大きな依頼、受けませんか。③
本日分の投稿です。
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……よし。
掌の上で練り上げたバフは、意識しなくても安定している。
ここまでくれば、後は試して効果を確認すればいい。
上手く出来てなくても、微調整であればそんなに苦労はしないしな。
いつもならここまで来れば自分にかけるんだけど、俺は目の前に座っていたボーザックにバフを投げた。
「んっ、んん!?」
ボーザックは俺の突然の愚行に気付くと、変な声を上げて立ち上がる。
「ちょっ、ちょっとハルト!何だよこれ何のバフ!?なんかっ、俺、光ってるんだけど!!」
俺は半笑いでぼんやりと光るボーザックを眺めた。
大丈夫、どう見ても紅くも蒼くもなく、銀色に光ってる。
「あ、私見たことあるよー、これ…むぐむぐ」
ディティアの口を塞いで、俺は言った。
「ちょっと待って、まだ上手くいったかわからないんだ」
「えっ、そうなの!?」
「えっ、ちょっと待ってよハルト!何、何なの!?俺どうなるの!?」
ディティアとボーザックが目を見開く。
グランとファルーアはいたって冷たい目で俺を見ていたので、気付かない振りをしておこう。
俺を見て身体を硬直させているふたりに満足して、俺はウインクを投げてあげた。
「……っていうのは冗談で、たぶん上手くいってるよ。安心してくれ」
「っ、ハルト-!!」
「もーっ、ハルト君、ひどいー!!」
俺は浄化のバフを修得した。
既に、王都が見え始めていた。
******
王都ラナンクロスト。
山1つを丸々都に仕立て上げた巨大都市がこの王国の首都である。
山のてっぺんに王が住まう美しい城、そこから下に向かって、貴族街、商店街、一般国民街が連なっている。
文献や養成学校の教えでは、元々、貴族と商人がいて、後から一般国民が街を広げていったとされていた。
街に明確な区切りは無いんだけど、どうも貴族様のプライドは高いイメージなんだよなぁ。
家の壁は基本的に白で統一されて、屋根はブルーなのが王都の特徴。
上の方になるほど大きな屋敷となって、敷地を囲む木々や柵に趣向が凝らされる。
下の方の街は壁面に蔦を這わせたり花を植えて個性を出しているような街だ。
街中は座れるサイズの五連トロッコで移動すると早い。
1台のトロッコの先頭に操縦士が2人いて、目安になるスポットで止まってくれるので、乗り降り出来るシステムだ。
すごいよなー、街が大きいだけあるよな…。
街の主要箇所にはこのトロッコ線路が網羅されて、何台もぐるぐると回っているので、基本的に乗れば大体何処へでも行ける。
もちろん歩いた方が早い場合もあるけど。
ギルドは貴族街と商店街の間みたいな場所にあった。
ここは原則から外れて、赤茶色のレンガ造りである。
王都のギルドだけあって、規模は最大級。
利用している冒険者達も、ひしめくほどなんだけど。
俺はここに来て、重大な事に気付いてしまった。
「………あぁ……」
「おう?どうしたハルト」
グランがギルド前で立ち止まった俺を見て怪訝そうにする。
「いや、ここ…そういやシュヴァリエが居るんじゃないかと」
今のところあの爽やかな空気は感じないけどな…。
「ぶはっ、はっは!そういやそうだな!あれだ、天敵だなあ!」
「なんか嫌な予感しかない、俺」
「おーい、早く行こうよ2人ともー」
ギルドの扉を開けて待っているボーザックが手招きしている。
俺は重くなった足取りでギルドの扉をくぐった。
…入るとすぐにホールになる。
正面に広いカウンターがあり、ギルド員が均等な間隔で並んでいて、依頼を受けたり報告したりする冒険者の列が出来ていた。
ホールに面して左右にたくさんの椅子とテーブル、左奥と右奥に依頼や募集の掲示板が立ち並ぶ。
報酬受取の順番待ちや依頼確認の冒険者達がざわざわと椅子や壁際でたむろっているんだけど…。
俺達が踏み入って数秒後、段々と静けさが広がっていくのを感じた。
これは……すごく居心地が悪い。
ざわざわが、さわさわーくらいになり、こそこそに変わる。
(おい、あれ疾風……)
(ってことは、あいつらって)
(あれ、まさかタイラントの?)
(見ろよあの装備…タイラントの骨?)
(白薔薇だ……)
聞こえる。
俺達が誰かわかって噂する声が。
(なぁディティア、いつもこんな気持ちだったのか?)
俺までこそこそして話しかけると、彼女は苦笑した。
(まあ大体……でもここまでなのは初めてよ、少し…緊張しちゃうね)
彼女もこそこそ答えてくれた。
俺達は顔を見合わせて、とりあえずカウンターに向かう。
(あの双剣が逆鱗か)
(重複よりもバフ出来るって本当なのかな)
(あれが閃光のシュヴァリエ様のお気に入りっていう逆鱗?)
「ちょっと待て、シュヴァリエのお気に入りって言ったの誰だ!?」
俺は吹き出しそうになって見回した。
「ハルト君、まあまあ……」
ディティアが窘めるが、グランもボーザックも肩を震わせている。
笑うなよ!!俺は泣きたいんだけど!?
もちろん誰も名乗らないが、こそこそがさわさわーに戻る程度の効果があった。
そして、やっと俺達に気付く影も。
「おう、誰かと思えば、逆鱗のー」
出たな!と言いたいとこだったけど、違う。
いかつくて野太い声。
これは…。
「わー、アイザック!久しぶりー」
先に気付いたボーザックが手を上げる。
「よおボーザック。白薔薇の面々も元気そうで何よりだ」
「おう」
とげとげしい杖はヒーラーには似合わないがアイザックにはぴったりだ。
グロリアスメンバー、祝福のアイザックがそこにいた。
******
「ほー、そしたらお前達も遺跡調査か」
「お前達もってことはやっぱりグロリアスもか?」
「まあなー」
アイザックとグランが今回の依頼について話している。
テーブルを1つ囲んで、俺達は近況の報告をした。
って言っても1ヶ月ちょっとだからな、それ程何かあったわけじゃないんだけど。
それから、野次馬が凄かった。
「なあ、お前らいつもこんななのか?」
アイザックに言って、グランが苦笑する。
「ああ、最近は慣れたけどな。ふふ、どうだ?有名になった気分は?」
「まだそこまで実感ねぇが、すげぇもんだな。俺達見て何が楽しいんだか」
「逆鱗の。お前のことを広めたくてシュヴァリエが相当力入れてるぞー」
「うわあ……辞めろって言ったんだけどなあ」
そもそも、聞く奴じゃないけどさあ。
そこでふと、アイザックが聞いてきた。
「何の約束したんだ?」
「うん?」
「僕と逆鱗の約束だからって張り切ってたぞ」
「俺はしてないけど……。俺の名前をあっという間に広めてみせよう!とか一方的になー」
「それはまた……あいつらしいな」
「ハルト可哀想~…でも本当に有名にはなってるよね、ここでも逆鱗のハルトって気付かれてたし」
ボーザックが笑う。
アイザックも笑った。
やっぱり兄弟に見えるよなー。
現時逃避である。
「顔は覚えられてないから、気付いたって言うより認識されたって感じよね」
ファルーアも妖艶な笑みで言った。
「うん…でもそれは白薔薇もそうだろ?」
俺は彼女に答えて、頬杖をついた。
自分の話題より白薔薇の話がいい……。
「そうだねえ、私達、認識されたって感じたね!」
「いや、ディティアは認識されてただろう元々」
グランに突っ込まれてディティアが笑っている。
有名にもなったけど、楽しそうに笑ってくれるようになったな。
そっちの方がずっと喜べるんだけど。
「それで、閃光や他のメンバーはどうしてるのかしら?」
「シュヴァリエはしばらく不在だ。王都には居るんだけどな。迅雷と爆炎はどっかで買い物でもしてんじゃねぇかな」
「あら、結構適当なのね」
「まあな!…それより、遺跡調査のことなんだけどよ」
「お、何かわかったのか?」
「色々情報は渡せる。……っと、その前に正式に王都で受けてこいよ。ここで待ってる」
「ああ、助かる。行くぞ」
『はーい』
******
「ニブルカルブで受けてくださってますね。詳細情報はこちらで…一応王都でも正式に受けていただくので認証カードをお願いします」
仕事の出来そうな眼鏡のお姉さんが対応してくれた。
きびきびと書類をまとめ、俺達が提出した名誉勲章を受け取ると、出した書類に指を添わせ、反対の手で眼鏡を直す。
「では、ここにパーティー名を……はい結構です。白薔薇……って、名誉勲章!?」
おお。
スムーズだったから感心してたけど違ったらしい。
彼女は恥ずかしそうにごほんごほんと空咳をして、申し訳ありませんと言った。
「光栄です、白薔薇の皆様。それから、逆鱗のハルト様。閃光のシュヴァリエ様から、その、ご伝言を承っております」
「ええ…」
「せ、僭越ながら、お読みするように承っておりますので少々お待ちください」
彼女はそそくさとその場を後にして、奥に消えていった。
「うわあ、伝言…」
ボーザックがちょっと引いている。
「これ、ハルトが数年来なかったらどうしたのかしらね」
ファルーアも眉をひそめていた。
「読ませるの、ちょっと可哀想な気がするな、私…」
シュヴァリエからの伝言って、嫌な予感しかない。
小さなカードを持って戻ったギルド員は、変な汗をかいていた。
「あのさ、読まなくてもいいよ、それ…」
見かねて俺が言うと、眉をハの字にして彼女は首を振った。
「閃光のシュヴァリエ様はこの街でも影響力があって…言われたからには実行しておいた方が、ギルドとしては安泰です。お気遣いありがとうございます」
「ああ……やっぱりギルド員も苦労してんだな」
「はあ。……では」
彼女は息を吸うと、いきなり声を張り上げた。
「やあ冒険者の諸君!閃光のシュヴァリエより伝言だ。
ここにいるパーティー、白薔薇は彼の飛龍タイラント討伐の立役者である!
僕の認めたバッファー、逆鱗のハルトがこの者だ。
その名、顔を覚えてくれたまえ。
よろしく頼む!!」
しーーーーーん。
静まり返るギルド。
冷めた空気が胃をぎゅっと掴んできたような痛みが込み上げる。
俺は、自分が怒りか羞恥かで震えているのに気付いた。
ディティアがおろおろと俺の背を摩っている。
あいつ、こんなのただの嫌がらせだろ!?
「わははっ、ははっ、あー、災難だったな逆鱗の!これでも本気でやってるから笑って許せ!」
いたたまれない空気を壊してくれたのはアイザックだ。
読んだギルド員も真っ赤になって涙目だし、可哀想すぎた。
アイザックの声につられるように、あちこちから笑いと、哀れみと、好奇の声が上がる。
「よっ、白薔薇-!」
「逆鱗のハルト!顔見せろー!」
野次も飛んで場が和む。
俺はぷるぷるしたまま、申し訳ない、とギルド員に頭を下げたのだった。
ギルド員は、緊張が解けたのか同じように頭を下げた。
「誰が対応になるか、ギルド員みんなで戦々恐々としてたんですよね……フフッ、良いネタ話が出来ました…失礼しました…。これで、依頼受注は完了です。書類をどうぞ」
覚えてろよ、シュヴァリエ……!
毎日更新しています。
よかったらまた明日も、お待ちしています!