅子に座らせてもらって、息をついた。
少しは、動くようになったかな?
少し広めの会議用の部屋。
俺達白薔薇と、グロリアス。
ラムアルとシャルアルでテーブルを囲んだ。
「それじゃあ本題ね!」
瞼を腫らしたラムアルは、それでも笑顔。
その隣のシャルアルは無表情だった。
……肩くらいの髪が、顔をふんわりと丸く見せている。
太ってるわけじゃなく、幼くて小さい印象を受けた。
着ているのはぴったりした黒服で、膝丈のワンピースみたいだ。
その中から覗く足は、黒いタイツだった。
……うん、やっぱり全体的に小さい気がする…。
失礼なことを考えていると、ラムアルが手を叩く。
「じゃあまず、あたしが謁見の間を離れた後から教えて」
「俺が話そう」
グランが手を上げると、ラムアルは笑った。
「お酒でもあればいいわね!」
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