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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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134/847

意志はここにあるので。④

……終わりか、と。


そう思った時。


眼の前に、彼女が立った。


「ディティア……!?」


大分先まで走っていたはずなのに。

彼女は、俺のために戻ってきたのだ。


「はあぁぁっ!」


ガ、ガ、ガッ!!


決して、ダメージにはならないが、牽制とばかりに双剣を振るい踊る。


「……っ!」


俺も立ち上がり、双剣を抜いた。


シュヴァリエからは大分遠い。

けど、振り上げるその腕を、その大剣を、俺達で受け止められたら。


少しでもいい。

一瞬でもいい。


「ディティアっ、肉体強化!肉体強化っ、肉体強化、肉体強化ッ!!」

「うん!ハルト君!!」


構える。ふたりで。


『ウォォォオオオオ!!』


ブウウゥンッ


空気を、重い音で切り裂く大剣。


「―――っ!!」


覚悟は、決めた。

……一瞬でもいい、受け止める!!


「肉体強化ッ!!」


五重のバフを、俺は広げた。






ド、ド、ドンッ!!!






「……え」


『ルオォォ―!!』


何が起きたのかわからなかった。


ただ、弾けた炎が、皇帝ヴァイセンの目元を完璧に捉えていた。


ディティアが、その隙を逃さずに俺を引っ張って跳ぶ。

そして、着地と同時に、彼女は皇帝の右腕に跳びかかった!


「はっ!!」


ザンッ、ザシュッ!!

ボ、ボンッ!!


「……!!」

ディティアの切り裂いた傷口に弾ける、魔法。

着地したディティアが、呆然と両腕を下ろした。



こんなこと、出来る奴。

ひとりしか知らない。



「……っはは、何だよ……」

思わず、こぼれる。




「ハルト―――バフ!!」

聞こえる、明るい声。



何だよ……。



「…………肉体強化!肉体強化ッ肉体強化!!」


手をかざして、叫ぶ。


「ひゃっほう!ナイスコンビネーション!!いっくよーー!」



たんっ…



へたり込んだ俺の横を駆け抜けていく、小柄の人影。




「ハルト!!バフよこせッ!」

強く響く、低い声。




………遅いよ。




「肉体強化!肉体強化ッ、腕力アップ、腕力アップ!!」


皇帝ヴァイセンに隠れて見えないけど。

その向こう、俺は迷わずバフを投げた。



ガッ、キィィィーーン!!



皇帝の大剣が、真っ白な大剣に受け止められる。


ドドドッ!


その目元で、さらに炎が散る。




「へたり込んで、格好悪いわよ?」

隣に立つ、白い足。


「誰の、せいだよ……」


見上げることも出来ず、俺が言うと、ふふっと妖艶な声。

「待たせたわね、ハルト、ティア」




「うおらあああぁぁぁっ!」

「やあぁぁぁっ!」

気合のこもった声がこだまする。



バキイィィーーーーンッッ!!



見なくても、わかった。

真っ赤な、血色の結晶が散る。


『ウオオオオオォォ!!!』


「おい、お転婆姫!!」

「えあっ!?……あ……はいっ!!」


聞き慣れた、でも懐かしくてしょうがない声が、ラムアルに怒鳴る。

ラムアルが走ってくるのがわかった。


「浄化!浄化っ浄化!!」

俺は、銀の光を投げる。




「………皇帝ッ、覚悟――!!」




どしゅっ……!


細身のレイピアが、後ろから、残りの結晶ごと…全てを貫いた。



『オォ…ォ、ォ』

細くなっていく、声。



「…っ、皇帝……ああ……」

ラムアルの声が、絞り出すものに変わる。


後ろから、彼女は変わり果てた皇帝ヴァイセンをかき抱いた。


「……お父さん……ごめんね、あたし……」


皇帝はゴトリ、と大剣を取り落とし、立ったまま眼を閉じ、ゆっくりと項垂れていく。


「親不孝だったね…………お父さん」


魔力が…皇帝の命の代わりになっていたものが、抜け落ちていくように。


全てが、終わろうとしていた。


冒険者達も、シュヴァリエも、アイザックも。

爆炎のガルフも、その後ろのメイジ部隊達も。


誰もが、武勲皇帝ヴァイセンの最期を見届けようと、黙っている。


「ううっ………うああん」


その背中で、泣きじゃくる彼女の手。


そこに、持ち上がった太い右手が、一瞬触れた。


『…………皇帝は、泣くな』


「……!!」


空耳だったのかもしれない。

けど、俺にも、はっきりと聞こえたような気がした。


「おとうさ…………あぁ…」


それきり、武勲皇帝ヴァイセンは、二度と動くことは無くて。


静寂が……辺りを包む。


「うっ、ぐすっ……うあぁーーーー!」


―――後には、泣きじゃくる次期皇帝が残された。


******


「……いいところに間に合ったな」

ざくざくと土を踏み締めて歩いてくる、大柄の男。

その足元に、どこに行っていたのか、フェンが寄り添っていた。


「ハルトが上手く引き付けてくれたから、大盾もすぐ回収出来たしね~」

黒髪の小柄な男が、陽気に言う。


俺はよろよろ立ち上がって、口元を拭った。

土の味がする。


ディティアも、ふらふらとこっちに来た。


その傍に、水色のローブを纏う長い金髪の女性。


「……おい、ハルト?」


顔を見ることが、出来なかった。

情けないのはわかってるんだけど。


……堪えてたものが、こぼれそうでさ。


「どうしたのさ、ハルト?」


それでも、2人の追求は容赦ない。


俺は、平気な顔してやろうと言葉を紡いだ。


「……くそ、何だよ…どんだけ、心配っ………ぅう」

駄目だった。


鼻の奥がつんとして、視界が歪む。

震えそうになるのを、堪えようとしたけど。


そんなの無意味だった。


……うわあ、俺、格好悪い…。


そんな場違いなことを思ったら、ぽろんと雫がこぼれて。

とまらなくなった。


「……もっと早く来いよッ……遅いよ……」

そこまで言って、唇を、引き結ぶ。


それでも、溢れてくるものはとまらない。

右腕を目元にあてて、その先は紡げなかった。


「う、うぅ……」

隣で、ディティアが呻く。


「えっ!?ちょっ、ティアまで!?」

「おおお、おいおい……ど、どうしたよ!」

「あらあら……」


「わからないんですか!馬鹿ですか!?……遅いよ!!」

珍しく、ディティアが大声を上げた。


そして、大きな声で泣き始めた。


「また……私、また、失ったかと……!!うあぁん」


俺も、目元を何度も何度も拭って、顔を上げられないままで。



やがて、頭の上に大きな手が乗った。



「あー、まあ、なんだ。……悪かったな」


「悪いよ……本当たち悪い……」

ぐす、と鼻が鳴る。


あー、俺、格好悪い。


ごしごしと眼を擦り、漸く顔を上げる。

まだ視界は歪んでいたけど、そこには。


グランと、ボーザック、そしてファルーアが。

困ったような…けど、やたら嬉しそうな顔して立っていた。


「あははっ、ハルト。顔ぐしゃぐしゃだよ」

「誰のせいだよ!」


「はははっ、ああ、おかしい。……ごめんね、2人とも。俺達、ちゃんと生きてるよ」

ボーザックが、はにかむ。


「うう……ぐす…」

まだ泣いているディティアをぎゅーっと抱きしめて、ファルーアが笑う。

「そうよね、私達よりも、貴方達の方が不安だったわよね」

「ふぁるーあぁ……」


「……ええ。ただいま」


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次はめざせ250ポイント。

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