再会を願うもの。⑤
ラムアルは、驚愕していた。
激しく打ち合っている内に、遅れるようになってきた。
反応速度には自信があるんだけど…。
それまでのディティアの攻撃を難なく受け止めていたラムアルは、舌を巻く。
速い。
段々ギアが上がってきたのか、ディティアの速度がどんどん上がる。
まだ速くなるの?
かっ、がきっ、キィンッ
連撃を受けきった、と思った瞬間、目の前のディティアが視界から消えた。
「ふ、うぇ!?」
ラムアルは変な声を上げ、後ろから首に当てられたディティアの手に、身を硬くした。
「ふうーーー。……良いお手並みでした」
するりと離れる手に、ラムアルはしばらく動けない。
「い、今の、何?」
「うん?……ああ、ラムアルが攻撃を受けた時点で、こう、体勢を低くしながら身体を捻って……」
「普通、そんな曲芸みたいな動き出来ないよ」
「ふふ、そうかな?」
屈託無く笑う彼女に、心強さを感じる。
ラムアルは、レイピアを収めるとディティアに向きなおった。
「ありがと、すっきりした。……それと、皇帝のことだけど」
「うん」
ディティアも双剣を収めて、真剣な顔で頷く。
「危なくなったら逃げてねって、言おうと思ってた。……でも、やっぱりやめる」
「うん?」
「あたしが倒れても、皇帝を討って。……皇帝は、本当に強かった。それが、あんな風に晒されるのは、やっぱり嫌だ」
「ラムアル……」
「お願い、疾風のディティア」
ディティアは、自分の手を見つめた。
ラムアルが、倒れたら。
そんなこと、考えたくない。
けど、ラムアルがそうできなくなったときに、皇帝を討ち取れる力がもし、自分にあるとしたら。
ディティアは、手を握って、少しの間眼を閉じた。
「うん。約束する」
言い切る。
ラムアルの想いを、受け止める。
「だから、ラムアルも約束して」
「え?」
「倒れそうになったら、引いて。私が、必ず討つ」
「……!」
立ち尽くすラムアルに、ディティアは、ハルトがするように、拳を突き出した。
ラムアルは、それを見て目を見開き、やがてはにかむ。
「ディティア……ありがとう。約束する」
その拳に拳をぶつけて。
ラムアルは、しっかりと頷いた。
******
「やあ逆鱗の」
「…今度はお前か」
やってきた爽やかな空気をまとうイケメン(性格は別だ)を見て、俺は手元の教科書に再度眼を落とした。
「おや、アイザックでも来たかい?」
「……ああ、さっきな」
「そうか。じゃあ僕の出番は無さそうだね」
いや、出番は最初から無いと思うけど?
シュヴァリエは至極どうでもいいことを言って、俺の腰掛ける荷台に寄り掛かる。
「良い天気だね、逆鱗の」
「いや、そうだけど、お前何しに来たんだよ…」
「仲間とはぐれた君を見に」
「……っ!」
俺は思わず顔を上げた。
シュヴァリエは、してやったりとでも言いたげな笑みを浮かべ、こっちを見ている。
「シュヴァリエ、お前、喧嘩売りにきたの?」
思わず顔をしかめて、トゲの有る言い方で返した。
「閃光の、と付けてくれてもいいよ逆鱗の」
いつも通り、シュヴァリエが返してくる。
「……何だよ」
俺はその態度に突っかかった。
優雅な振る舞いも、たたえた笑みも、馬鹿にしているような気がして、苛立ちを抑えられない。
「仲間を失ったら、どうするんだい逆鱗の」
シュヴァリエは尚も笑みをたたえたまま、聞いてきた。
「っ、失ってなんか!!」
俺は教科書を乱暴に閉じて、シュヴァリエに向きなおった。
瞬間、シュヴァリエの表情は一変、笑みから真剣なものに変わる。
「失ってない……それを信じるのは当然だ、逆鱗の。問題は、失った時にどうするかだ。取り乱して士気を乱すことは許されないよ」
ぎくりとした。
討伐部隊の全体のことを、シュヴァリエは考えていたのだ。
「再会を願うものこそ正しいあり方だろう。けれど、そうでなかった時、君は討伐部隊の士気を乱さずに、冷静かい?」
「……それは」
どうだろうか。
目の前で仲間を失ったことが無い俺は、取り乱さずにすむのだろうか?
「疾風は、戦闘の間はとても冷静にすべてを背負ったよ。だから、討伐は成功した。……もう一度問う。君は、仲間を失ってしまったら、どうするんだい?」
……俺は。
戦えるだろうか。
「それを心に留めておいてくれ。それだけだよ、逆鱗の」
寄り掛かっていた身体を起こし、歩き出そうとするシュヴァリエ。
俺は、その背に応えた。
「…………俺は、戦うぞシュヴァリエ!」
「……そうか。……それを聞いて、安心したよ逆鱗の」
背中越しにひらひらと手を振って、シュヴァリエは遠のいていく。
俺は、その背を見詰めていた。
……忠告、悔しいけど的を射てる。
俺は、しっかりと心に刻んだのだった。
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