意志はここにあるので。③
「私が下から行く!ハルト君、跳んで!」
「任せろ!――シュヴァリエ!」
呼ぶと、剣戟を繰り出しながら、シュヴァリエは応えた。
「閃光の、っと、付けてもいいよ!」
「誰がッ!……行くぞ!」
ディティアが、シュヴァリエの背中から飛び出す形で舞った。
『……!』
咄嗟に剣を上げようとした武勲皇帝に、シュヴァリエは尚も手を緩めない。
「まだまだぁッ!!」
「行きますっ!」
ザンッ
びゅっ……
武勲皇帝の手元を掠め、切り裂いたディティアは着地と同時に足元に詰め寄る。
武勲皇帝は、流石だった。
「ディティア!」
ラムアルの声に、ディティアが反応した。
皇帝が、シュヴァリエの攻撃を凌ぎながら蹴りを繰り出したのだ!
「ふっ!」
跳ぶのと同時に、くるっと、ディティアが回る。
足を飛び越えた彼女が、皇帝に肉薄。
「ハルト君!!」
「おおっ!!」
俺は、彼女が双剣を振り上げる瞬間、助走を付けて跳んだ。
皇帝は、シュヴァリエとディティアの攻撃にかかりきり。
このタイミングしかない、と思った。
「ぐうっ!」
「っ、きゃ……!!」
…ッ!?
その瞬間。
皇帝ヴァイセンは、大剣を放した。
シュヴァリエの剣を右腕で、ディティアの剣を左手で、『受けた』のである。
「く、おぉぉっ!」
「うううっ」
駄目だ!
シュヴァリエはともかく、ディティアに肉体強化と肉体硬化はかけていない。
耐えられるはずが無かった。
「く、うぁ!」
双剣を掴まれたディティアが、浮く。
「ディティア!!」
俺は皇帝ヴァイセンの後ろに着地。
けれど、魔力結晶を砕く暇なんて、無かった。
「脚力アップ!」
反応速度を脚力アップにかきかえ、跳ぶ。
ディティアが、ブゥンッと振られて吹っ飛ばされた。
「うおぉぉッ!!」
ドッ!!
何とか、彼女の背中側に跳び込むことが出来て、一緒に吹っ飛ばされて――
「肉体硬化っ、肉体…ッぐあっ!…がはっ」
―そのまま、庭園の樹に叩きつけられた。
強烈な痛みに、身体中が軋む。
「げほっ、はあっ、はあ……ディティアっ」
「うう……は、ハルト君…」
「大丈夫か!?」
「つつ…うん…ハルト君は…?」
よろよろ立ち上がる彼女に、大丈夫と頷く。
……彼女を守れた。
そのことに、安堵の気持ちでいっぱいになった。
「ヒール!」
そこにアイザックのヒールが飛んでくる。
「閃光!こっちは大丈夫だ!」
「ああ!」
シュヴァリエは一旦離れて、体勢を立て直す行動を取った。
再び、ラムアル達が戦い出してくれる。
……絶好のタイミングを、逃した。
皇帝ヴァイセンは、警戒するだろう。
ディティアは唇を噛んだ。
「……ごめんなさい、私が…」
「ディティア。……大丈夫、まだやれる。……生きてるよ、俺達」
「ハルト君…」
方法は浮かばない。
もしかしたら、本当に、焼き尽くす事になるのだろうか?
それでも、誰かが皇帝ヴァイセンを足留めする必要があるはずだ。
冒険者達には、既に、疲労が見え始めていた。
もう一度、何かに気を取らせなければならない。
けれど、俺は、目が覚めた気がしてたんだ。
こんなところで、諦めてたまるか。
白薔薇が、こんなところで散るわけにはいかない。
俺達の意志は、ここにある。
シュヴァリエの所に戻ると、口元を拭って、シュヴァリエが笑みをこぼす。
「やあ、逆鱗の。惜しかったね」
「はっ、お前がもっと留めてくれれば仕留められてたけどな!」
笑って返すと、シュヴァリエは目を閉じて、ふふっと笑う。
「なんだよ」
「逆境こそ君の出番なのだと思ってね、逆鱗の」
「ふん、言ってろ」
俺はすぐさま全員のバフをかけ直し、辺りを見渡した。
皇帝は、強い。
けど、シュヴァリエとディティアのスピードなら、間違いなく押せることはわかった。
後は、不意を突く何か。
それだけ。
「なあ、後ろから石が飛んできても見える?」
ふと、シュヴァリエに聞いた。
「見えないに決まっているよ、逆鱗の」
「……はいはい、そうかよ」
「しかし、避けることは出来るね」
「……は?お前、何なの?化けもんなの?」
浄化のバフは、ここぞって時しか使えそうになかった。
それだけ、そもそもの力が強すぎる相手なんだ。
だから、遠くから、腕力アップを使って石を投げ、気を逸らしてディティアに回り込ませるなんてどうだろう。
俺の案はすぐに採用された。
「ラムアル皇女、もう一度行くよ」
「はあっ、はっ、もう!皇帝、強すぎ!」
ラムアルは息を切らせながら、冒険者達を下がらせた。
まだ余裕そうに見えるけど、きっとそうじゃない。
それでも、強がる彼女は立派だ。
『オオオ……』
皇帝は、ゆらりと大剣を構え、シュヴァリエを迎撃する体勢を取る。
「腐っても武勲皇帝とはね。行くよ逆鱗の」
シュヴァリエも、ゆるりと構えた。
「笑えないぞ…」
思わず呟いて、俺は頷く。
「……っは!」
シュヴァリエが踏み切った。
皇帝も、腰を落とす。
ガガガッ
キンッ
再びまみえる剣。
俺は自身に腕力アップを三重にして、転がった石をいくつも集めてあった。
「いくぞシュヴァリエ!……っらぁ!」
ビュッ……!
……シュヴァリエが、右に避ける。
ガッ!!
『オオ……』
皇帝の肩で、石が弾けた。
「やった……!」
俺は次々に石を投げ、皇帝が自分にも意識を向けるように仕向けた。
そこでディティアが動く。
皇帝ヴァイセンの背中に回り込むために、駆け出す。
ところが。
「逆鱗の!皇帝がそっちに行きそうだ!」
「えっ、なんっ……っう、わっ!?」
シュヴァリエの声に、俺は眼を疑った。
相当うざかったのか、皇帝が跳んだのである。
「ちょっ、おまっ……うわあああっ!?」
およそ跳べるなど微塵も思えなかった巨躯が、あり得ない跳躍を見せて。
ドオオオッ!!
眼の前に、着地する。
足元が揺れて、バランスを保てない。
まるで首を差し出すかのごとく、俺は、膝を突いてしまった。
…………ああ、くそ、ここで終わりか……。
そう、思った。
本日分の投稿です。
少し早いですが、この後ばたばたしそうなので先に!
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