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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ

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121/847

鬨の声を上げますか。⑤

「ちょろちょろしないでよお兄さん」

「うるさい、こっちだって必死なんだよ!」


フォルターは呆れたように声を上げ、俺は怒鳴り返した。

持久力アップを速度アップに変えたせいで、疲れが滲む。


……長くは戦えない、隙を見て突破しないと……。


ちらりと窺う。

集団までの距離は、少し縮まっていた。


フォルターの気を逸らさないと。


「ふっ」

フォルターが短く息を吐いて、短剣を振るう。

「おわっ」

俺は背中を仰け反らせて避けた。


あ、危なっ……!


「っおい、フォルター!」

「え、ちょっと何?普通このタイミングで話し掛けてくる?」

「お互い様だろ!今の当たってたら、俺死んじゃうかもしれないけど、それは困らないのか!?」

「え?……あー、そっか。捕まえるんだった…。まあ、ほら。白薔薇、後4人いるじゃん」

「ふん、他の皆は俺より強いから、後悔するぞ」

「それは自分で言う台詞かなあ…」

「いいんだよっ、捕まるつもりもないしな!」

フォルターは馬上で呆れた顔をした。

「なんか……憎めないお兄さんだねぇ」

「お互い様だろ」

ふんと鼻を鳴らす。


話しながら、弧を描いてじりじりと集団へ寄った俺は、フォルターの出方を窺う。

フォルターもまた、俺の出方を窺っているようだ。


……ここまでか。


「……速度アップ」

「……ん?お兄さんお得意のバフ?」

フォルターが、首を傾げる。

これで、四重。


「速度アップ」

五重。


これが切れないように保たねばならない。

切れた瞬間、俺は糸が切れた人形みたいに動けなくなるはずだ。


「そう、俺はバッファーだから」


俺は後ろに跳ねると、一気に踵を返し、集団に向かって走りだした。

「うぇっ!?ちょ、はやっ……」

背中にフォルターの声が届いて、離れていく。


「五感アップ!五感アップ!五感アップ!!」

走り寄りながら、バフを広げ、集団に範囲で重ねていく。


「五感アップ!五感アップ!!」


メイジ部隊が焦ったように杖を掲げ……。


「おおおおおっ!!」


遅いっ!!


俺は彼等の懐に飛び入った。



ボボンッ!!



『うあぁっ!?』


後方で炸裂する魔法の音に、恐らくは何人かの聴力を奪うことが出来た。

運悪く魔法を直視していたなら、光で視力もしばらくは使えないかもしれない。


「五感アップ、五感アップッ!」

がっ、ごっ!!


バフをかけ、周りにいる奴等の耳元や顎を容赦なく殴りながら、真ん中を駆け抜ける。


悶絶する奴等を尻目に、俺はとうとう集団から抜け出した。

正面には街が小さく見える。


後は、走るだけ…!!


「はっ、は……!!」


持ってくれ、俺のスタミナ!!


俺は息を切らせながら、走った。


速度アップ五重にもなれば、相当速い。

あの、疾風並みの速さを常に保てることは、かなりのアドバンテージ。

それでも、馬の全力より速くなければ意味が無い。


だから、全力で走る。


「く、はぁっ、は…!」


思いの外、体力が限界に近かった。


「もー!街まで行かれるのは困るんだよね!…ごめんお兄さん!!」


馬の足音が離れたところから聞こえる。

フォルターが追ってきているのが声でわかる。


……っ!!


俺は、謝るフォルターに戦慄を覚えた。


何か仕掛けてくる……!


「っ、肉体硬化っ!肉体硬化、肉体硬化、肉体硬化ッ!」

咄嗟にバフを書き換え、肉体硬化を四重まで捲したてる。


「肉体こう……ッ」


瞬間……。


グオォッ!!


足元の地面がせり上がった。


「化!!」


五重。

かかるかかからないか、俺は腕を交差して身体を丸めた。



ゴッ……ガコォッ!!!



せり上がった場所から突き出してきた、円筒形の塊。

土をがっちがちに固めたそれは、俺に直撃した。


「ぐっ……あッ!」


ミシミシと身体中が軋む。

吹っ飛ばされ、地面に叩きつけられて、俺は無様にゴロゴロと転がった。


「っ、は」

息が詰まる。


口の中に、鉄の味。


何とか起き上がろうと、両腕を支えにする。

……折れては、いなそうだ。


いくら肉体を硬化したって、痛いもんは痛い。

直撃を受けた腕が、みるみる内出血で変色する。


「はあ、はぁっ」

くそ、いてぇ。


何とか、片膝を立てた。


まだ、だめだ。

止まれない。

逃げないと。


「ふっ、っつあぁー!!」


叫んで、足を地面に叩きつけるようにして立ち上がる。


口元を拭うと、土まみれになった手に、鮮血が滲んだ。


「嘘でしょ、結構、死んじゃうくらいの魔法ぶっ放したんだけど……」

そこに、パカリ、パカリと蹄の音。


フォルターが、困惑した顔で見下ろしていた。


「くっそ、お前、メイジかよ」

思わず悪態をつく。


逃げ出すタイミングを、はかれ。

いや、今すぐ逃げろ。


頭の中はごちゃごちゃで、身体中が鈍く痛む。


「いや、お兄さんこそ……どんなバフ使ったら立ち上がれるのさ」

「は、ふーっ、ふ、はあっ、満身創痍だよッ……けど、まだ…!」

思いの外ふらつく足元を、踏ん張る。

走り出せ。

……走れっ!


「ちょ、そんな無理しないでよ…もう良くない?」

「良くない!」


「…お兄さん…仕方ないなぁ。痛いけど、我慢してよね」

「っ」


ゴッ!!


突き上げる、土の塊。


身を捻ったけど、塊は俺の横腹を容赦なく打ち付けた。

「ぐうっ」


再び、転がる。


折れてはいない。

たぶん、内臓も大丈夫だ。


けど、俺はせり上がる胃液を吐き出して、咽せた。


「がはっ、げほっ、…うう、ぐ」

それでも、立ち上がる。

マヒったのか、痛みが遠のいている。


「お、お願いだから……」

「そんな、こと、言われても…な」


よろよろと歩き出したところで、三撃目。


もう痛みも衝撃もよくわからない中、跳ね飛ばされた空。

ちかちかと瞬く光に、意識が奪われる。


……どかあっ!


続け様に、落下。

仰向けに叩きつけられて、青い空が見える。


「っ、ふ、は、はは」


思わず、笑った。 


「え、な、何?頭おかしくなっちゃった??も、もういいでしょ。流石に、こういう嬲るみたいなやり方は、オレ、好きじゃないよ??」

笑い出す俺を、覗き込むフォルター。

彼は、とうとう馬から下りて近くにしゃがみ込んだ。


「いや、ははっ、あー、俺さあ、運悪ぃなあって、はははっ」


本当、笑える。


「え?どういう……」


『はははっ、それは違うな。君はどうやら最高に幸運だ!逆鱗の!』


「……は?」

顔を上げる、フォルター。


こだまする、無駄に明るく爽やかな声。


俺は、薄れる意識に抗って、ありったけの声を上げた。


「くそーっ!やっぱ嫌味な奴だな!!」


場違いな爽やかな空気が、鼻先を掠めていった。



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