意を決するので。②
パカラッパカラッ
軽快な蹄の音を響かせて、隊列を組んで街道をひた走る。
俺は、騎馬隊の馬を断ってクロに乗った。
「いい馬だな、逆鱗の」
白馬を寄せてくるシュヴァリエ。
クロは白馬を気に入ったらしく、ふすふすと張り切っていた。
……そういえばこいつ、雄なのかな、雌なのかな。
「クロは最高だぞ。……シロもイルヴァリエの愛馬みたいに溺愛されてるのか?」
ルヴァ……なんとかを駆るイルヴァリエを見遣ると、シュヴァリエはふふと鼻で笑った。
「あれほどではないが、大切にしている。……ルヴァルステンバリーンに比べたら体力はそれ程無い。ルヴァルステンバリーンは三日三晩眠らずに疾走するよ」
「それもう馬じゃないだろ……」
シュヴァリエと話しても、気持ちに余裕はあって。
指摘されてから、1番長く話してるかもしれないなあとぼんやり思った。
「逆鱗の」
「さすがにもう馴れつつあるけど……やっぱお前に呼ばれると微妙な気持ちになるな」
悪態をついてみたら、シュヴァリエはまたふふっと鼻で笑った。
「そうかな逆鱗の、中々いい名前だと思わないか?」
「いや、そこはいいから本題に入れよ…」
ため息をこぼす。
「はは、それはすまないな。……イルヴァリエのことだが、よく面倒を見てくれたようでなによりだ」
「あっ、それ!……お前、いきなり弟送り付けてくるとかやめろよな!あいつギルドに相当迷惑かけてたぞ」
「おや、それは…後で頭を剃らせるか」
「っいやいやいや!流石に伸びて切り揃えてやっとそれらしくなったのに可哀想だろ!?」
「君は本当に面白い反応をするな、逆鱗の」
「は……?お前、本当に嫌味だな……」
「そうかい?褒めたつもりなんだが」
そこまで言うと、シュヴァリエは少し表情を引き締めた。
「とにかく、不穏な動きは把握していたのでな。偵察のつもりではあった。事態はかなり進んでしまったが、ラナンクロストとしても動くだろう」
俺は、ふんと鼻を鳴らした。
「ダルアークか…」
「ああ。最近、どうも動きが活発になりつつあるようだ。カルヴィエも警戒を強めていると聞いた。……規模はギルドに匹敵する可能性もある」
「そんなに大きいのか?」
「そのようだ。きな臭い」
「……」
「まあ、まずは目前の敵を何とかしよう。彼の飛龍タイラントを屠りし逆鱗の」
「いや、だから……あーもう」
俺は空を仰いで、ため息をついた。
こいつといると、本当に調子狂うなあ。
……でも1個、聞いておきたいことがあったりする。
仕方なしに、俺は切り出した。
「シュヴァリエ…聞きたいことがあるんだけど」
「閃光の、と付けてくれてもいいよ逆鱗の」
「……だからなあ……絶対付けないからな!……いいから聞けよ。お前、皇帝ヴァイセンとどっちが強い?」
「……」
シュヴァリエは、眼をぱちぱちした。
長い睫毛がわさわさするので、何となくいらっとする。
「意外だな逆鱗の。僕の方が弱いとは言わないのかい?」
「いや、お前の戦うところは見たこと無いし。タイラントの時も、お前サボってたろ」
「……否定はしないが。……そうだな、簡単には勝てないだろうね」
「じゃあ負けはしないってことだな」
「ふふ、当たり前だ」
どこからの余裕かわからないけど、シュヴァリエは笑う。
「そうか。なら、よろしく頼むわ、次期騎士団長」
これで少しは安心だ、とは。
口が裂けても言ってやらないけどな。
******
7日後。
さすが冒険者と騎士の部隊だ。
もう帝都まで一日とかからない距離まできていた。
道中の野菜は帝都から逃げてきた時と同じように拝借させてもらって、メイジ達が火をおこしたり水を出したりしてくれるのでそれで調理したりもして、快適。
もちろん、フェンが仕留めてくる魔物も同じように出来て、だいぶ楽な道のりだった。
昼を過ぎた頃、高く登った太陽からいっぱいに光を受ける野菜達を横目に、討伐部隊はひた走る。
「ハルト君」
そんな折に、ディティアが馬を寄せて呼ぶ。
「どうした?」
「ちょっと、バフの提案というか、相談があって」
「ホントか?…色々考えてたんだ、俺も相談させて」
彼女はそれを聞いてほっとしたような顔をして、話し始めた。
「実はね、ラムアルと模擬戦をしたんだけど」
「えっ、いつ!?」
……ちょっと見てみたかった。
「一昨日だよ。……その時に、ラムアルが結構力任せで戦ってて」
「ちょ、ちょっと待って。勝ったのはディティアだよな?」
「えっ?あ、うん、そうだけど……」
「やっぱ、ラムアル強かった?」
「うん、すごく。……あっ、でも、バフ重ねたハルト君の方が強かったよ!」
「ってことはバフ無しの俺は足元にも及ばないんだな……」
「うわあ!そ、そういう意味じゃなくて……」
「いや、いいよ。わかってるから」
「あうう」
「それで?どういうバフをご所望?」
俺が肩を竦めて笑うと、ディティアは眉をちょっと下げて、申し訳なさそうに言った。
「えっと。……脚力、ジャンプ力っていうのかな……そういうの、もっと上げられるバフ無い?」
「脚力?速度とか、単純な力じゃなくて?」
「うん。彼女は武勲皇帝の戦い方を踏襲してると思うの。で、その時にね、ジャンプ力があればいいなーって思ったんだ」
ジャンプ力…。
俺は頭の中でバフの教科書を見ていた記憶を思い起こす。
確かに脚力アップバフがあったはず。
これは肉体強化をより部分的にしたバフだ。
「……参考までに、何でジャンプ力?」
聞くと、ディティアはにっこりと笑った。
「力任せで攻撃してくるから、その瞬間に武器を足場にしてジャンプしようかと思って!」
……うん、ディティアだけに有効なんだってことはわかった。
まあ、ディティアのためだから覚えるか-。
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