鬨の声を上げますか。⑥
地鳴りのように響く蹄の音。
「はいやぁー!」
先頭を駆ける白馬の上、太陽の光を散らしながら、銀髪の男が颯爽と叫んだ。
彼の後ろには、彼と同じ白い制服に身を包んだ集団が、ずらりと隊列を組んでいる。
……いや、よく見れば冒険者然とした奴等もたくさん交ざっている。
フォルターは、一瞬、足元に倒れた青年を見た。
ぼろぼろになった彼は、既に意識を手放している。
「うっわー、やってくれるね。お兄さん……」
どうして、あんな集団がいるのか全くわからなかった。
ラナンクロスト王都からは遠く、かつ今日の朝の情報ではあんな集団のことは報告に無かったのだ。
先頭の男が、剣を掲げる。
「鬨の声を上げよ!」
『おおおおおおおーーーー』
呼応して響く、太い雄叫び。
人数的には負けてないはずだ。
けど、勢いが違いすぎる。
尚且つ、先頭の銀髪。
あいつはやばい。
閃光のシュヴァリエ。
ラナンクロストの守護神たる存在とまで言われる化け物だ。
フォルターは馬に跨がると、足元のハルトに苦笑を投げ掛けてから踵を返す。
全く、お兄さんのせいで何ひとつ上手くいかなかった。
……けど、殺さずに済んでよかったかな。
「逃げられる人はアジト集合ー、つけられないようにねー」
フォルターは指示を飛ばし、自身も、街道から離れて馬を駆った。
******
商業の国、ノクティア王都のギルド長タバナから、ラナンクロスト王都ギルド長ムルジャに魔力結晶収集についての連絡が入ったのは、白薔薇がノクティア王都を発ってすぐだ。
その段階で、ムルジャは動いた。
まずは冒険者であり次期王国騎士団長のシュヴァリエを呼んだ。
魔力結晶を集めることで動き出す懸念がある集団のことを、早々に話しておく。
その甲斐あって、ヴァイス帝国帝都で不穏な動きが出ていることを、ラナンクロスト王都……つまり王家は早い段階で察していた。
「白薔薇が巻き込まれる可能性は高そうね。好きにしていいわ、シュヴァリエ」
ルクア姫の投げやりなひと言に、シュヴァリエは笑った。
城の一室、侍女達が後ろに控えている中、白薔薇に依頼をした張本人はゆったりと椅子に腰掛け、お茶を飲んだ。
「助けてやれとは言えないのですか?姫」
「私はいち冒険者に肩入れすると怒られる存在よ?」
「完遂のカルーアにあれだけ肩入れしていてよく言いますね」
「あら、貴方のお気に入りには負けるわ?」
「ふ」
シュヴァリエは笑みをこぼすと、優雅に一礼して、姫の前から離れる。
とりあえず、丁度良いから弟を派遣することにした。
弟に逆鱗のはどんな反応をするだろうか。
想像すると、笑いが込み上げた。
「さて、忙しくなる」
こうして、シュヴァリエ率いる一団が、国境の街フルリネの1つ手前、林業で生計を立てる街に少人数ずつ何回かに分けて移動する事となった。
何も無ければそれで良い。
けれど、シュヴァリエの勘は、何かが起こると告げていた。
******
…………身体中が重い。
瞼を上げることすら、億劫だ。
このまま眠っていたい。
何でこんなに疲れてるんだっけ…。
確か、走ってて…。
「……っ!」
飛び起きた。
掛けられていたシーツが落ちる。
何処かの部屋…?
丸太を組んで造った小屋の中にいるようで、窓からは光が射し込んでいた。
部屋にあるのは小さなテーブルと俺のいるベッド、チェストの上には一輪挿し。
ピンク色の可愛い花が挿してある。
「……」
俺が地面に叩きつけられる直前、ちかちかと瞬いた光は確かにシュヴァリエの持つロングソードが太陽の光を反射させたものだった。
幸運だーとかなんとか、言われたような気もする。
その後の記憶は急速にフェードアウトしていた。
「……」
腕をそっと持ち上げると、怠さは酷いものの、内出血は何処にも見当たらない。
土の塊がぶち当たった横っ腹も、上着を捲ってみたけど綺麗な肌色を晒すだけだ。
誰か回復してくれたのか……?
シュヴァリエがいたんだ、思い当たる奴はいる。
ボーザックをゴツくしたようなとげとげしい杖の…。
「!」
俺はそこまで考えて、慌ててベッドから立ち上がった。
装備は外されて、ベッドの横に置かれている。
急いで革鎧を纏い、双剣とバックポーチを装着し、部屋を飛び出す。
……頭上から太陽が見下ろしていた。
自分が動けるってことは、少なくともバフが切れてから半日は経っているはずで。
そして半日なら夜のはずだから、つまり外が明るいってことは夜が明けて次の日ってことになる。
ぐるりと見渡すと、木で出来た家々が並んでいて、背中側に山脈、正面には丘陵地帯が見えた。
……ってことは、ここは国境の街フルリネか?
ディティア達が到着するまではもう少しかかるはず。
でも、もしかしたら、グラン達は?
人はちらほらと歩いているけど、皆一様に不安そうな顔をしていて、それが俺にも伝染する。
何だ?この暗い感じ……。
すると。
「おお、起きたかー逆鱗の」
太い声が俺を呼んだ。
「……アイザック?」
振り返ると、小屋の向こうからゴツい袖無しの黒ローブ男が出てきた。
「おおよ。……どうだ、身体は?変なところは無いか?」
「やっぱ治してくれたのアイザックだったんだ。助かった。……俺は大丈夫だけど……ええと」
きょろきょろしてみせると、アイザックは眉をひそめた。
「……お前、まさか、他のメンバーが何処にいるかわからねぇのか?」
「………」
鋭い。
俺は一瞬考えたけど、素直に頷いた。
「ディティアは後から来る。でも、他の3人は……」
「おい、一体何があった?」
「それは…」
言い掛けて、俺は言葉を変えた。
「とりあえず、馬と馬車を借りられないか?話は移動しながらさせてくれ。……不本意だけど、あいつ何処にいる?」
アイザックはその答えに苦笑すると、顎で後ろを示した。
「こっちだ」
本日分……ちょっと過ぎてるΣ
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