再会を願うもの。②
「ウォウ」
フェンが鳴いて駆けだしたのは、夜の帳がおり始めた、薄青い空の下。
俺は一緒にクロのスピードを上げた。
五感アップをかけて眼をこらせば、街道の遠くに、ぽつぽつと影。
段々それが馬と人、その後ろの馬車の形を描き、確信する。
思わず、まだ遠い影に向かって、手を振ってしまった。
「ディティアーーー!」
「ハルト君ーー!フェーーーン!!」
先頭で馬に乗り、手を振る小さな影。
フェンはよりスピードを上げて、放たれた矢のように駆けていった。
俺は、彼女の声に安堵する。
良かった、無事で。
本当に。
******
「ハルト君!」
馬を下りて駆けてきた彼女に、俺もクロから下りた。
そのまま、彼女はさっきのフェンのように飛び込んでくる。
「嘘みたい、早いよね?怪我は無い?何も無かった??」
ぎゅーっとしがみついてくるのに苦笑して、俺は背中をとんとんと叩く。
「早い!めちゃくちゃ早かった!ははっ、色々あったけどさ!」
彼女はばっと顔を上げて、目を見開いた。
「何かあったの!?」
「まあ、それは後で。…実は背中にちょーっと視線を感じてるんだけど」
五感アップのせいか、ひしひしと感じる。
「えっ?」
彼女は俺の横から後ろを覗き込んで……。
「う、うわあ!?ええっ、シュヴァリエ!?あ、あれ??ど、どうしてここに?」
文字通り、飛び離れた。
思わず笑うと、彼女は恨めしそうな顔をする。
「い、言ってよハルト君…」
シュヴァリエは白い馬から下りると、優雅な動作でディティアの傍に立った。
どうでもいいけど、イケメンなのは相変わらずだ。
「やあ疾風の。元気そうで良かった。しかし今回も大変そうだね?やはり我がグロリアスに来てはどうだい?」
「閃光のシュヴァリエ……本当に相変わらずだね。……何度も言ってるけど、私はグロリアスには行かないです」
「開口一番それかよシュヴァリエ…」
さすがに呆れたような、通り越して尊敬すべきなような、気持ちの悪い感情が湧き出て突っ込んだけど、シュヴァリエはスルーした。
「まあ、まだ先は長いからね。大丈夫だ、疾風の。いつでも受け入れよう」
「いや、だから私は………もう、アイザックさん、ご無沙汰してますー」
シュヴァリエを無視したディティアは、アイザックに話題を振り始めた。
「おう疾風!元気そうだな。…そっちは無事か?」
「あ、はい…そっちは、というとやっぱり何かあったんですか?」
「おお、そうか。逆鱗はボコボコにされて死ぬところだったからな」
「ちょっ、アイザック!お前…!」
「は、ハルト君!?どういうこと!!」
にやにやするアイザックを睨み付けて、俺はディティアの猛攻を受けることになってしまう。
そこに、溌剌とした声が飛んできた。
「はいはーーい!あたしを蚊帳の外に置くなんて、やってくれるわねハルト」
ナイスアシスト!
「ほらディティア。とりあえず、今はラムアルと話して、帝都民を避難させよう」
「むうう…絶対話してもらうからね」
「大丈夫、隠したりしないから。ちゃんと説明するよ」
俺はいそいそとラムアルに向き直る。
ラムアルは話が終わったと判断したのか、にっこりと微笑んだ。
「おかえり!しかもこんなに援軍連れてくるなんて、やるわねハルト!」
俺はラムアルと拳を突き合わせる。
「待たせたな!って言っても、思ったよりずっと早かったけど」
「そうね!……それに、閃光のシュヴァリエ連れてくるなんて、どんな偶然?ハルト、あんた運が良いわね」
「うわぁ、誰かにも幸運とか言われたけど全然嬉しくない」
「?、贅沢ねあんた。……やあやあ!閃光のシュヴァリエ!」
ラムアルは暗くなり始めた空の下でも明るく輝くオレンジの髪をかきあげて、シュヴァリエを呼ぶ。
イルヴァリエに何か話していたシュヴァリエが気が付いて、こっちにやってきた。
「やあ、ラムアル皇女。今日も一段とお転婆そうだね」
「ふふ、でしょう?……うん、相変わらず鍛えてるわね。あたしの婿候補からは外さないでおくわ!」
……ん?
何か不穏な会話が聞こえる。
隣にいたディティアも、眉を寄せた。
「それはそれは、光栄半分迷惑半分だ、ラムアル皇女」
「照れなくてもいいのに!あたしが皇帝になったら、その婿なんて相当な地位よ?」
「生憎、ラナンクロストで手一杯なのでね」
「あら、それなら帝国と一緒になっちゃえばいいわ!」
「その台詞は軽々しく発してはならないよ、皇女」
「いいじゃない、攻めるつもりはないんだし」
……何だあれ。
「ほっほ、始まりおったわ」
「あ、ガルフさん。ご無沙汰してます」
「おお、疾風の。会えて嬉しいぞ」
横に馬を寄せてきた爆炎のガルフが、面白そうに笑う。
「あの2人、知り合いなのか?」
「そうじゃの、お互い冒険者であり、かつ国の重要な地位を持っておるからの。互いの国で何度か顔を合わせるくらいには仲が良いかの」
「ほー。婿がどうとか言ってるけど?」
「ラムアル皇女は婿候補を選定しておってなあ。どういうわけか、うちの坊も対象のようじゃ」
「シュヴァリエが?……ぶっ、ははっ、まじでか!あははっ」
笑っていると、話していた2人が振り返った。
「男女の関係性を笑うとは、品が無いよ、逆鱗の」
「ハルト、うるさいわ。久しぶりの再会なんだから黙っていて」
「は、え、ええ……」
俺が怒られる意味がわからない。
ディティアを見ると、ものすごく可哀想なものを見るような顔でこっちを見ていた。
「ごめん、助けられそうにない、ハルト君…」
「いいよ、みなまでいうな…」
とにかく。
俺達は帝都民達を連れてきた馬や馬車に振り分けて、国境の街フルリネに戻ることになった。
まずはその道中で、起こったことを共有する必要がある。
もう日も暮れるし、俺達は今夜はここでキャンプを張ることにした。
帝都のギルド長オドールと、彼が監視している武勲皇帝ヴァイセンの次男、ジャスティも、同席してもらわないとな。
わかってはいたけど、そこに、グラン達の姿は無かった。
…………わかっては、いたけど。
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21時から24時を目安にしていますが、
今日は少し早めの投稿です!




