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逆鱗のハルト  作者:
逆鱗のハルトⅠ
12/844

大きな依頼、受けませんか。②

今日2話目になります。

毎日更新中です。


「それでは、この書面を王都のギルドに提出してください。こちらが支度金、これが簡易食糧パックです」


ギルド員から荷物をもらって、次の日に立つことにした。

応急処置の道具を買い足して、野宿に使う折り畳みの鍋を新調。

雨の日に被るポンチョも、より動きやすいものに変えることにする。

旅の準備は万端だ。


夜、夕食の後で俺は双剣を磨いていた。

まだ新しいのに、だいぶ手に馴染んでいる。

…ディティアが選んだだけあるなあ。

月にかざすと、鈍く光って見えた。

「ハルト君、武器の手入れ?」

ディティアが後ろから手元を覗き込んでくる。

丁度いいや、チェックしてもらおう。

「そう。ディティア、双剣の磨きのチェックお願い出来るかな」

「ふふー、実はそれが気になって見に来たんだよ」

わー。

そうだった、ディティアの双剣愛に勝てるわけがなかった。

ディティアは剣を受け取ると、月にかざすようにして刃先、刀身をじっと見つめた。

時にはそっと爪をあてる。

「……」

その真剣な姿に、少し見とれた。

ディティアは、疾風の2つ名を普段は感じさせない。

けど、双剣を見る眼差しは鋭く、なんていうか彼女がとても強いと感じるのに充分なほどだったんだ。

…そっか、彼の有名な、疾風のディティア。

彼女が、こんなに近くにいるんだ。

「…ここの部分に、まだ…ひゃっ」

手を伸ばしたら届く距離。

俺は双剣を握る彼女の手に、触れた。

「えっ、ど、どど、どうしたのっ」

「疾風のディティアが触れる距離にいるっていう実感を得たところ」

「ん、んん?よく分からないけど…いるよ?」

一瞬、照れたのか慌てた彼女は、すぐに不思議そうな顔になって眉をひそめる。

エメラルドグリーンの眼が月に映え、宝石みたいだ。

「ちなみに、逆鱗のハルト君もすごーく近くにいるね」

「俺の名前なんて、ディティアに比べたらまだまだ」

「ふふっ、その名前、もう認めてるんだ」

「うっ、それを言われると辛いんだけどなー」

俺は手を離し、笑った。

「時間の問題だって、私は思ってるよ、ハルト君」

ディティアもそう言って笑ってくれる。


そして。


「さあ、じゃあここ見てハルト君。磨きが足りないよ!」

「うっ、わ、わかった…」

俺はそこからディティアの指南を受け、双剣を隅々まで磨き直すことになった。


******


「行ったよグラン」

「おう、任せと……けっ!!」

ドカアッ!

凄まじい音と共に魔物が吹っ飛んだ。

60センチくらいの、鱗状の外皮を持つ鼠みたいな奴で、前歯に毒がある。

そこさえ気を付ければ初心者でも相手が出来る魔物だった。

武器と防具を新調して初めての戦闘だったけど、ほんの肩慣らし程度にしかならない。


王都と主要都市の間には馬車が走っている。

そのため、王都を経由して目的の街に行くことで時間短縮になる場合もあった。

しかし俺達冒険者は基本的に依頼をこなしながら移動することが多く、馬車は使っても途中下車になることが多い。

しかも途中下車であっても運賃は終点までと変わらないので、余程余裕が無ければまず使わない…それが馬車だった。

今回は、懐に余裕がかなーりあるし、目的地も王都だったので、快適な馬車旅…のはずだったけど、魔物の巣に出くわしてしまった…これが現状である。

道を跨いで巣を作ってしまっていて、見過ごすわけにいかなかったのだ。


「はい、最後ぉっ!」

ボーザックの一撃で魔物を仕留めきる。

巣を処理して、俺達は馬車に戻った。

御者からは御礼を言われたけど、運んでもらってるから当然だし、気にしないでって伝えておく。

こういう、旅での一期一会も悪くない。

据え付けられた椅子に座って、馬車旅は再開。

俺達はさっきの、ある意味「初戦」について話すことにした。

「俺の大盾は、そうだな、重量は変えなかったんだが、硬いぞ…多少の魔法であればこの盾だけで防げるはずだ」

「へえ、重さ変えないとか出来たのか?」

「ああ。金属の芯を入れてある。それで重さを調整してるんだ。軽すぎると衝撃が減るからな」

はー、なるほど。

鍛冶士ってそんなことも出来るのか…。

腕を組んで感心していると、ボーザックがにこにこしながら話し出した。

「俺のは純粋に角の芯部分の骨だけで造ってもらったからめちゃくちゃ軽いよ!羽みたいだ。けど切れ味抜群、今なら、飛龍タイラントの尻尾も切り落とせる気がするよ」

「まあ、タイラントの骨だしなぁ…」

「ハルト、こういう時は素直にすげぇ!って感心してくれたらいいんだよ」

ぴしゃりと言い放つボーザック。

俺は笑って悪い悪いと応えた。

「全然悪いと思ってないよね…」

「ファルーアは魔法使わなかったな」

「うわあ、しかもスルーだあ」

ファルーアは小さく笑みを浮かべて杖をゆらした。

「ええ、あれじゃあ練習にもならないわよ。それならグランとボーザックに譲ろうかと思って」

しれっと答えたけど、ファルーアは絶対に面倒だったんだと思うな、俺。

隣でグランが苦笑している。

「まあ、これから大きな依頼も出来そうだし、どこかのタイミングで試しとけよ?火の玉デカくなりすぎて巻き込まれるとか嫌だからな」

「ふふ、肝に銘じておくわ」

「そういえばハルト君バフしなかったね」

「うん。新しい武器だし、通常の状態で試すのがいいと思ったからさ」

そっかーとディティアが頷いていると、ファルーアが鼻で笑った。

「双剣すら抜かずに眺めてたけどね」

「え……ハルト君戦ってなかったの!?」

「何かあればバフしようと思ってたからさ」

「もー!」

平和な馬車旅は、続く。


王都までは鍛冶士の街ニブルカルブから毎日7時間~8時間の馬車旅で1週間程。

同じ距離を歩くとその4~5倍はかかるので、馬車の有り難みときたら。

運賃は高いけど。

もし海都オルドーアから鍛冶士の街ニブルカルブに馬車が出ていたら、やはり1週間程のはずだ。

いつかは道が整備されて、街同士も繋がったらいいよな。

あと、運賃も安くしてほしい。


そんな馬車旅で、俺は新しいバフを練習することにした。

依頼の遺跡調査ではレイスが出るって話だし、それなら浄化のバフがあれば楽だなーと思ったからだ。

バックポーチから取り出したのは片手サイズのぼろぼろになった本。

表紙の端は劣化して破れかけて、上から何度も補強したりした。

それだけ、長いこと使ってきた本なのだ。

「……」

各々、寝ていたり外を眺めていたりするので、お構いなしに開く。

何度も見てきた本だから、目次を見なくてもどの辺に目当てがあるかわかっていた。


浄化のバフ

己の中の、主に精神強化系の魔力を使い付与するバフ。

初歩である威力アップ、持久力アップと、肉体強化系の中級である光の加護を合わせて発動出来る。

発動後はうっすらと銀色に発光。

紅かったり蒼かったりすると別のバフまたはデバフになっている可能性があるため早急に除去すること。

魔力の組み方としては……


ページを開き、ざっと読む。

そう、この本はバフの初歩から上級までの有名なものを網羅したバッファーの教科書とも言うべき存在だ。

自分のバフが重ねられると気付いた時、貯めていたお小遣いの殆どを使って購入した。

なんていうか、ざっくりとした発動方法と、コツみたいなの、それからどうやって効果を確認するのかが載っていて、俺にはわかりやすかったんだよな。

他のバッファーのを見せてもらったことがあるけど、図みたいなのが多かったり、文字が多すぎたりしてちんぷんかんぷんだったんで、俺にはこれが合ってるみたいだった。


無意識に発動出来るようになるまでは、掌の上で何度も魔力を練る。

これだっていう塊が出来たら、今度はそれを常に発動出来るよう繰り返すんだ。

その繰り返しが安定してきたら、自分にかけて効果を確認していくのが俺のやり方である。


ざっくり、今のバフを確認。


肉体強化

筋力、つまり力を上げる。

近接攻撃に有効。


肉体硬化

皮膚を硬化させる。

防御力の底上げ。


反応速度アップ

反射神経を研ぎ澄ます。

急な攻撃や状況に対応しやすくなる。

敵が複数の場合、後衛のファルーアにかけても効果がある。


速度アップ

動きが早くなる。

主に移動速度を上げたいときに使う。

ディティアの場合、速さで攻撃力を補ってるので、有効。


威力アップ

魔法の威力を増大させる。

いつもの魔力で強い一撃を撃てる。


持久力アップ

消費するスタミナが減る。

メイジに使うと魔力消費が抑えられ、魔法を使える回数が増える。


五感アップ

視覚、聴覚、味覚、触覚、嗅覚が鋭くなる。

索敵や旅路の警戒に役立つ。

ひどい臭いがあるときや、戦闘に入った時に使ってしまうと、臭いによる失神、触覚が鋭いことによって痛みが増し気絶するなど問題があるので注意。


使ってるのはこの辺。

属性強化も出来るけど、使いどころはそうそう無い。

この中で、自分なりに発動の力加減を変えて、効果時間が短い代わりに威力が高いバフを使うことが出来る。


…俺、もっとバフの種類を増やさないとかも。

例えば、上級になれば肉体強化、速度アップ、反応速度アップを兼ね備えた全能力アップバフがある。

俺の場合、重ねればいいやと思ってたけど、一気に発動出来るのは時間の短縮にもなるし。

飛龍タイラント戦ではバフが間に合わないタイミングも多かった。

ちなみに上級バフが三重バフと同じ効果かというと試してはいないけど種類の違う3種類なので近いかもしれないな。

そう考えると、普通は上書きしてしまうバフを重ねがけしたくてあみ出されたバフが上級バフなんじゃないだろうか?


お、なんか賢くなった気がする。


あれ、でも待てよ。

そうすると全能力アップバフを重ねがけすると、どうなるんだ?

俺は五重バフの後の激痛を思い出して身震いした。

うん、鍛えよう。

もしかしてグランなら三重しても耐えられるんじゃないか?

…バフも磨こう…。


考えてるうちに、掌の上に練ったバフが形になってきた。

よし、この感じのを安定して作れるように……。

俺は熱心にバフの修得に時間を使った。


皆がそれに気が付いて、生温かく見守ってくれていたのに気付いたのは、その日、馬車が止まった時だった。


なんだよ、なんか話しかけてくれてもいいのに!

真剣だったから、見られてたと思うとちょっと恥ずかしいじゃんか…。


1日1話を目安に毎日更新中です。

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