↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
逆鱗のハルト  作者: 奏
逆鱗のハルトⅠ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
119/852

鬨の声を上げますか。③

ダルアークの気配は無く、時々雨が降ったりして。

既に4日走った。


持久力アップバフを絶やしていない俺は、まだ何とかなりそうだ。


「フェン、クロ、まだ走れそうか?」

黒馬にクロと愛称を付けた俺が言うと、二頭がそれぞれ大丈夫だと言うように鳴いた。


こいつら、タフだなあ。


俺の五感アップには、何の反応も引っかからない。

視力が上がってるとは言え、遠くの畑の中に魔物の影を見たくらい。


ひとりだったら、そりゃもう孤独な旅だったろうなあ。


そもそも、ダルアークの奴等は、俺が走ってることに気付いてるんだろうか。

考えると、俺を襲おうとするとして……どこで?と思い当たる。


付いてきている気配も無い。

前方にいる気配も……ずっと無い。


あるとしたら、国境の辺りか。


国境はラナンクロスト側の街、フルリネが境界となっている。

元々は帝国側の街と2つに別れていたんだけど、街の発展に伴って2つがくっついたらしい。


数十年前にラナンクロスト側として認められ、今もお互いの国の玄関として生活が営まれているそうだ。


……集団が潜むには街はもってこいだし、もし襲われなかったらそれはそれで有難いよな。


ディティア達が無事だといいけど…。


俺は夜を走り、明け方の明るい時間に少しだけ仮眠することを繰り返して進んでいた。

ここまで飛ばしてきたから、国境まではあと2~3日だろう。

そろそろ、まとまった休憩を1度取るべきかもしれない。


「フェン、国境に近付く前に1度交代で休もう。次に小屋があったらちょっと貸してもらおうな」


言うと、フェンが走りながら尾を振った。

だらりと垂れた舌が、フェンの体温の上昇を表している。

ここまで一緒に走ってくれることに、感謝した。


******


良い具合に大きめの小屋を見つけた。

中は農作業の道具や暖炉、仮眠スペースもある。


窓も閉められるし、馬も中に入れるようになっているほど広かった。


俺はそこを宿にすることにして、玄関のそば、影になった場所に座った。


「ふう……」


空はまだ暗い。

これからゆっくりと紺色が水色に塗り代わって、日が昇る頃合いだ。


「先に休むか?フェン」

「わふ」

聞くと、フェンはいやいやをするように首を振る。

俺は頷いて、床に横になった。


……さすがに、どろどろなまま仮眠スペースを借りるのは申し訳ないからな。


本当はお風呂でも、と思うけど、そんな悠長なことも言ってられないし。


バフを消すと、どっと疲れが襲ってくる。

「…ちょっと、無理…しすぎたか」

身体が重い。

俺は目を閉じて、あっという間に意識を手放した。


「3時間…日が昇りきるより早く、起こして…」


ちゃんと呟けたかどうかも、怪しかった。


******


軟らかいような、硬いような、絶妙な堅さの何かが肩を何度も押す。

「ううん……」

今、何時だっけ。

もう朝だっけ?


ぼんやり明るいけど、まだ暗い。

皆も、動き出す気配は無かった。


「もう少し……って」

言いかけて、飛び起きる。


フェンの肉球が、お手みたいな形で止まっていた。


「あ、ああごめん……起こしてくれたのか」

「わふ」


びっくりしたからか、すっかり目が覚める。


「フェンも少し休んでくれ。起きたら飯にしよう」

言うと、彼女はゆっくりと横になり、身体に顔を埋めて動かなくなる。


俺は、この時間に双剣を磨いてしまうことにした。


身体は少しだけ重いけど、すぐさま持久力アップバフをかけてしまう。

五感アップを重ねて耳を澄ませ、神経を集中させたけど、人の気配は無さそうだ。


フェンも、眠る俺の近くで警戒していてくれたんだろうな。


まだまだ、これからだから、踏ん張らないと。


クロも眠っているようだったんで、俺は出来るだけ音を立てないように、慎重に手入れをした。

ディティアに見せても文句ないくらいの出来にしてみたいなあ。


思うところはたくさんある。

それでも、焦らないように、焦らないように。


俺は、貴重な静かな時間を、じっくりと堪能した。


******


国境が見える。

街の影らしきものが、遠くに見て取れた。


「…ここまで来たか」

思わず、声が漏れる。


なだらかな丘陵地帯。

いくつもの緩やかな丘が並び立つ景色は、いつの間にか畑ではなくなっていた。


街の向こうに聳える山脈から、所々に大きな岩が突き立ってこっちまで続いている。


周りは、丘と岩が点在した珍しい景色だった。


「……」

隠れるところは十分。

俺なら、国境の街に辿り着く前、この辺に罠を張るだろうな。


五感アップに持久力アップを重ねていたバフに、更に五感アップを重ねた。


頬を撫でる風さえも、柔らかな人の手のひらのような感触。

まだ遠くの家の形が、なんとなくだけどわかるようになる。


「行くぞ、フェン、クロ」

ここから、あと数時間で辿り着けるだろうか。


そこまでが、勝負だ。


……走りだしてすぐ、気配が動く。


少しだけ前を行く銀色の風が、低くグルル、と鳴いた。

「来たな」


俺は馬上で双剣を抜いた。

磨き上げた刃が、日の光を散らす。


クロはバランスが良く、手を離していても安定感がある走りをしてくれる。


「……反応速度アップ」


五感アップをひとつ消して書き換える。


気配は、じわじわと増えていく。


それなのに姿を見付けることが出来ないのは、敵が強いからなのか。


焦るな、焦るな。

何度も唱えるけど、心臓は早鐘のようだ。


「フェン、頼みがあるんだけど」

冷静を装い、俺は、首から提げた名誉勲章を外した。

少しだけスピードを落として訝しげな顔をするフェンに、名誉勲章を突き出す。

「……街まで走れるな?」

「……がうっ」


悟ってくれたらしい彼女は、名誉勲章を優しく咥えた。


フェンリルは、美しい。

敵の標的になることも十分考えられる。

それでも、俺は彼女を信じ、自分が戦うことに決めたんだ。


「頼んだぞ、フェン」

フェンは名誉勲章を咥えたまま、尾を振って、しっかり前を向く。


「クロ、悪いけど付き合ってくれるか?」

「ぶるる」

賢く凛々しい黒馬も、しっかりと答えてくれる。


「……よし、行けッ!」

俺の声に合わせ、フェンは文字通り風のようにスピードを上げた。

そして、俺はクロのスピードを少し落とす。


出来るだけ街に近付き、かつ敵を引き付けて時間を稼ぐ。

俺の戦いが、始まりを告げた。


本日分の投稿です。

毎日更新しています!


21時から24時を目安にしています。


読んでくれた人が7千人を超えました!

うれしいなー!


皆様どうもありがとうございます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。