再会を願うもの。④
大規模討伐依頼が出され、フルリネのハトを使ってラナンクロスト王都へも連絡を送った。
オドールが2日で人を集めると言ったけど、当のオドールは馬で何処かへ出かけていったんで、方法は不明。
あのじーちゃん、あんな細くて折れそうな身体で大丈夫かなあ。
俺はというと、バフの教科書を捲っていた。
…浄化バフを重ねがけしても、皇帝ヴァイセンの力に弾かれたら終わりだ。
肉体硬化と、肉体強化は必須かもしれない。
もう少し、ヴァイセンの攻撃を受けられる人に集中させて、他から隙を突くような戦いが出来ないかな。
そうすれば一方は肉体強化と硬化、もう一方に浄化で対応出来る。
「……」
口元に手を当て、馬車の荷台に胡座をかいていた俺は、ふう、と息をついた。
何か有効なバフがあればいいんだけど。
「よお、逆鱗の」
そこに、祝福のアイザックがやってきた。
いつもの袖無しの黒いローブだったけど、とげとげしい杖は持ってない。
「アイザック。どうかした?」
「うん、今いいか?……少し話でもと思ってな」
「いいよ、少し煮詰まってたとこだし」
アイザックはそうか、と言うと、荷台に飛び乗って同じように胡座をかいた。
荷台がぎしりと軋む。
……ごつい割に、身軽な奴だなあ。
ちょっと感心。
すると、アイザックはいきなり聞いてきた。
「……なあ、グラン達と離れて何日経った」
「うわ、いきなりそこから聞くんだ」
思わず言うと、アイザックは苦笑した。
「いや、色々と考えてはいたんだぜ?けど、まあ、こういうことはズバッと言った方が、お前も楽かなと思ってよ」
俺はそんなアイザックに笑みを返して、手元の本を閉じる。
「3週間くらいかな、俺が寝てた時間も入れて」
「そうか……こっから帝都までは馬を飛ばせば10日もかからないか?」
「そうだな。帝都民達を連れてきたディティア達がここまで来るのに3週間くらいだったってことだから、飛ばせばもっと短いんじゃないかな」
アイザックは空を見上げて、そうか、と呟いた。
「なら、やっぱり合流しててもおかしくない時間か」
「うん。……旅慣れてるから、もし歩きだったとしても何処かで追い付いてきてると思ってる」
……そう。
わかってはいる。
再会しててもおかしくない時間が、過ぎてることくらい。
「どうしてると思う?」
今度は俺が聞く。
アイザックは頭をかいた。
「意外と図太くやってるだろうなあ。……街道から逸れて山脈伝いに移動してる可能性もあるな」
「うん、俺もそう思う」
「……そうか。お前がそう思ってるなら、大丈夫だな」
「なんだ、心配してくれたのか?」
「……ん、んん、まあな。……お前とも何だかんだ、関わってきてるしな」
俺はごほんと気まずそうに咳払いをするアイザックに笑った。
「アイザック、面倒見いいんだなあ」
「うるせぇよ逆鱗のハルト」
「ははっ、照れるなよー」
「誰が!」
アイザックは肩を竦めると、もう少しだけ言葉を紡いだ。
「もし、もしも。何かあったら、だが。……俺達を頼れよ、逆鱗の。お前だけじゃない、疾風もいるんだからな」
「……うん。わかってる、ちゃんと。わかってるけど、それはまだ、保留だ。……俺は、再会を願う」
「もちろんだ。俺だって、あいつらにもう一回会うって疑わねぇよ」
「うん。ありがとうな」
アイザックは満足げににやりとすると、俺の右肩をばしんと叩いた。
「とりあえず、頼んだぞバッファー」
……話は終わりとばかりに歩いていくアイザックの背中に、苦笑を送る。
グランが髭を擦る横で、ボーザックとフェンが昼寝する。
テーブルでファルーアがお茶を飲むのに付き合うディティア。
俺はそれを眺めながら、バフの修得に時間を掛ける。
そんな日常が、早く戻ればいい。
俺はゆっくりと呼吸して、バフの教科書を開きなおした。
「……よし」
まだ教科書の後半を見ていない。
役に立つバフが見つかるように、俺は集中することに決めた。
******
「ディティア、お願い」
「ええっ、うーん」
ラムアルに請われて、悩む。
彼女はレイピアをひゅんひゅん言わせながら、もう一度言った。
「そわそわしちゃうんだもん、少しだけでいいから、お願いっ」
ラムアルのそわそわは仕方ないか。
「わかった。少しだけね?」
ディティアは諦めて、腰にクロスさせた双剣をしゃんっと抜き放った。
「やった!ありがとう!」
……ふう。
息を吐き出して、呼吸を整える。
気持ちを落ち着けようとして、自分もそわそわしていたことに気付いた。
少しだけ、身体を動かしたい。
そんな気持ちはよくわかる。
「では、行きます」
かっ!
ラムアルのレイピアと軽く双剣を合わせ、開始。
レイピアを振り抜くラムアルと少し距離を空け、突っ込む。
「はっ!」
「ふっ!」
ラムアルと吐き出す息がかぶる。
がっ、キン!
弾いたところですかさず2撃目を叩き込むと、意外にもラムアルのレイピアの柄の部分で弾き返される。
「はあっ!」
さっきよりも少し強めに、さらに踏み込む。
「うわ!」
ラムアルが飛び離れたところをさらにさらに追撃。
「おおっ!?」
予想外だったはずなのに、ラムアルは楽しそうな声を上げて、双剣をレイピアで受け止めた。
そのままぐるりと回転させ剣先をいなすと、そのまま彼女のレイピアが下から襲ってくる。
「やあっ」
ディティアは瞬時に双剣を引き戻して、レイピアを左で受けた。
右はそのままラムアル目がけて振りかぶる。
ラムアルは、強い。
ディティアはいつしか、模擬戦に集中し始めていた。
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